35-2.その頃の執務室(レクター視点)
お待たせしましたぁあああ
*・*・*(レクター視点)
本当は。
本当は、パーティー開始から参加したかったのに。
明日もう少し余裕を持って仕事したいから、多少は仕方ないにしても。
僕もだけど、シュライゼン様までカイルの執務に巻き込まれている。
なんで?
「(づ ̄ ³ ̄)づブーブー。パーティーなんだから、仕事くらい軽く切り上げればいいじゃんか〜」
「……誰のせいだと思っている?」
「((;゜Д゜)ガクガクブルブル」
誰のせいでもないわけじゃないが、主犯と言われたらシュライゼン様に矛先が行くだろう。
正確には、彼の父親である陛下であらせられるが。
「まあまあ、もう少しで目処が立つし。カイルもその辺にしておきなよ。ひとまず紅茶淹れてくるから」
「俺砂糖多めー!」
「手を動かせ」
「キャウン(∪・ω・)」
シュライゼン様の方も王宮で結構仕事されてきたはずなのに、従兄弟同士だから容赦がない。
ある意味、いつもどおりの光景だけど。カイルの方はそこそこ苛立っているのはよくわかった。
おそらく、チャロナちゃんが作られたパーティーメニューが気になって気になって仕方がないから。
昼ご飯前に、少しアレンジしたそれを試食してきたんで、余計に期待しまくってるはず。
だもんで、苛立ちが半端ない。
紅茶を淹れる最中、ちょっとだけ逃げてきたけど。カイルが、シュライゼン様に八つ当たりする頻度が増えてきたので急いで戻るよ?
「まあ、あと少しなんだから。はい、紅茶」
「…………ああ」
でも、僕が紅茶を渡してもあんまり苛立ちは落ち着いていない。
手元の書簡はあと少しだけど、これは本格的に急いだ方がいいかも。
主に、僕の胃痛軽減のために!
「レクター、俺もぉ〜」
「あ、はい。どうぞ」
シュライゼン様が見てるのは、最終的に彼が目を通すだけで済むやつだけ。
が、これがあるないだけでもだいぶ手間は省けるし、返却された場合の書簡を見る必要性も減る。
僕は整理しか出来ないけど、その持っていく書簡が減るだけでも大助かりだ。
「あ〜〜、早く行きたい行きたい!」
「だったら、手を動かせ。目を使え」
「うーうー、けど。俺達の分は取ってくれてても。幼馴染み達の祝いの席なんだぞ? 俺達もある意味主賓じゃないか!」
「今日は、姫の提案だ。もともとは、エピア……もうひと組の祝いだけのつもりだったそうだからな」
「ああ、あの前髪切ったばかりの女の子。ほーほー、誰が射止めたんだい?」
シュライゼン様は、まったくではないんだがこの屋敷の使用人達とも仲が良い。
けれど、もともと極度の恥ずかしがり屋だったエピアとはそう交流が多くなかった。
「ちょうど祝われているエイマー先輩の親戚の子ですよ。エスメラルダさんの下で働いてる同じくらいの男の子」
「ってことは……サイラ? ふむふむ、あれだけ可愛い子をよく射止めたものだ」
「もともと相思相愛だったようですよ」
年が近い、必要以上に仲が良いと自然と惹かれ合うのも無理はない。
僕にはそう言う相手がいないから、ちょっと羨ましく、ちょっと微笑ましく思えた。
「それは良いことなんだぞ! カイルと我が妹の方も時間の問題だし、次は正式な婚約発表まで行きたいところだ!」
「……俺の方は」
「けど、姫様。なんだかんだ自覚しちゃってたでしょ? あの時の表情見て、君堪えてたじゃないか?」
「…………」
「なんだいなんだい、それは?」
「実はですね」
シュライゼン様が乱入してくる少し前。
僕もだけど、少しびっくりしちゃった。
誰に助言されたかはわからないけれど、姫様はカイルに対する想いを諦めるどころか。
好きでいたい!って、全身で表すくらい顔を蕩けさせていたのだ。
それらを説明すると、シュライゼン様は頬を赤くしながら腕を振り出した。
「いい傾向じゃないか! なんだかんだで父上も認めてくれてるし。カイル、いつ言うんだい?」
「……………………いや、まだ」
「なんでなんだよ!」
「ちょっと無理ありますしねー?」
告白だなんて、ほんのちょっと自覚しただけのカイルには、少し酷だ。
第三者から見ればわかる範囲でも、本人にとってはまだ淡い想いにも近い。
敬愛していた亡き王妃様の生き写しであり、形見の姫様だからこそって思いもあるが。
ただ一人の女性、ってところから見るとどうしていいのかもわからないみたい。
なにせ、ずっと陛下の勅命で探してた相手だったから。
「どう見ても、お互いお似合いなんだからくっつけばいいのに!」
「……お前、実の兄なのにそれでいいのか?」
「全然いいんだぞ? 妹が想う相手があの時の婚約者候補の一人だったのと、今はほぼ正式だし」
「そうじゃなく……」
「まあ、好きな者同士が結ばれた方がいいなだけさ? 一日も早くとも思うのは本音だけど」
「急かすな。まだ彼女に比べたら、俺の方が迷っている」
「ちぇー」
たしかに、僕も確認はしちゃったけど。
どうも、カイルの方は恋愛感情の自覚が人一倍薄い。
誰もが羨む程の見た目をしてても。
社交界にはよっぽどじゃなきゃ出向かないし、誰とも踊らない。出来るだけ挨拶したら、さっさと帰るだけだ。
あと、いくら美しいご令嬢方が近寄ってきても。本当に興味なしと目線を合わせないのも、定着してるくらい。
女性の扱いが酷いわけじゃないが、目的があからさま過ぎる女性限定だ。
なのに、姫様には一切ってくらいそんな対応をしていない。
それは、『マンシェリー王女』だからかもあるが。
裏表のない、素直な内面に惹かれたからもあるのだろう。
でなければ、必要最低限の会話しかしないカイルなのに。
第三者の僕ですら気づくくらい、積極的に話してるからね?
「とりあえず、急ぐぞ。フィーにももう一度文句は言いたい」
「カレリアも来てるんだっけ? 俺も久しぶりに挨拶したいんだぞ!」
「では、手を動かせ」
「はーい」
これ以上、恋関連の話をしたくないのか執務に戻ったが。
すぐに、シュライゼン様が口を開いたのだ。
「父上、相当参ってたんだぞ。例の青年じゃなく、マンシェリーの方で」
「? 何がだ?」
「マックスのために色々動こうとしてた事についてなんだぞ。ショックを受けてることを伝えたら、それはもう面白いくらいに慌てて!」
「「ああ……」」
想像に難くない。
愛娘を、ある意味失望させるような行為をしてしまったんだ。
実際は解決出来てても、その過去は変えられないからね?
「その後に、あの神の名をすっぱり綺麗に忘れてしまったんだが。君達も?」
「ああ、全然だ」
この中だと、僕だけしかちらりと見てきていない、あの金の髪の美青年。
少し、シュライゼン様に重なるように見える彼は、一体何者なのか?
疑問は尽きないが、とりあえず目処がついてから僕達は部屋を後にし。
会場である食堂に向かうと、近づくにつれ扉を開けてもいないのにいい匂いにお腹が減ってきたのだ。
では、また明日!