31-1.二種類のクリームパン作り
久しぶりに、幸福の錬金術ですん〓■●パタ
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作るものが決まれば、あとは材料集めと作業効率を上げるためのシミュレーションをするのみ。
あと、フィルドさんへ『幸福の錬金術』を屋敷の外で広めないようにとのお約束事をするのも。
パーティーの方のピザについては、今することはないし。こき使ってくれと言われてしまうと断りにくい。
と言うのも、フィルドさんの手先の器用さがシュライゼン様くらいあるから。
正直、お昼のピーク時に、盛り付けを手伝ってもらったら、さささっと、横で見てたのを覚えて腕前を見せてくださり。
あと、お皿洗いも気づいたら終わってたと言う。
なので、メインはシェトラスさんの補助に入っていただくことになった。
私はパンに集中してていいそうなので、夕食の仕込みには加わらない。
けど、隣で作業してるようなものだから、フィルドさんには釘を刺さなくちゃいけないのだ。
「これから見せる、私の異能についてはこの厨房以外に情報を持ち出さないでください」
「うん、わかった!」
真剣に言ったんだけど、持ち前のエンジェルスマイル全開でYESと答えられると、少し拍子抜けしてしまうけど。
多分、先にレイ君からちょっと聞いているのかもしれない。それを加えてでも、聞き分け良過ぎるけれど。
私がもう一度お願いしますと言ったら、何故か指切りさせられ、その後に彼はシェトラスさんのお手伝いに行ってしまった。
普通、異能について興味がないわけないのに。
やっぱり、『普通の人』じゃないから?
神様かもしれないって思うのは、私の過剰な想像かもだけど。
あとで、今レイ君と話してるだろう悠花さんにも聞かなくちゃ。
「じゃ、ロティ。作るよ?」
『あいでふ! 幸福の錬金術〜っ、READY? GO!』
少し久しぶりに聞く掛け声を皮切りにして、いざ!
まずは菓子パン用の生地の仕込み。
材料がバターロールと少し似てるが。配合を変える以外、仕込むところはほとんど一緒。
一瞬、撹拌器の音にフィルドさんが振り返ったけれど、ちょっと口笛を吹いてからまた作業に戻られただけ。
異世界の技術なのに、そんな珍しくなかったのだろうか?
とりあえず、いちいち気にしてたら時間が足りないので。次は、二種類のクリーム作り。
チョコクリームはコロネの時と同じで大丈夫。
ただ、作り終わったら、ここでフィルドさんがこっちにやってきた。
「ねーねー、今のチョコでしょ? パンにどう使うの?」
「えっと、パンの中に入れるんです」
「そんなパンあるんだ?」
「あ、あはは……はい」
誤魔化しきくかなと思ったけど、深くは追求して来ない。
代わりに、なのか。洗う前の鍋に残ってたチョコクリームを指ですくって軽くなめたら。
美味しいと言わんばかりの、蕩けるような表情に。
「美味しい〜〜〜〜、これがパンの中に? 楽しみ〜〜〜〜!」
「あと、別のクリームのパンも作ります」
「うん、ありがとう!」
次に作るのはカスタードクリーム。
その前に、乾燥防止のために使うものをトランクから出した。
銀製器具のアップロードが昨日。何故かレベル19を過ぎてたとわかったら、なってたので。
確認したら、新しい道具に『無限∞ラップフィルム』と言うのが加わってまして。
ほとんど銀製じゃないけど、道具の一つとして加わったそれは。私か許可を出した相手にしか使用出来ない伸縮可能なキッチンラップだった。
見た目は、ごくごく普通の業務用サイズのキッチンラップ。
最初は幅が30cmくらいあったけど。私がイメージすれば50cmにも20cmにもなる優れもの。
そして、容量は私の魔力を微量に注げばいくらでも出てくる!
無限でも、そこが不思議なとこだけど。歯の部分はスチールじゃなくおそらく銀製だからか、収納棚じゃなくトランクの方に入ってたかもしれない。
とにかく、これで乾燥防止のためにガーゼ布をやめて直接乗せることが出来る。
ただ、使うのは私のパン作りのみ。
私に頼り過ぎもよくないからと、シェトラスさんが決められたので。あと、ゴミ処分する必要がなく、私が消えろと言えば消えちゃうチート素材だった。
(まあ、私は構わないけど。今日みたいにお休みがあるとそうもいかないもんね)
適材適所?と言うか、ケースバイケースかも。
チョコクリームにラップをかけて冷蔵庫でも、私専用のパン作り用に購入した、ピザ生地を入れたのと同じ大型冷蔵庫に仕舞う。
まだ私がお屋敷に来てひと月も経っていないけど。パン作りにために、この前のリュシアで購入した業務用だ。今朝届いたんだって。
お値段は目が飛び出るくらいだったけど、私だけでなくシェトラスさん達もいずれ活用する事を思えば、カイルキア様が予算を出さないわけがないって。
お二人の技術はまだまだだけど、いずれそうなれば嬉しい。
そして、もっと多くの人にパン技術を伝えられたら、セルディアス王国だけじゃなく、色んな国の主食事情も変わるだろうから。
カスタードの材料を集めながら、そんなことを思った。
「牛乳、コカトリスの卵黄と全卵。砂糖に薄力粉とコーンスターチ。バニラオイルと無塩のバター」
冒険者時代じゃ手に入れるのが苦労した材料が多いけど、ここじゃ色々作られるから使いたい放題。
かと言って、失敗して無駄にはしたくないから真剣には作りますとも。
「バニラオイルとバター以外の材料をだまにならないようにボウルで混ぜて、鍋に入れて」
ここからが真剣勝負。
弱火で焦がさないように木べらで混ぜていくけど。いきなりクリームが固くなるので、気を緩めない事が重要。
(固まってきたら、だまにならないように一気に練る!)
