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魔物使いの少女  作者: つい
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イベント作戦会議

 

 ゲームにログインすると運営からお知らせが来ていた。


 えーっと……次回イベントについてのことか。


 早速開封すると、長々と文章が書かれている。


 読むのめんどくさーと思いながら適当に下にスクロールしていった私だが、画面にあるものを見つけてスクロールを止める。


 そこには銃撃戦の画像があった。


 上に戻ってイベント内容を確認するとどうやら銃撃戦メインのイベントらしい。



 銃撃戦とかあんまり興味わかないなー。私はまったりして過ごしたいし。



 銃と聞くとあのペンギン集団と何か関係があるのかな?そうなるとちょっと気になるけど……でもいいや。今回のイベントはパスしよ。


 そう決めて私はイベントのお知らせページを閉じた。



 気持ちを切り替えて私がゴーレム制作を始めようとしたその時、一つのフレンドメッセージが届く。



 私のフレンドは一人しかないのでそれがアルクからのメッセージであることは明白だ。



 何の用かとメッセージを開いたら



「次のイベント一緒に出ない?」



 Oh……たった今パスしようと決めたんですけど……。でもこれで絶交とかされたらショックで立ち直れない。


 ……やるかぁ。


 私はアルクに「おk」と返した。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 騙された失敗したやらかしたぴえん。



 現在私は東城の会議室に来ている。大きな丸テーブルの北側に私&師匠とアルク、東にタケシさん、南にダンさん、西にメサリアさんというメンバーが座っている。



 アルクに「話しがあるから東城の前で待ってる。すぐ来て」といわれ、なんで東城なんだろう?と疑問に思いながらもノコノコと向かったらこれだよ。


 ちなみにアルクを待たせちゃいけないと思って飛ばしてきたから師匠は完全におねんね中だ。いい夢見ろよ。


 そのネルちゃんも帰りにまた呼ぶことにして、北城に帰ってもらった。なんでもネルちゃんも少しやりたいことがあるらしい。


 門番を通過するとなぜか私はやたらと注目され、人目に怯えながら城の前に行くとメッセージで言っていたとおりアルクがいた。そのまま手を引かれてあれよあれよという間にこの部屋に連行されてしまった。


 つまりアルクの「次のイベント一緒にでない?」というのは「(私たちと)次のイベント一緒にでない?」という意味だったのだ。完全に騙されたよこん畜生。



 そういうわけでこんなやばたにえんな状態になってしまったのだ。



 この場を支配するのは沈黙。完全にお通夜。



 アルク以外は私のことを本気で魔物だと思っている。もしかして私殺されるのでは?ほんとに私の葬式になるぞこれ。



「アルク騙したな?」


 念話でアルクにそう抗議すると


「本当のこと言ったらハナは絶対来ない」


 そう念話で返された。その通りだよ絶対行かなかった。


 私とアルクがそんな言い合いをしていると、遂にタケシさんが咳払いを一つして口を開いた。


「あー、次回のイベントについて俺たち城主ギルドのメンバーでチームを組もうと思ってな。今回集まってもらったのはその話し合いのためだ」


 私の様子を伺いながらタケシさんがそう言う。


「アルクはハナの通訳を頼めるか?」

「任せて」


 いらねぇーんだよおおおお!!アルクはなんでそんな神妙な顔して頷いているの!?なにが「任せて」だ!心の中で笑い堪えてるのバレバレだからね!?



「じゃあハナが今ここで訂正すればいい」



 こいつ……私ができないと思って言ってるな?……できないよ!


 アルク以外はみんな顔がマジだ。これはマジで信じてる顔だ。そんな人たちに「あ、実は人間でした~てへぺろりんちょ~」なんて言ってみようものなら混乱を招き殺されるかもしれない(人間に対する強い偏見)


「それよりハナ、イベントの説明読んだ?」

「読んでないよ。今回パスするつもりだったし」


 そう私が言うとアルクが私にイベントの概要を説明してくれた。


 プレイヤーは最大6人のチームを作ってこのイベントに参加することができる。この人数には使役魔物の数もカウントされるようだ。


 参加者はメンバー登録の際にそれぞれ四種類の武器から一種類を選択する。イベント中は自分の選択した種類以外の武器を扱うことはできない。しかし選択した種類のものであれば両手持ちなどしても問題ないということらしい。


「選べるのはSGとARとSR」


 お?何か聞いたことあるぞその略称!まあ聞いたことあるだけでよく知らないけど。


 私がポカンとしていると


「……ハナFPSとかしたことある?」


 アルクがそう聞いてきたのではっきりと首を横に振る


「じゃあ説明する。まずはSG」

「スーパーゴキブリ?」

「ショットガンの略。近距離戦向け」


 アルクの目が冷たい……。


「次はAR」

「拡張現実(ドヤァ」

「アサルトライフルの略。中距離戦向け」


 あ、はい。ごめんなさい……。


「最後にSR」

「スナイパーライフル?」

「スナイ……そう。遠距離戦向け」


 勝った!知らんけど!


