26-2.次々ピザトースト、だけど……?
カイルがとにかくわんこ
あまりにも気に入ってくださったのと、すぐ次のも召し上がられたいご様子なので。
次は、マヨネーズでぱぱっと作る事に。
「ツナとマヨネーズ。薄切りした玉ねぎと湯がいておいたトウモロコシの粒で」
食パンに多めのマヨネーズを塗り、少しマヨネーズを混ぜて作ったツナマヨ、スライスした玉ねぎ、コーンの順に。
最後には、削っておいたチーズをたっぷり。
これを、ロティのオーブン温度設定を少し高めにして、じっくり焼けば。
「二品目は、ツナマヨコーンです!」
そうして出来立てを持って行けば。
大型犬が待ての姿勢をしてるようなイメージを、カイルキア様に抱いてしまった。
おかしい、カイルキア様は表情筋が乏しくとも、かっこよくて素敵な人だったはずなのに。
なんだろう。少し目尻が下がってるだけで、ご飯を待ちきれないワンコに見えちゃうのだ!
しかも、そんなお顔もカッコ可愛いなんて!
(意外な一面だけど、残念どころか新鮮……)
相手を好きになれば、どんな一面も……とか、漫画や小説なんかにはあったけど。
まさか、前世ではてんで縁がなかったのに。異世界転生を果たして、今その相手が出来るとは思わなかった。
悠花さんも、今の性別を受け入れてまで好きになった相手が相手だからこそ。
が、私の場合成就するかわからないけどね?
ひとまず、トーストのお皿をカウンターに置きました。
「ツナを軽くマヨネーズで和えたものに、玉ねぎとトウモロコシを一緒に乗せてあります」
「軽食にもあった、サンドイッチのツナとマヨネーズをか?」
「焼くともっとまろやかになるんですよ。他のも作りますので、ゆっくり召し上がってください」
「あ、ああ……」
そう言っておかないと、また早食いされちゃうからこっちも対応が難しいもの。
ピザとは違って、トーストの方だと具材に火が通るのが時間かかっちゃうので。
シェトラスさんにも苦笑いされてから、カイルキア様はゆっくりとお席に戻られ。
私達は、次なるトーストを焼く前にミックスピザトーストを分けっこして、三人で食べました。
「おお。チーズがよく伸びるし、薄切りしてあるトーストでも十分食べ応えがあるね? 少し香辛料を効かせたケチャップと野菜の相性も実にいい」
『おいちーでふぅうううう!』
「キノコが苦手でなければ、スライスしてから炒めたマッシュルームを入れるのも」
「あ、旦那様は大丈夫だけど。エイマーとマックス様がダメなんだよ、キノコ」
「あら」
なんでも食べるイメージのお二人だったけど、じつは共通の嫌いな食べ物があるとは。
私は好きな方だけど、聞かなければ入れるところだった。危なかったー。
「じゃあ、次は少しシンプルなのを」
まず取り出しますは、無限∞収納棚に保管してたカレー。
状態は、バットにそのままフィリングが敷き詰めてあるだけ。
「これをソース代わりに?」
「ケチャップ……あと、トマト系が多いので。マヨネーズで途中味を変えても飽きちゃうかなと。それに、カイル様や皆さんもカレーが好きになってくれましたし」
「これは、本当に美味しいからね。チーズとだと……まろやかになって美味しそうだ」
「今度、美味しいお米の炊き方をお教えしますので。夕飯を『カレーライス』と言うのにしませんか?」
『カレーライスぅうう! トッピングはチーズオムレツがいいでふぅうううう!』
「うん。是非そうしようか」
夕飯のメニューが一つ決まったところで。
ここは少し裏技を使う。
オーブンではなく、トースターで軽く炙り。
薄くバターを塗る。次にカレーを適量塗りつけ。チーズをたっぷり。あとは、チーズが溶けて焦げ付くまで焼くのみ。
「お待たせしましたー……?」
今度はお席に持って行こうと思ったら、既に窓口の前にカイルキア様がスタンばっていました。
「カレーのパンのような匂い、がしたので。つい……」
「ふふ。半分正解です」
ああ、不謹慎かもけど。少し幸せだ。
好きな人から、料理をせがまれてるのってこんなにも幸せになれるんだ。
おかわりがすぐ欲しいって、男の人に思われるのって悪い気がしない。
が、今から手渡すピザトーストは特に注意してもらわないと。
「これは手づかみだと食べにくいので。フォークとナイフを使ってください。カレーピザトーストと言います」
「チーズの下に、カレーのみか?」
「シンプルですが、美味しいですよ。手づかみだとカレーが滑って落ちる可能性があるので気をつけてください」
「ああ」
そうして、席に行かれてから少しして。
次の準備をする前に私達も食べようかと思ってたら、カイルキア様が大急ぎで戻って来られた。
「チャロナ。あれをもう一枚頼む!」
「わ、わかり、ました」
ただ、あのすみません。
私が顔を出すなり、大型ワンコが尻尾を振るような勢いの、輝くような表情を仕舞っていただけませんか!
