27-1.勇気を出して(サイラ視点)
昨日はご心配おかけしました〜((。´・ω・)。´_ _))ペコリ
*・*・*(サイラ視点)
自分でも、不貞腐れ過ぎだとは自覚してる。
「こぉら、サイラ。シャキッとしな!」
ついには、表にまで出過ぎてエスメラルダさんにしょっちゅう叱られる始末。
俺だって、仕事は仕事って割り切りたい。たいんだが!
「あ〜、エピア可愛いよなぁ?」
「あんなに可愛いのに気づかなかったなんてさ〜?」
「なんで前髪で隠してたんだろ〜もったいなかったよなぁ?」
とかなんとか、エピアが顔を出すようになってから。
ここもだけど、他の部署の先輩達がデレデレしてやがんだよ!
「こら! ひとり言してる余裕あんなら、コカトリスの羽根の手入れして来い!」
「「「は、はいぃい!」」」
その度に、エスメラルダさんから叱られるんだけど。
俺も、別の魔物の羽根とか鱗磨きをすべく準備をする事にした。
だけど、胸ん中はむかむかしてて落ち着かなかった。
(エピアの顔……俺だけの秘密だったのにっ!)
いや、本人から最近チャロナには知られてしまったとは聞いたが。同性だし、友達だからそこはいい。
俺が納得いかないのは、この屋敷の使用人の男達に知られた事だ!
まだ告白の返事ももらってないから、俺がとやかく言える立場じゃなくても。
今まで見向きもしなかった男どもが、好きな女をデレデレ見まくるのがいただけない!
おまけに、ここと菜園は連携作業が多いからよく手伝い合うし。今日は、エピア休暇らしいけど。
(そりゃ……エピアが自分の髪をいじくるのは本人の自由だから仕方ないけど)
なんで、俺が告白した直後になんだ?
なんか、きっかけ作っちゃったのか俺?
考えても考えてもわかんね〜〜〜〜!!
俺も休暇だったら、ヌーガスさんに頼んで団欒室に呼ぶのに!
「おや、エピア。随分と可愛らしいかっこしてるじゃないか?」
「ど、どうも……」
幻聴まで聞こえた気がした。
休みの日のはずのエピアがここに来たなんて。
俺、ムカつき過ぎて気疲れしてんのかなぁと思ったら、後ろから誰かに首根っこ掴まれた!
「たーぶん、こいつだろ?」
「あ、は……はい。えっと……」
「え、エピア!?」
幻聴じゃなくて本物!?
しかも、なんか俺に用があるっぽい?
エスメラルダさんに無理矢理引きずられてくと、持ってた器具を奪い取られてそのまま外に放り出されてしまう。
「気が済むまでそいつは貸してやるよ。うちの奴らも締まりのない顔してっから、収まるとこに早く収まんな!」
「へ?」
「お、お借り……します」
エスメラルダさんの言葉に意味がわからないでいると、小さなあったかい手に自分の手を掴まれた。
慌ててそっちを向けば、エピアが頑張って俺の手を引っ張ってた。
「ちょ、エピア!」
「ちょ……ちょっと、来て」
「い、いいい、行く。行くから! とりあえず、手離して!」
「…………ほんと?」
「う」
不安そうな表情で上目遣いってズルい!
それが好きな相手なら尚のこと!
でも、そんな相手に拒否する理由が何もないし、行くと決めたのなら行くしかない。
どこに行くかと聞けば、人気の少ない茂みの方だった。
「…………ここでいい?」
「いい、けど。話……って?」
内容も気になるけど。
彼女の服装とかに、気持ちの方とかが落ち着かない!
(エスメラルダさんも言ってたけど、か、かかか、可愛い!)
服だけは、この間リュシアへ迎えに行った時のワンピースのままだけど。
フワッフワな雰囲気の水色のワンピースなそれに合わせて、髪とかメイクまで綺麗に整えてある。
これ、誰のため?
まさか俺のため?
とか、勘違いしかけたけど……会いに来たのが俺だから、やっぱ俺のため?
なんでわざわざ綺麗な格好で!?
「……………………昨日とか。挨拶してくれなかったり、ちょっと避けてたから」
「……ご、ごめん」
わざとじゃ、なかったんだ。
髪を切った日から、噂が屋敷中に広まって。
女の先輩もだけど、男の方も抜け駆けして見に行こうとしてて。
俺だけがいつも通りに挨拶しようにも、囲まれてて出来なかった。
つか、個人的に。エピアの秘密を晒されて正直面白くなかった。
だから、素っ気ない態度になっちまって。
「…………だから、最初は嫌われたかと……思ったの」
「は? ないないない! 絶対ねーから!!」
俺から告白しておいてなんだけど、絶対それはない!
つか、誤解させまくってたから。今もだけど、あんな不安そうな表情になってたのか!
「あ……りがと。でも、チャロナちゃんと今日話して……ひょっとして、私が髪切ったから…………サイラ君が拗ねたんじゃないのかなって言われて」
「……………………その通りです」
さすがはチャロナ。
こいつの友達になれたのもだけど。実際の俺を見てもないのに、推測する能力が高い。
人見知りしないし、あのマックスさんとも結構仲が良いから、コミュニケーション能力も高い。
おまけに、あんなにも美味いパンや料理を作れるから、エピア自身が仲良くなりたい意欲が湧いて。
そんな彼女が、俺の様子を見ずとも聞くだけで推測出来てもおかしくはない。
と言うか、俺がわかりやす過ぎたのだろう。
「……………………髪、切るの。ダメだった?」
「いや! ダメ……っつーか、そこはお前の自由だし」
「サイラ君に、好きって言ってもらえたからなんだけど」
「へー、そっか。って、俺ぇええ!?」
俺が告白したから、まさか切ったってマジかよ!?
