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35-4.詰め込まれたデザートタイム

お待たせしましたぁああああ

 仕上げと言っても、切り分けは目の前でやった方がいいので、生クリームを綺麗な器に移しておくだけ。


 だって、綺麗なタルトタタンは綺麗なうちに見てもらいたいから。



「お開きではありませんが、デザートお持ちしました!」


「わぁ〜わぁ〜綺麗!」


「チャロナちゃん、そのデザートはなぁに!?」


「き……綺麗」


「リンゴのタルトタタンと言います。ケーキですね」



 エイマーさん以外の女性陣達からは、当然のように声が上がり。


 一応、女性?の悠花(ゆうか)さんはと言えば、目を輝かせていたけれど、今回はホスト側だから騒いではいなかった。


 とりあえず、大きいテーブルの上に置き。本来なら屋敷の主人であるカイルキア様からだけど。


 今日だけは、女性優先にして欲しいとおっしゃられたので、切り分けて生クリームを添えたら順番に渡していく。



「わぁ〜わぁ〜! 食べるのもったいないよぉー!」



 デザートが大好きなのか、カレリアさんは子供のようにはしゃいでほっぺを赤く染めていた。


 だけどすぐ後ろから、婚約者のフィーガスさんに食え食えとそのほっぺを突かれてたので、私が分けている横でパクっと食べ始めた。



「…………うっわ、うっわぁあ! りんごの周りはとろっとしてるのにちょっとカリカリで。不思議な食感! けど、ケーキの部分も香ばしくて美味しい!」



 よっぽど気に入ってくださったのか、空いてる腕をぶんぶん振っちゃうくらい。


 お気に召したようで何よりだ。


 他の皆さんも……カイルキア様も、美味しいと言ってくださった。



(嬉しい! 良かった……)



 甘いものが得意な人には、きっと気にいると思って作ったけど。


 予想以上の高評価と、カイルキア様の表情の変わりように、幼馴染みの人達は一瞬引いたけどすぐにからかったりして。


 新技能(スキル)の試運転だったにしても、異能(ギフト)名通りに、幸せを運べて良かった。


 さて、私は共感してる場合じゃないので。このチャンスを利用して自分の分とロティの分を取り分けて、厨房の方へ向かおうとしたら。



「おいおい、チャロナ? お前、あんま食ってないじゃん? 作るのも有り難いけど、ちゃんと食えよ!」


「ふごぉ?」


『ご主人様ぁ!』



 ちょっと酔っ払ってるらしいサイラ君に肩を掴まれたと思ったら。


 いきなり、なにかを口に入れられて。


 それを見て、ロティが思わず声を上げてしまった今。


 私の口の中には、切り分けただけのタルトタタンの一部がパンパンに詰められたのだ。




【PTを付与します。



『なんちゃってタルトタタン』



 ・製造1ホール=7500PT

 ・食事1/4ピース=300PT



 レベルUP!

 →7800PT獲得により、レベル30に!




 ナビゲーターシステムの進化が選択出来ます!

 →ナビゲーターシステムとの分離

 →さらなる変換(チェンジ)への進化




 レシピ集にデータ化されました!





 次のレベルUPまであと21550PT




 】




 まずい、やっぱりレベルアップしてしまった。


 意識が遠のいていくが、片隅に残ってしまう意識の中でも、誰もなにも叫ばない。


 手に持ってるお皿も落ちる感じがしないのは、何故?


 あれ?




『───────……一応、間に合ったと言うべきかの?』



 頭に響いてくる、おじいさんのような話し方だけど、声が若い。


 誰?、と唯一動く目だけで探してみると、いつ来たのか目の前にはフィルドさんが立っていた。



『儂の声が聴こえておるか? まあ、そちのレベルアップ操作が終われば忘れてしまうがの?』


(…………フィルド、さん?)


『意識は飛ばせるか。よいよい、無理に口を使わずとも伝えたい事は届いておる』



 どうして、フィルドさんだけがしゃべってて(おじいさんのような話し方だけど)、他の人は誰も動いていないのか。


 目を動かしていても、近くにいるはずのサイラ君も凍ったように動いていない。


 ロティも、他の誰も。


 まるで、時が止まったかのように。



(…………あなたは、何故動けるのですか?)



 消え去った疑問が、再び蘇ってくる。


 今日突然現れた、この人が何者なのか?


 レイ君の知り合いであり、精霊と通じているのなら人間ではないのかもしれない。


 そんな私の考えまでもが伝わったのか、フィルドさんは綺麗な顔をにっこりと緩めただけ。



『ここでの事はじきに忘れるが……そうさな、直接的に言えば儂は『神』じゃ。我が世界、『虹の世界』を司る主神……つまりは、創造主と呼ばれる者よ』


(かみ……さま……?)