 私はただ略称を知らなかっただけで、それぞれどんな銃なのかは知っている。どれもうまく扱える自信ねーや。ってあれ?


「アルク四種類って言ってなかった?」

「……あと一つはナイフ。超近距離向け。だけどこれで戦うのは無理。ネタ枠」


 酷い言われようだ。


 うーんナイフか……確かに銃撃戦の中、ナイフ一本で戦うのはかなり厳しそう。



 だがそこがいい。それがいい。


「私ナイフにする」

「ハナは絶対そういうと思ったから言いたくなかった」


 バレテーラ


「私は別に好きなのでいいと思うけど……」


 そう言いながらふと言葉をとめる。その視線の先には



「ハナ自体の戦闘力は低い。アルクと一緒にSRで後方に置いといた方がいいだろう」


 とダンさんが


「いいやARの方がいいだろ。どんな距離でもそこそこ使えるし連射できるから単発銃より使いやすいはずだ」


 とタケシさんが


「そもそもハナはきっと近距離でないと弾を当てられないわ。それならショットガンを持たせるのがいいに決まってるじゃない。……そうすれば囮にもなるし」


 とメサリアさんが。……囮はあんまりじゃないでしょうか?


 とまあアルクの言いたいことは分かった。アルクは何選んでもいいと考えているけど、私がナイフを選ぶと他の三人がうるさい。だからあえてナイフのことは黙っていたというわけだ。


「ちなみにアルクは何を選ぶの?」

「スナイパーライフル」


 即答。そういえば職業狙撃手でしたね。


「他も決まってる。タケシとメサリアはアサルト、ダンはショットガン」


 へぇーもうみんな既に決まっていたんだ。あれ?じゃあこれは何のための話し合いなの?


「今回の会議はほとんどハナに関することを話し合うために設けられた」


 私参加表明すら出してなかったのに……この人たち気が早すぎるでしょ。もしアルクに私がパスって言ってたらどうなっていたんだろうか。


「ハナ、ナイフでいいの?」

「あ、うん」


 アルクが未だに熱く議論を交わしている三人に向き直り、ぼそりと小さな声で言った。


「ハナはナイフにするって」


 議論に軽くかき消されるような声量だったにもかかわらず、議論はピタリとやみ、アルク、ハナの順番に視線が集まる。そして


「やはりか」

「俺は絶対こう言うと思ってたぞ」

「アナタ本当に……」


 ハァ……と三人のため息が重なる



 うん?……思ったより穏便に終わったぽい?



「まあいいか。最悪ダンとアルクがいればどうとでもなるだろう」


 タケシさんがそう言ってとりあえずこの議題は終わった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 さて、これで帰れるかと思ったが、そうは問屋が卸さない。


 次の議題はあと一人誰をメンバーに加えるかというものだった。


 これまた私とアルクは蚊帳の外で、三人で熱く議論が交わされている。


 とは言っても私もアルクも議論に参加したいわけではないのでこっちはこっちでお話をする。


「なんで皆私を誘ったの?」


 他三人の反応から察するに私は不安要素でしかないと思うんだけど……


「私が頼んだ。ハナも一緒じゃなきゃ参加しないって」


 え?


「前回のイベントでは特殊な協力関係だったから……今回はちゃんと協力しようと思って」


 友達っていいなぁ……なんか感動してきた。


「で、でも私の参加を条件にしてもし断られてたらどうするつもりだったの?」

「その時はハナとハナの使役魔物と私で出るつもりだった」


 ……良かった。初めての友達がこんなに優しい、アルクでよかった。


「なんでハナ泣いてるの?」


 これは涙じゃない!水鉄砲だ!イベント前に射撃訓練しているんだよ!