「……うん、嬉しかった。誰かに本当に好きになってもらえるのなんて初めてで。だから……村の女の子達には嫌われてたこの顔にも、ちゃんと向き合おうって」
そう言えば、実はこいつの叔父さんだったラスティさんからもこっそり聞かされてた事があった。
容姿のせいで、村の大抵の女達には疎まれてしまい、居場所がなかった事。
この屋敷の採用試験までは、実質家の手伝いをしてるくらいしかなくて、ラスティさんが試験の事を教えるまで引きこもった生活をしてたとも。
だから、俺は顔を知った時に、余計に守ってやりたいと思えたんだ。
「けど。昨日避けられてたから……ダメだったのかなって。実は、結構落ち込んじゃったの」
「ほんと、ごめん! エピア!」
「いいの。君だけが知ってた秘密を、いきなり晒したらよくなかっただろうから」
「い、いや……俺の方がちょっとでも年上なのに、ガキ臭い事して……悪かった」
「ううん。私も、サイラ君に告白してもらった時に、ちゃんと返事してなかったし」
「へ?」
それはそうだけど、この流れってまさかまさかの?
期待せずにいられなくなって、胸のドキドキが痛いくらいに速くなっていく!
エピアはぽかんとしてるだろう、俺の顔を見ても。
嫌な顔一つせずに、可愛らしい笑顔を向けてくれた。
んでもって、俺の傷だらけの手を嫌がる事なく両手で包み込んでくれた!
「ほんとは……すぐに返事したかった。けど、嬉しくて……恥ずかし過ぎて。すぐ、返せなくてごめんなさい」
そうして、俺との距離を少しだけ詰めてきた。
「サイラ君が、好きなの。顔を知られる前から、サイラ君だけが私に普通に接してくれたのが嬉しくて。知れば知るほど、好きになってた」
「え、エピア…………マジで?」
「うん。大マジ」
聞き返せば、包み込んでた手を握りしめるように力を込めてくれて。
笑顔も、もっと可愛いのを見せてくれたので。俺はもう我慢出来なかった。
好きな女と、実は両想いだってわかったら、もう気持ちが溢れないわけがねーだろ!
「よっっっしゃあああああ!」
「ひゃぁ!?」
これが嬉し過ぎて抱きしめられずにいられるかって!
俺と同じ、外の作業メインなのに白くて柔らかくて。少し化粧の匂いも混じってるが、女の子のいい匂いがした。
これが、俺のモノになるとわかったら、強く抱きしめられずにいられない。
エピアはびっくりして固まってたが、こいつらしいと耳元で思わず笑っちまう。
「ほんとに、ほんとに俺でいいんだな!」
「わ、わ、私……でいいの?」
「俺から告ったんだぞ? いいに決まってる!」
ちょっと名残惜しいけど、少し体を離して顔を覗き込んだら。
やっぱり恥ずかしいのか、耳とか首まで真っ赤っかだった。
(あー……キスしてぇ!)
けど、俺の格好と今絶対臭うからパスしなくちゃなんねー。
俺は貴族じゃねーけど、一応男でも雰囲気は大事にしたい。
恋人になった相手が綺麗にしてんなら、俺も俺でそう言う雰囲気の時くらい、ちゃんと格好は大事にしたいと思える。
「……じゃ、じゃあ……本当にこれからは、恋人同士?」
「当たり前だろ?」
あー、可愛い。もう雰囲気すっ飛ばしてキスしてぇ!
でも、やっぱ我慢我慢。
ここは堪えて、服にも臭いうつりそうだからと、抱きしめるのもやめて。
手だけ恋人繋ぎしてから、二人で話すことにした。
「俺、エスメラルダさんにもだけど。先輩達にも言うから」
「わ、私……ラスティさんもだけど、チャロナちゃんにも」
「あ、そーじゃん。チャロナには一番だよな?」
今から、チャロナに少し報告しに行くのもいいだろう。
エピアにも提案すれば、嬉しそうに首を縦に振ってくれた。
「けど。先にエスメラルダさんには報告してから行こうぜ?」
「うん」
気の済むまで、とは言われてっけど。
一応、心配かけてた上司にもきちんと報告しないとな?
あと、あの人の事だから、先輩達にわざと聞こえるくらいに大声で祝ってくれそーだし。
そう思いながら、厩舎に戻ってエスメラルダさんのとこに向かえば。
「はっはっは! やーっと、かい! ちぃっとばっかし時間かかったが、おめっとさん! サイラ、エピア」
「「ありがとうございます!」」
予想通りに、エスメラルダさんが厩舎中に響き渡るくらいの大声で祝ってくだされば。
奥の方で、『嘘だろ〜〜〜〜!?』とか泣き叫ぶような先輩達の声がしたけど。無視だ無視!
「あ、あの。チャロナちゃんに報告したいんですが、サイラ君と一緒に行ってもいいですか?」
「構いやしないよ。あの子も立派なうちの一員さね。二人で行っといで!」
「「はい!」」
俺達はまたしっかり手を握り合って、屋敷の方に少し駆け足で向かったのだった。
無理のないように頑張ります!