40-4.楽しみにはしてても(アインズバック視点)
結局更新w
*・*・*(アインズバック視点)
ようやく終われた。
いや、執務の日々が続くことに変わりはないが、明日だけは違う。
変装するとは言え、別れて16年近く会っていない我が子とようやく対面出来る日だ。
夕食前に一度仮眠を取ろうにも、興奮して寝れなかったため、もう一度風呂に入る事にした。
冷水をわざと浴びても、昂揚感が落ち着くわけもなく。
「明日……いよいよ」
赤子の頃しか共に過ごしていなかった、我が娘と相対出来る。
それが、唯一無二の妃であったアクシアとの忘れ形見であり、生き写しと耳に入れば気分が高ぶらないわけがない。
逆に、己と瓜二つな程似過ぎているバカ息子も当然忘れ形見ではあるものの、共に過ごしてきた時間が長い分感慨深い箇所が違い過ぎる。
将来王位を継承する身とは言っても、王太子の部分を除けば本当に自分によく似過ぎてもいる。
転移を覚えた時から、勉学や執務が苦手でよく抜け出してはいたが、今は少しマシになった程度。
つい先日。親側である俺達が画策してくっつけようとしてたマックスらが、マンシェリーのお陰でようやく結ばれた時に開かれた内輪だけのパーティー。
あれの時も、件の神らしき人物の偵察に行ったものの、特に変化がないと言っていた。
「……それは明日確かめるにしても。ああ……マンシェリー!」
待っててくれ、我が娘よ!
父は……父は。
父とは明かせないが、ようやく会えるのだ!
16年もかけてしまって申し訳ないが!
カイザークの提案とは言え、無茶して良かった!
堂々?と逢いに行けるのだから!
コンコンコン
歓喜に浸っていた時に、俺の声が浴室から漏れてたのか、近侍か誰かがノックしてきた。
どうせもう上がるつもりではいたので、軽く水気を取ってからバスローブを羽織ると。
外にいたのは、近侍でもカイザークでもなかった。
「陛下。いや、兄さん。まだ風呂に入っていたのかい?」
「……デュファン?」
何故こんな刻限に実の弟が?
元実家とは言え、引退しても元公爵。
昔とは違い、そう簡単には帰城出来る身ではないのに。
自分の息子と同じ、俺と同じ王家の証である彩緑の髪と未だに淑女を虜にしそうな深緑の瞳は楽しそうに細めていた。
「爺やには寝てると聞いてたけど。明日ようやく義姉上との娘に会えるから、興奮してしまったのかな?」
「……いつからいた」
「あの大声が聞こえたとこだよ。とりあえず、お茶だけは淹れたから」
何の用だかはわからないが、弟故に無視出来るわけにもいかないので仕方なく部屋に戻った。
夕食前なので茶菓子はないが、相変わらず良い香りの茶を淹れてくれたので心が落ち着く。
「…………相変わらず、美味い。で、明日お前は来る予定ではなかっただろう?」
「息子側の事とは言え、当主は譲ったからね。表向きの公務には一切関わらないよ。そっちじゃないんだ」
「と言うと?」
「我らが計画していた、マックス達の事だよ。エイマーからは一通りの報告はもらったけど、婿殿の予定になるマックスがそれはもうね?」
「……ああ。想像しやすい」
バカ息子にも聞いたが、マンシェリーも相当ショックを受けてた事も。
我らがすぐに承認してれば、もう少し穏やかに進められてたものを、あの子はそれを知らずに動こうとしてた。
が、実際は現アルフガーノ伯爵であるフィーガスが打ち明けた事により、落ち着きを取り戻せてパーティーに発展出来た。
それを、この弟もエイマーからは聞いたのだろう。
俺自身も、あのマックスの性格はそれなりに熟知している。今はこの弟の守護者であるユーシェンシー伯の息子だが、転生者故にそれはもう破天荒な性格であることを。
「けどまあ。兄さんの娘……つまり、私の姪がうまくフォローしてくれたお陰で大事には至らなかったそうだよ。だから、一度礼でも言おうと思ってね」
「わざわざそのためだけに?」
