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33-2.自覚した想い

今日は早めに






 *・*・*








 無限∞収納棚に、レクター先生の分も追加して入れてから厨房を出た。


 先生は本来なら治癒魔法を使うお医者さんだけど、ほぼほぼカイルキア様の近侍?ってくらいにお仕事を手伝われてるらしく。


 だから、比較的医務室よりもカイルキア様の執務室にいる事が多いみたい。


 それはもう部下さんじゃ?と思っても、ご本人が言うには違うみたいだけど。


 カイルキア様には、まだ直属の部下さんが執事さん以外少ないので、自然な流れとは言ってたが。いい事じゃないんだろうか?


 とりあえず、ささっと行ってパンの説明をしてから仕事に戻ろうと思ってると。


 階段を上がる直前に、誰かに思いっきり腕を掴まれた。



『待ってくだせぇ、チャロナはん!』


「わ、れ、レイ君……?」



 思いっきり息が切れてる彼にびっくりもしたけど、予想以上に強く掴まれたのにもびっくりして。


 急な事だったので、とにかくびっくりし過ぎたけど。階段上る前でよかった。数段上がってたら、絶対転けるで済まない案件ものだ。



『すまねぇ……でやんす。けど、先にどーしてもお願いしてぇことがありやして』


「私に?」



 フィルドさんの事でまた何か?と思ったけれど。


 彼は私の腕を掴んでた手を離したかと思えば。


 何故か、床の上でいきなり土下座の態勢になってしまった!



『頼みがあるんでやんす、チャロナ=マンシェリーはん!』


「え、ちょっと待って待って!? なんでいきなり土下座? ちょっと起きて!」


『いいや、このままで! あなた様にとって大事なロティについてでやんすから!』


「……………………ロティ?」



 え、あの子について?


 たしかに、大事だし相棒だからそこはそうだけど。


 レイ君が言おうとしてる頼み、って言うのがよくわからない。


 何か、重要な事態でも起きたのかもと私も気を引き締めたんだけど。



『その……率直に言うと、出会った直後から惚れたでやんす! まだあいつに直接は言えやせんが、お側近くにいる事を許してくれやせんか!!』


「…………………………………………え、えぇ?」



 深刻な悩み、とも違っていたが思わず拍子抜けしちゃった。


 精霊が恋愛って言うのは、そちらの事情を詳しく知らないのでわかってはいないんだが。


 まさかまさか、親友(マブダチ)同士の契約精霊が……の展開は予想外で。



『いきなりは承知の上。けど、俺っちの想いは変わりやせん!』


「ま、待って待って……! ロティを、好きになった……の?」


『はい! あの可憐さには、俺っち心を奪われて!』



 まだ二人?が出会って数日程度だし、今までそんな素振りすら見せていなかったのに。


 なんで今日なんだろうか?


 そして、何故私に許可を得ようとしてるのかも。


 変化があったとすれば、だが。


 悠花(ゆうか)さんが好きな人に想いを告げたから?



「悠花さんが何か言ったの?」


『ま、マスターではありやせん。その……おそらく、チャロナはんとさっきまでご一緒だった御人に』


「あ」



 フィルドさんの事、忘れてた。


 すぐ思い当たらなかったのは変だったが、彼とレイ君は古い知り合いらしいのに。


 あのお腹を空かせた前かどこかで、レイ君を焚きつけたかもしれないわけか。


 ただ、実行に移すにもさっきまでは悠花さんに引きずられていってたから。今は、そこから抜けてきたのかもしれない。



『無理は承知でやんす! けど……けど、俺っちは本気で』


「レイ君……」



 泣きそうな声に俯かれては、私も少し困った。


 精霊の恋愛事情について、否定はしないがどう対処していいのかも。


 ましてや、その相手が私の契約精霊だからこそ。


 それに、心とかはあってもあの子は普通の精霊じゃない。


 成長はする存在でも、レイ君の気持ちを受け止められるのかわからないから。



「……レイ君、顔上げて?」



 けど、こちらもこのままにしておくのは良くない。


 焚きつけられたとしても、きっと覚悟してやってきただろうから。


 レイ君は顔を上げると、目尻に涙を堪えていた。



「ロティが大好きなのは、わかったわ。けど、なんで私に? ロティに直接じゃないの?」


『それは……やはり、契約主を通してからと』


「私を通してからじゃないとダメなの?」


『それもありやすが。あいつは、俺っちとは違う状態の精霊。意思はあれど、その大部分をチャロナはんのために尽くしてる。だからこそ、側にいたくても主人の了解を得たいでやんす』



