31-2.神の名を封じる(レイバルス視点)
ちょっとだけ、スターシステムがあります
ピッツァに嘘はない!を読まれてるとわかりますw
*・*・*(レイバルス視点)
ズルズル、ズルズルと引きずられていく。
厨房を出てから、ずっと無言のマスターにそうされるのは仕方がない。
契約精霊が、主であるマスターに隠し事をされてれば、まあマスターの性格だからこうはされて不思議じゃないけども。
とは言え、どこまで引きずっていくんだか。
時々すれ違う屋敷の使用人達からは苦笑いされるし。
俺っち、不憫過ぎるでやんす!
『ま、マスター……どこまで』
一応聞いても、無言の圧力しか返ってこなかったでやんす。
これは、まあ、相当お怒りのご様子だ。
と言っても、創世神であらせられるフィルド様についてどこまで答えていいものか。
あの方からは、特に口止めされていないかつ少し不思議ではあるが。
と、考えているうちに、裏庭の奥の奥。
人気も相当少ない、薄暗い場所まで連れて来られてから、ようやく掴まれてた襟を離してくれた。
『あっ、いて!』
しかも、勢いよく離したので大した受け身も取れず。
尻が、直で地面とぶつかって大変痛かった!
けど、マスターは謝る素ぶりは一切ない代わりに。
「───────……あの野郎は、あんたの何なのよ?」
口調はいつも通りでも、凄味が怖かった。
思わず、背筋に悪寒のようなのが走ったくらいに、怖い。
精霊でも、マスターのような特殊な加護を持つ人間と契約しているため、魔力溜まりにいた時期よりも人間味が増してる俺っちだが。
思わず、ちびりたいくらいの恐怖。逃げ出したくとも、本当の意味では逃げられないので、仕方なく地面の上でそのままあぐらをかいた。
『と、言いやすと……?』
「洗いざらい、と言いたいとこだけど。あんたの知り合いってなると、最低精霊王かなんかであってもおかしくないわね」
『…………』
それどころか、世界を創造された神ご本人と言えば、どんな反応をするのだろうか?
それを見たい半分、あとの介抱が面倒もあって非常に言いにくい。
とは言え、このお人は前世で言う『創造物の宝庫』をぼちぼち理解しているらしいから。
フィルド様が『創世神』と聞いても、あまり驚かないかもしれないでやんすね。
「何? 答えないって事は当たらずとも遠からずってとこ?」
『…………いや、まあ』
「もしくは、魔力溜まりなんかを行き来出来るから『神』?」
『!』
やはり、勘が鋭いと言うかなんと言うか。
俺っちが無言になってただけで答えに行き着くとは。もしくは、既に予想してたのか。
あるいは俺っちの表情にも出てたのか、マスターは俺っちを見た後に、大袈裟過ぎるくらいのため息を吐いた。
「なーんかおかしいと思ったら。って、どの神なのよ、フィルドは?」
けれど、この世界には数多の神々が存在している。
世界を創世されたフィルド様以外にも、上位の神々が星の数ほど。
人間達に、加護を与えるのは必ずしもフィルド様やその番であらせられる女神様ではない。
だから、マスターの質問も最もな事で。
『他言無用でやんすよ?』
「あたしとチーちゃんが転生させられた時点で、ある程度の覚悟はしてるわよ。何? まさか、最高神とか?」
『…………っ!』
もう既に想定してたのか、回答が早い。
やはり、異界……異世界の創造物は凄いでやんす。
料理もそうだが、俺っち達の想像をたやすく越えまくっている。ここは、下手に隠し立てしないように俺っちは音漏れさせないように結界を張った。
「…………この処置をするって事は。どうやら、正解のようね?」
『マスターだからでやんすよ』
「そこはいいけど、何? あたしの様子見に来るって言うのは変過ぎるから、チーちゃんの方?」
『すべては聞いていやせんが、チャロナはんやロティの顔を見に来たとか』
「それにしては、若過ぎる見た目よね……?」
「ほっほっほ。この口調は隠すが、見た目相応がよかろうて?」
『「!?」』
話を進めようとした途端、老成した口調と声がマスターの背後から聞こえてきた。
雷公の異名を持つ、俺っちの結界をすり抜けられるのは今この屋敷にはただお一人。
厨房で何故か手伝いを買って出た創世神のフィルド様だけのはず。
マスターが体をずらせば、たしかにフィルド様の姿がそこにはあった。
だが、若干透けているように見えた。
(こりゃ、分身体……?)