綺麗に練れてきたら、ここにバニラオイルとバターを加えてよく混ぜ。
綺麗なカスタードのクリーム色になったら、バットに移してこれにも乾燥防止のためにラップを被せる。
粗熱が取れてから、冷蔵庫に。
そして、分割まで時間があるので洗い物に移ろうとしたら、先に取り掛かってたフィルドさんがちょいちょいと指を動かした。
「俺洗っておくからいーよ?」
「けど、まだ次の工程まで時間があるので」
「じゃ、拭くのやってもらっていーい?」
なんだか立場が逆な気もするけど、不思議と嫌じゃない。
フィルドさんの、人柄のお陰だからかもしれないけど。
ひとまず、タイマーが鳴るまではずっと食器を拭いては元のところへと戻す作業を繰り返し。
鳴ってからは、分割にベンチタイム。
そして、いよいよ成形。
チョコパンの方は、生地を伸ばしてからクリームを分けて包むだけ。
仕上げに飾りを入れたいが、チョコペンもないし……乾き過ぎてチョコが落ちる心配があるので却下したのだ。
ざっと30個分出来たら、次はクリームパン。
「丸もいいけど……せっかくだから、あの形にしちゃおうっかな」
日本のクリームパンと言えば、定番の定番。
要は、グローブ型にするだけ。
包み方はそう難しくもない。
大きめに広げた生地に、適量のカスタードを乗せ。
半分に重なるように包んで、とじ目はしっかりと。
仕上げに、分割にも使うスケッパーで、四ヶ所に軽く切り込みを入れるだけ。この時、深過ぎると焼く時にクリームがあふれるので注意。
この二種類を天板に乗せて二次発酵させた後。
卵黄のドリュールを、それぞれ適量刷毛で塗り。
ロティの大容量オーブンで15分程焼けば完成。
「うっわ、うっわ〜〜〜〜! どっちもいい匂いぃいいい!」
「焼き立ては熱過ぎて持てないので、少し冷ましますね」
もう試食したいって願望丸出しだったので、全員で味見する事に。
冷却で適温に冷ましてから、一人に一個は多いので、一個を包丁で切り分けた。
中からは、少し湯気が出てたけどどろっとは出て来ないから成功だ。
「いっただきま〜す!」
『いちゃだきま〜ふ!』
「「「いただきます」」」
さあ、出来栄えはとそれぞれチョコパンやクリームパンを口にすれば?
「あっま〜い! けど、パンと一緒だとちょうどいいね!」
『おいちーでふぅ、ご主人様ぁ〜!』
「これは素晴らしい」
「八つ時の時間にはぴったりかもしれないですね、料理長」
「明日のパンも気になるが、これは要望が増えそうだ」
と、お褒めの言葉をいただいてる間に。
私の方は、天の声からの通知が来てた。
【PTを付与します。
『とろっとクリームパン』
『とろっと、濃厚チョコパン』
・製造各30個=それぞれ500PT
・食事各1/5個=それぞれ25PT
レシピ集にデータ化されました!
次のレベルUPまであと1096PT
】
レベルにはまだ遠かったけど、夜のピザの場合はわからない。
一度、シェトラスさん達にお伝えしてから、次の試食は注意しよう。
それにしても、自画自賛したいくらい美味しく出来て良かった。
「おいくつお持ちになられますか?」
「うーん。全部は悪いし、6個ずつでいいかな?」
「じゃあ、完全に冷めたら箱に入れますけど……」
「俺、収納技能持ってるから。このままでいいよー?」
と言うなり、指を軽く鳴らしただけで。
言った通りの個数分だけ、それぞれのパンが目の前から消えてしまった。
(この人……本当に何者?)
シェトラスさん達も疑問に思っただろうが、普通の収納技能は無詠唱じゃ出来ない。
私だって、自分の収納棚を使うのに掛け声のようなのはいるのに。
やっぱり、普通じゃないから?
今回はスムーズに終わっちゃいました!
明日は、少し用事があるので今日のレシピ回になると思いますノ