 私が友達の温かさに感動しているその時、ふとタケシさんから声がかかる。


「おいハナ、……なんで泣いてるんだ」

「タケシ泣かせた」


 アルクにお前じゃいとツッコミを入れたい気持ちを抑えて、急いで水鉄砲を引っ込める。


「あー、なんかすまん。……じゃなくて! ハナの使役魔物についても聞いておきたいんだが教えてくれないか」



 何気なくそう言ってくる。


「タケシ、やり方が卑怯」


 すかさずアルクがタケシさんを非難する。


 多分タケシさんはさりげなく私の情報を得ようとしていたのだろ。なにせ私はほとんど引きこもっているし、まともに話すのはアルクしかいない。タケシさんたちがハナ=魔物説を信じているところを見る限り、アルクも私のことに関してほとんど情報を話していないだろう。


「いいよアルク。ちょっとだけなら話すよ」


 そう言って私は自分が兎と竜とゴブリンと幽霊と巨人を使役していることを伝えた。アルクを通じて話しただけで直接伝えたわけではないけど。


「もうちょっと詳しく教えてくれないか」


 タケシさんはもう自分の魂胆がばれたと分かっているので直球で聞いてくる


 私は首を横に振ってもうこれ以上教える気はないという意思表示をする。


「そうか……」


 そう言ってまた三人の議論に戻る


「タケシ酷い。イベント中、混乱に乗じて後ろから撃つ」


 アルクはタケシのやり方にかなり不快感を感じたようで物騒なことを口走っている。


 それから少しお互い無言になり、ぼんやりと三人の議論に耳を傾ける。



「巨人と竜は却下ね、ただの的じゃない。最悪わたしたちの位置バレにもつながるわ」

「サッカーイベントの時に思ったがハナのゴブリンは一般的なやつとは大違いだ。あいつに何点も取られたしな。かなり頼りになる気がする」

「魔王軍襲来イベントの時にハナの使役する幽霊には苦戦した。透過でもしかしたら銃弾をすりぬけるかもしれないな」


 ……皆好き放題言ってるなぁ。まあ一般人からしたら言葉の通じないただの魔物と変わらないもんね。


 そう思った時、私の膝の上で寝ていた師匠が目を覚ます。


「む……すまんなハナ、もう大丈夫だ」

「あ、師匠おはよー」


 アルクがソワソワしながら師匠を見ている。……そして一言


「……かわいい」


 まあ確かに外見だけは可愛い。アルクには師匠の声が聞こえないからただの可愛い生き物に見えているのだろう。


「触ってもいい?」


 別にいいけど


 私がそう言うと


 アルクが師匠に手を伸ばしそーっと背中を撫で始めた。


 うーん絵になるな。


「ハナ、あと一人の枠この兎にしよう」


 うん?


「可愛い」


 そんな理由でいいの?いやまあ正直ダンさんとアルクがいれば確かに誰でもいい気がするけど。


「ハナがこの兎をあと一枠に入れたいって。そうしなきゃ参加しないって」


 鬼の行動力で師匠を高く持ち上げ、アルクが他三人にそう宣言する。


 他三人はポカンと口を開け、一斉に私に視線が集まる。


 まあ別に否定する理由もないしいいか。


 視線の恐怖に震えそうになるのをどうにか堪え、頷く。これで私の意志は伝わった。


 アルクが参加するには私の参加が条件。


 私の参加には師匠の参加が条件。


 つまり師匠を参加させないと私もアルクも参加しないことになる。


「……分かった。じゃああと一枠はその兎にしよう……武器はやっぱりナイフか?」


 当然!そもそも師匠じゃ人化しないと銃なんて撃てないし。師匠の武器をナイフにしておけばもしかした私が二刀流剣士になるチャンスが来るかもしれないし。


 そんなこんなで無事(?)会議は終わり、お開きとなった。


「ハナ、ありがとう」


 ネルちゃんの到着を待っている間、アルクが念話で話しかけてくる。


 ホントに感謝してほしい。というか感謝する意思があるなら私の誤解を解いてほしい。


「それは無理」


 おい


 ……まあ、私もアルクには感謝している。本当に初めての友達がアルクでよかった。


「ハナさん! もうすぐ着きます!」


 ネルちゃんからそう念話が入ってくる。確かに北の空にネルちゃんらしき飛行物体が見え始めた。


 今回のイベントではアルク以外の人間と長時間過ごすことになるだろう。……誤解を解くチャンスがあるといいなぁ。

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