 たしかに、神秘的な美しさではあるとは思ってたけれど。


 まさか、精霊を通り越して神様ご本人が出てくるなんて思いもよらなかったからだ。



『この見た目と口調は、ここでは混同しにくいためじゃよ。儂の本来の姿はなかなかにカッコ良いおじいちゃんじゃぞ? これは仮の姿なのと、訳あって省エネをしとるだけじゃ』


(は……はぁ……?)



 おちゃらけ具合だけは、口調が若い時のフィルドさんとほとんど変わらない。


 訳があって、若い状態でいるらしいが……口調がミスマッチ過ぎます。


 でも、今更変える気は無いのか、からからと笑い出すだけ。



『蒼の世界より引き抜いてきた魂の一つよ。我が妻の与えし異能(ギフト)により、着実に失われた『いにしえの口伝』を再現出来ておるのぉ。あの大災害を引き起こしたのはヒトの子ゆえに、我ら神々がすべてを担うのは通りではないのじゃ』


(あれを……人間が?)



 ロティのナビレベルが一つ上がった時に、垣間見えた過去の映像。


 どのようにして引き起こされたのかも、口伝にはほとんど残っていないくらい月日が経っているからだろうが。


 あれだけ自然すべてが枯渇したのを、全部人間の手で?


 ありえない、と思っても目の前の神様は首を横に振るだけだった。



『事実じゃ。我ら神でも、紙一重の際まで手を貸せぬ。だからこそ、時を見計らって再現を可能に出来る者をこの世界だけでなく、子や孫が司る世界から選出してきた。それが、そちじゃよ。『(あまね) 千里(ちさと)』』。


(じゃあ……私の転生って)


『もちろん、大往生であればそれを機に転生させた。じゃが、そちの死は所謂事故死。あの悠花と言う女子(おなご)とほぼ同時刻に、別々の場所で死した』


(…………そう、ですか)



 死因を直接的に言わないという事は、酷い有り様だったかもしれない。


 憑依ではなく、転生と改めて実感すると。


 もう二度と、元の世界に帰れないのだなと落胆する気持ちになってしまった。



『じゃが、そちが願うなら』



 フィルドさんが私の方指を向け、口にらしき場所をちょんと突いた。



『想う相手がおれど、蒼に帰りたいのであれば。今の異能(ギフト)といにしえの口伝を最高点に達しよ。さすれば、願いは聞き届けよう』


(かえ…………れる……?)



 元いた世界に。


 あの毎日が穏やかに過ごせてたパン屋の生活に。


 一瞬、それはすごい目標じゃないかと思えたが。


 神様は一つ言っていた。


『想う相手がいる状態でも帰りたければ』。


 それはつまり、カイルキア様を諦めるという事。


 その答えに行き着くと、魔灯(あかり)は変わらず部屋を照らしているのに、目の前が暗くなったように感じた。



『その様子じゃと、やはり違うようじゃな? 迷うなら迷え。しかし、どちらにしても。口伝を元どおりにしてくれたら、願いは聞き届けよう。儂と、妻と。一つずつの?』


(…………二つ、も?)



『儂らの勝手で転生させ、好きなようにとは言えどもレシピを再現してくれている。それぐらいの褒美はのぉ?』



 突ついてた指を離すと、またにんまりと笑う。



『さあ、そのためにも進化を選べ。ナビレベルとは別じゃが、儂のオススメとやらでは分離は避けた方がいいかの?』


(…………それ、ほぼ答えじゃないですか)


『ほっほ。美味い馳走と妻への土産を作ってくれたのじゃ。これくらいはの?』



 なら、選ぶまでもない。


 私だけだったら、ロティと変換(チェンジ)の分離を選択しただろうが。


 与えた神様自身が導いてくれるのなら、選ぶしかない。


 けど、手が動かないとステータスを選択出来ないと思っていたら。



【進化を選択します



 ×ナビゲーターシステムとの分離

 →さらなる変換(チェンジ)への進化!



 詳細は、ナビゲーターシステムに直接お伺いください】




『宴は長い。口裏合わせがきくように、意識は少しいじるぞ?』



 天の声と、フィルドさんの声が同時に聞こえてきたら。


 また意識が遠のき、気がついたら口の中が詰め込まれ過ぎて飲み込めない状態になっていたのだ。



「ふご、ふぉ!?」


「あ、やっべ。入れ過ぎた?」


「何をしてるんだ、サイラ!」


『ご主人様ぁあ!』



 詰め込まれるまでの記憶が少しあやふやだったけど。


 たしかに、レベルアップの声も聞いた気がしたのに。


 何も起きる事なく、それからデザートタイムを楽しむ事になったのだった。


 詰め込まれても、自画自賛したいくらいケーキは美味しかったです。

では、また明日!


ひょっとしたら、残業になるので遅れるかもしれません!

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