 これは本気の目だ。


 覚悟のある目。


 そして、相手の気持ちを探る目でもある。


 私の一言と動作で答えが決まっているのだと、わかってる目だ。


 だから私も、少し驚いたが冷静になってレイ君の言葉を反芻した。



「…………それだけ、ロティが大事なら」


『はい』


「万が一の時に、あの子を守ってくれるって約束出来るなら。いいわ、側にいてくれる?」


『いいんで……やんすか?』


「そんな目をされてたら、拒否なんて出来ないよ」



 それだけ相手を思いやれるのは羨ましい。


 私は、まだ気持ちが少し不確定だと思ってるから、これから確かめに行こうとしてたけれども。


 今日で、三組目になるかもしれないカップルの成立に出くわすなんて奇跡でしかないもの。あ、レイ君の場合はまだ違う?


 どっちにしても、喜ばしい事だけど。



『じゃ、じゃあ……なんで今いないでやんすか?』


「あ、今変換(チェンジ)してて厨房にいるの。私はカイル様達におやつを出しに行く途中で」


『じゃあ……厨房にお邪魔してていいでやんすかね? もち、手伝うでやんす!』


「うーん、じゃあ。シェトラスさん達の指示は聞いててね?」


『はい!』



 そう返事するなり、彼は一礼してからダッシュで行ってしまった。


 見えなくなるのもあっという間で。恋のチカラは偉大だと思わずにいられない。



「……大好き、かぁ」



 好きだと自覚はしてる。


 けど、本当に心から大好きと思ったらこそばゆく感じる。


 だから、確かめたい。


 私は階段を少し急ぎ足で上り、少し早足でカイルキア様の執務室に向かう。


 扉の前に立ち、緊張していくのを深呼吸で落ち着かせてからノックした。



「チャロナです。八つ時のお菓子をお持ちしました」



 そして、待つ事数秒。


 返事の代わりに、何故か悠花さんが扉を開けてくれた。



「あら、チーちゃん。こっちに来たの?」


「ゆ、悠花さんも?」


「あたしのはちょっと野暮用よ」



 さあ、入ってと手招きしてくれた部屋の中では。


 応接のスペースで少し寛がれてた、カイルキア様とレクター先生がいた。


 私が入ってくるとすぐに振り向いてくれたが。


 ほんの少し、緩んだ口元に。私の胸がキュンと音が鳴った気がして。



(…………ああ、私)



 この人が、本当に好きになってしまったんだ。


 そう、自覚した瞬間だった。



「……茶菓子を持ってきてくれたのか?」


「は、はい! レイ君のお知り合いの方にお作りしたのと同じものですが」



 悠花さんの分も足りるくらい用意はしてたので。


 チョコパンとクリームパン三人分を、収納棚から取り出してお皿に乗せた。



「お、クリームパン! カスタードクリームまで一から手作り?」


「うん、少し冷めた方が美味しいから」


「どう言うクリームだ?」


「食べたらわかるぜ?」



 悠花さんが勧めてから、パンにそのままかぶりついたカイルキア様は。


 また、いつものように少し感動に浸ってるらしく。


 食べきってから次へ。なくなってからは、チョコパンに、と。飲み物を忘れるくらい、召し上がってくださった。



「……これで終わりか」



 そして、特に甘い物好きだからなくなると落胆が激しかった。



「ま、また作りますから!」



 そう言うと、一度目を丸くされてから目尻を緩められた。



「そうか、頼む」



 そして、段々と笑顔になっていくと。


 心臓を鷲掴みされたような感覚になり、立っていられなくなった。


 悠花さんは悠花さんで口笛吹いてるし!



「おっ前、今顔崩れてんぞ?」


「何?」


「あ、なんで戻るのカイル? いい表情だったのに」



 いえ、私の心の安寧のために、それはすぐ引っ込んでよかったです。



「やっほー! あ、チャロナの新しいパンかい!」



 そしてさらに、何故かシュライゼン様までもが魔法で登場され。


 そこから、悠花さんとレクター先生とのパンの取り合い合戦になってしまったのだった。


明日も頑張ります!(`・ω・´)ふんすっ!

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