飛行船
さて、尋問の時間です。
普通は爪を剥いだり鞭打ったり、あらゆる拷問で情報を吐かせるのだろうけど、……まあこんなお殿様だからね……。とっても平和。
「ゴメンナサーイ……ジツハムスメヲヒトジチ二トラレテシカタナク……」
「な、なんと!! それはつらかっただろう……」
「殿、どう考えても嘘です」
ギンもゲンもそろそろ休みたいのだろうけどお殿様がこれだからな……。泣き落としに弱すぎる。ペンギンの話を信じるならすでに家族全員人質として出演したけど?次はペットの犬かな?
「……ワカリマシタ。シカタナイデスネ……スベテオハナシシマース」
ようやく覚悟が決まったのか、そう言ってくるペンギン。おいちょっと待てなんだそのヤレヤレみたいな言い方。
何ということでしょう!このペンギン、この場にお殿様だけを残して他は部屋の外に出るように命令してきた。立場分かってる?
「なあに心配はいらん。奴らの武器は取り上げてあるし、手足も拘束してあっては移動も満足にはできない」
うんそれは分かってるんだけど、この場にお殿様だけを残すのが一番心配なんだよなぁ。
そう思ってはみるもの強引に追い出される。そしてすかさず襖に張り付くギンとゲン。会話丸聞こえだから部屋を出た意味ないんだよなぁ。……私も聞いておこう。
がっつり盗み聞きされていることに気付かず、ベラベラと話し始めるペンギン。
「トコロデ……アナタイマシアワセデスカ?」
おいなんか怪しい宗教勧誘始まったけど?
「ハナさん、もう少し待ちましょう」
危うく突入しそうになった私をゲンが止めてくれる。危ないところだった。
「幸せにきまっている! 大きな争いもなく皆が楽しく暮らしているのだ。これ以上の幸せなど存在するはずがなかろう!」
自信満々に答えるお殿様。
「ソウデス、ダレシモソウオモイタイモノデス。シカシ、シアワセトイウハイツクズレテシマウカワカラナイモノデス」
あーそうだね、今幸せが崩れいる原因は間違いなくペンギン、お前のせいだよ。
「おいハナ、ステイッ! ステイッ! まだ早い」
ギン! 止めないで! もう我慢できない!!
私が襖を蹴破って中に突撃しようとしたその時
「何かが近づいてきているな……」
師匠が呟いた。
まもなくして部屋の中のペンギンたちが急に元気になる。
「ハッハー!! ジカンデース! メリークリスマース!!!!!」
何か不穏な気配を感じた私は部屋に突っ込む。あとに師匠たちも続く。
「時間って……なに?」
「オーウモシカシテキコエテマシタ?」
あれだけ大声で叫べば嫌でも聞こえるから。
「コトバノトオリデスヨ」
そう言って不敵にほほ笑むペンギン。
言葉の通り?……まさかキリストの誕生日を先取りしてお祝いしたかっただけなのか……?気が早すぎるぞ?
このペンギンたちのことだしな……と納得しかけたが、危ういところで思いとどまる。落ち着け私。殿様の純粋さが移っているぞ。
言葉の意味が全くつかみ取れない。一体何の時間が来たというのか。
私がそう頭を悩ませているとふと、耳に不思議な音をが聞こえてくる。何の音かはわからないけど、明らかに自然の音ではない。
「これは……飛行船の音か? ……そういうことか。ハナよ、全員ここから離れた方がよさそうだ」
「サッシガイイデスネー! ハナマルアゲチャイマース!」
飛行船?それとここを離れることに何の関係が……
師匠が答えを言うより先に、敵が高らかに宣言した。
「ココモモウスグシャテイケンナイデース!」
その一言で私は全てを理解した。
こいつらは飛行船の砲撃で天守閣をぶっ壊して、そのまま逃げようとしているんだ。
「ハナさん、飛行船なら私が……」
「ムダムダムダムダデース! チカヅクモノスベテウチオトシマース!」
確かにこのペンギンたちは銃を持っていた。そう考えると飛行船に対空砲びっしりということも十分あり得る。
この世界の銃がどれほどの威力かわからない。ネルちゃんの鱗で弾ける可能性もゼロじゃない。だけどもしはじけなかった場合、ネルちゃんはとんでもない苦痛を味わうことになるだろう。
「ワタシタチヲカイホウスレバテダシハシマセーン」
今ならこのペンギンたちが余裕そうにしていたことに納得がいく。恐らくあのトランシーバーの時、既にこうする予定だったのだろう。そこから捕まるのは想定外だっただろうけど。
「分かった。その条件を飲もう」
「殿! ですが!!」
お殿様は無言でペンギンたちの拘束を解いていく。
「イヤッフゥゥゥ!! ハナシワカルヒトダイスキデース!!」
城の前までペンギンたちに同行し、迎えを待つ。
空を見上げた私は圧倒された。
飛行船のフォルムは羽を広げたペンギンだった。
羽にはゴテゴテと戦艦の主砲のようなものが取り付けられており、くちばしの部分からは波動砲でも打てそうな超巨大主砲が伸びている。
まもなく飛行船からヘリコプターのようなものが数機降りてきて、ペンギンたちを回収していく。
最後に残されたド派手トサカペンギンが私たちに向けてこういった
「アイルビーバック……!」
うるせぇ二度と来るな。
たらされたロープを引っ張ると自動でロープが巻かれて、ペンギンが上昇していく。
彼らは宣言通りこちらに危害を加えることなく、南の空へ去っていった。
間違いなく変な奴らで、少しおバカな奴らだった。でも技術力は高い。
本人が強くないのに他が強くて、勘違いして調子乗ってるやつって許せないよね!……わ、私はほら、イキってないから許して?
でもまあ、誰もケガしなかったし、とりあえず防衛というミッションは成功したっていうことでいいのかな?
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穏やかな午後の日差し。アルクは木に登ってぼんやりと、果てしない空を眺めていた。
「……ナニアレ」
そこに見つけたのは空を飛ぶペンギン。正確には羽を広げたペンギンの形をした飛行船だった。
「……可愛い」
そう思って見とれるアルクだったが、次第に兵器がたくさん搭載されていることに気付く。
「……やっぱり可愛くない」
アルクは静かに弓を構えた。そして、羽の上に載っている主砲の一つに矢を打ち込んだ。
そもそもの材質が硬く、距離もあるためその矢は弾かれる。
矢が弾かれた瞬間、アルクの心は喜びに溢れた。アルクの矢を弾くのは、ダンを除けばかなり貴重な存在である。
ダンに負けない戦闘狂であるアルクはひたすらに弓を放ち続けた、もはや意地だった。そこには絶対に貫通させてやるという強い意志があった。執拗に一点を狙い打ち続け、何本目かの矢が命中したとき。
派手に爆発が起きた。
満足し、さあ次はどこを……と考えたところでギルメンに呼ばれてしまった。
こんな楽しい獲物を見逃すのは惜しい。もし狩りが終わってもまだ近くにいたら撃ち落そう。
そう心に決めたアルクだったが、残念ながら飛行船は全速でアルクから遠ざかっていった。「オゥーノォー!! ナニガオキテルノカセツメイシルブプレ!」という大絶叫が聞こえた気がした。