「そう言う口実でもしないと帰ってこれないからさ? 息子に爵位は渡したし、兄さんと違って基本的にのんびり出来るから」
「…………仕事は多少回ってきただろうが」
「それでも、我が息子達に比べたら小鳥の餌のようなものだよ。あれも……本当に身を固められるのかもと思うと嬉しくてね」
「認めた……が認めていない!」
「兄さん、相変わらずめちゃくちゃだね」
茶を飲み干してから卓を叩いても、デュファンには全然応えていないようだ。
「たしかに、守護者としては認めたが。父親としてはまだだ!」
「けど、レクターからの報告でもいい線行ってるみたいだよ? 昔の候補の時と違って、我が息子はどうも本気だ。姫も、あれの見た目以外のところにも惹かれてしまってるようだし、僕らが家族になってもいいじゃない?」
「王家の血脈を固めるのは悪くないが……あの子はまだ成人し立てだ!」
「自分は義姉上と15で婚約したのに?」
「う」
本当に、こいつには口で勝てた試しがない。
アクシアを巡って戦いもしたが、結果的に彼女が選んでくれたのは俺だった。
その後、こいつにも唯一無二に等しい女性となったエディフィアと出会えたことであの無愛想息子が出来上がったわけだが。
「けど、僕と義姉上との約束がこれで果たせそうだね」
俺が息を詰めていると、奴はのほほんとした口調でとんでもないことを言い出した。
「あれと……お前が?」
「うん。姫がまだお腹にいる時にだけどさ? 候補には上がるだろうけど、うちの息子が射止めればもっと家族になれるねーって」
義姉上すっごく喜んでたよ?
と言い張るもんだから、知らなかった俺は……過去の記憶を掘り出しまくった。
『この子を大切にしてくださるのはもちろん、女として愛してくださる殿方のところへと嫁いで欲しいですわ』
と言ってたのを思い出しただけだった。
「まさか……まさか、カイルキアは当時から?」
「うーん。無意識もあるだろうけど、義姉上には僕くらい憧れてたからね? 性別がわかってからは、それはもう無愛想を引っぺがしては、こっちに来るのを楽しみにしてたし」
「……ん、だと」
あのぱっと見朴念仁は!
実は、とうの昔に我が娘に惚れかけていたのか!
羨望の眼差しをその母に向けてたのは周知の事実でも。
娘にまで……やはり、決断は間違っていたのかもしれない。
「兄さん。良いじゃないか? 履き違えてはいないようだし、姫は姫でもちゃんとひとりの女性として見ているんなら。親でも僕らの出る幕じゃあない」
「そうだとしても。ムカつく!」
「まあまあ。僕は、雇い主の父親として近々会いに行く予定ではいたけど」
「結局お前も会うんか!」
「まあ、マックス達の件で詫びを入れに行くのは僕が最適だろう?」
「く……」
たしかに、提案したのはこいつだから詫びを入れに行くのは筋が通っている。
ついでに、ユーシェンシー伯でマックスの父親のフィセルも行くに違いない。
あの無骨者でありながら、感情の起伏が激しいあの男が何か仕出かして欲しくないものだが。
「じゃ、僕はこれで戻らせてもらうよ。明日は頑張ってね?」
「…………」
本当に、言いたい事を言うだけ言って、デュファンは帰って行った。
「……ああああああああ! 言いたくても言えない立場が歯がゆいぃいいいいい!!」
思わず頭を抱えたところでどうにもならないのはわかってはいる。
だが、しかし。
あの弟が辞退したことで、必然的に王になったのは他でもない俺自身。
10年前に終息を迎えた戦争を終わらせた英雄王と謳われていても、俺だってただの人間だ。
感情だってある!
「…………アクシア。俺はどうすればいい」
思わず、私室用の卓にしまってた姿絵を見ても。
絵姿の妻は、ただ俺に微笑んでくれるだけだった。
無理のない範囲で頑張りますですん!
*デュファンの髪色を、息子と同じではなく王家の一族として彩緑にさせました(19/04/10)