意識を植え付けてはいる、精霊でも俺っち並みじゃなきゃ扱えない高等術。
それ自体は、神であられるフィルド様だから可能は当然でも。
何故、わざと分身させてることを分からせる状態にしたのか。
神ならば、完全なる分裂体でも不思議じゃないのに。
「……何、その口調と声。あんた、本当に最高神?」
「ほっほ。やはり、レイアークの管轄下にある世界の子供らは皆面白い。この世界にうまく溶け込んでおっても、所持してる記憶の欠片達を活かすとは」
「爺さんくさくて、見た目とマッチしてないわよ。本性、それじゃないんでしょ?」
「すまんな、一応孫らがいる身ではあるが。力の大半を世界に預けておるので、いわゆる省エネじゃよ」
「はぁ?」
その事については初耳であるが、力を抑えてるからと思いきや、どこかに預けているらしい。
精霊が神々の事情をすべて把握してるわけではないので、俺っちも少しは驚いたが。
魔力溜まりから離れてまだ10数年程度でも、何があったのか?
確か、溜まりにいた頃は口調相応の見た目ではあったが。
「そちには、だいたいを伝えても構わないが。そっちのレイが言うように他言無用で頼むぞ。特に、チャロナとこの屋敷の主人にはな?」
「……カイルにまで?」
「あれとチャロナが何故……とまで言えばわかるであろう?」
「……テンプレの王道?」
「ほっほ、聡いのぉ」
マスターの言葉については分からないが、だいたいは予想出来る。
フィルド様、それと女神様の『ユリアネス様』が選定されてこの世界に生まれさせた魂。
その依り代、かもしれないセルディアスの王家の姫君。
その本人である、チャロナはんと従兄弟のカイルの旦那とくれば。
引き合わせるくらいなら、神にとって簡単過ぎる事だ。
マスターも気づいたのか、肩を落としていたし。
「ま、いいわよ。二人とも、そうであってもなくてもお似合いだし、好き合っているもの。あたしの方がどーのかは今更聞かないでおくわ」
「ほっほ、そうかえ」
だが、フィルド様は。
いきなり、マスターと間合いを詰めていき。
そして、マスターの顔の前に手をかざした瞬間、マスターがいきなり彼の方に倒れこんでしまった!
『マスター!?』
「慌てるでない、レイバルス。一応の処置をしただけじゃ」
ご自身よりもはるかに体格の良いマスターを軽々と抱き抱えられたが、俺っちには内緒にするようにと人差し指を口元に当てられた。
『……処置?』
「儂が不用心とは言え、真の名を告げてしまって何人かにはバレたしの? 分身体に大部分の意識を移し替えて、今回ってたとこじゃ。それと、『フィルド=リディク=ラフィーネ』の名をしばらく、精霊以外封じる」
『あー……信仰深い人間ですと、知ってますしね』
「であれば、今の会話も消さねばならないて」
明かしはしたものの、最高神であり創世の神である事実は、しばらく封じねばならない。
おそらく、こうおっしゃるのは、時期を待つ意味もあるのだろう。
でなければ、精霊に限定して神名を守る意味がないから。
フィルド様はマスターをそっと地面に寝かせてから、俺っちの結界上部に向かって手を上げた。
「しばし、眠れ。我が神名を水底に落とせ、安らかな眠りにつけ」
一瞬だが、虹のような光の中に包まれる。
その光は、消えたかと思えばフィルド様が上げたままの手の中に集まり。
結界上部に向かったかと思えば、弾けて屋敷の敷地内に散らばって行くように見えた。
おそらく、この光を受けてしまえば。
俺っち……あと、良くてもロティしかフィルド様の正体には気づかないだろう。
「では、また後でな?」
その言葉を告げてから、フィルド様は分身体を俺っちの前から消してしまう。
完全に神気と気配がなくなってから、マスターの方も目を覚ました。
「…………なんで、あたしレイとこんなとこにいるわけ?」
どうやら、ここまで連れてきた記憶もほぼ抜き取られてしまったようだ。
今厨房にいるフィルド様の事を覚えているかは分からないが、あの方が帰るともおっしゃっていないからそこは違うはず。
『俺っちの知り合い、ってのがわからなくて聞き出すのに、連れて来たじゃないでやんすか?』
「あ、そーよ。あのフィルドって奴何? もしかして精霊?」
『そこはノーコメントで』
カマをかけてみたら、見事に違う回答になっていた。
やはり、神のお力と言うかなんと言うか。
世界に何故お力を預けている理由も聞きたいが。
おそらく、俺っちが聞く機会はないだろう。
では、また明日!