心臓に悪すぎて!
逃げるように調理場に戻る途中、発酵させてる生地の様子を見れば、膨らみはあと少しのところだった。
「はっはっは。カレーの虜になられたのは我々だけでなく、旦那様もだからね?」
戻って来ると、シェトラスさんは声だけ聞こえてたのか楽しそうに笑うだけだった。
さっきのロティの言いかけたので、バレてはいないと思うけど。バレないように、と手早くカレーピザトーストを作った。
そうして、カイルキア様に渡してから。私はふと思いついた事を少し質問してみた。
「カイル様。悠花さんの事、ご存知でしょうか?」
「……ああ。エイマーとの事か?」
「はい。私はシェトラスさんから少し聞いたんですけど」
「単純に言うなら、成功と言える。が、俺はさっきまでいたフィーガスに巻き込まれてその場にいた」
「…………え? フィーガス、さん?」
なんで彼が?と思うと、カイルキア様は少し来いと言われてお席に行かれてしまう。
私は、シェトラスさんとロティに呼ばれたことを伝えてから食堂側に回った。
カイルキア様のお席に急いで向かえば、カレーのピザトーストはもう食べ終わってて、私が来ると向かいに座れと指をさした。
いいのかなと思っても、雇い主の指示には基本逆らえないから大人しく座らせてもらいます。
使用人用とは違い、座り心地が大変良いです。
「まず、最初に言うが。全部は見ていない。フィーガスが書簡の持ち込みでやって来るなり、あいつらのとこに行きたいと言うのに無理矢理連れてかれたんだ」
「そ、そうなんですか?」
「ああ。ついでに、一緒だったレクターも。気づかれたのは、お互いの気持ちを確かめ合った直後だ」
と言うことは。
カイルキア様とレクター先生は巻き込まれただけでも、フィーガスさんの発案でデバガメをしたのだと。
場所は、悠花さんの事だから裏庭とかもっと人気のない場所を選んだだろうに。あの声質が良過ぎる伯爵様は、どこにサーチレーダーを持ってるのやら。
「で、喧嘩になっちゃったりしたんですか?」
「いや、それはない。フィーガスの奴が、エイマーを自分の義妹にすることでマックスに嫁がせてはどうだ、と。自ら提案することで、マックスの怒りは抑え込んだ」
「え、フィーガスさんの妹に?」
「俺もまだ詳しくは聞いていないが、あれと近々結ばれるカレリア。彼女は、ごく普通の商家の娘なんだ。フィーガスの縁戚には貴族主義の強固派が多い。初めは猛反対されたが、今先代になっている父君のアルフガーノ卿が認められた。だから、そこは問題ない」
「はい」
「だから、フィーガスの周囲を強固派でない人間に固める必要が出てきた。エイマーの本家、アークウェイトは豪族でも貴族に近い知名度のある家柄だ。結びつきが欲しいのだろう。代わりに、フィーガスは貴族として後ろ盾になってやれる」
エイマーさんのコンプレックスには、貴族じゃないから悠花さんとは結ばれないと言うのがあった。
悠花さんが気にしてなくても、周りが気にしないとも言えない。
けど、そこに似た状況で。なおかつ、正真正銘のお貴族様が養子先になってくだされば。
お互いの理解さえあれば、この上ないくらいに、いい話になっていく。
「そのために、フィーガスさんわざと待ち構えたのでしょうか?」
「ないとも言い切れないが。一旦、奴らとは別れたからその後は知らないんだ」
「え?」
「エイマーの見合いの件を、俺なりに父上やシュラの父君に中止出来ないかと魔法鳥を飛ばすのに、そこから離れた」
「ど、どうだったんですか?」
この世界の郵便手段である、特殊な紙を使用した魔法鳥と言う連絡手段。
お貴族様のなら、電子メールくらいの速さだろうと勝手に思ってるのだが。
答えを促すと、彼は大きく息を吐いた。
「……言うのが遅い。なら、相手に認めさせるために同席しろと」
「っ!」
なんて事だ。
なんて事でしょう←