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魔物使いの少女  作者: つい
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第二試合②

 とりあえず前線組はデラさんとゴブリンさんが中心となってパスを回し、なんとかアルクの矢を回避している。みんなだんだん目が慣れてきたようで、避けるだけならできるみたい。はい優秀。


 一点。たった一点でいいんだ。そうすればこの勝負勝機が見える。ただその一点が果てしなく遠い。


「しかたねぇ! こいつは使いたくなかったんだがな!」

「え? 何? ゴブリンさんなんかあるの?」


 反射的にそう聞いて、後悔する。


 絶対01さん関連の発明品だ。


「まってゴブリンさん! 早まらないで! 時間はまだあるんだからやり直そう? ね?」

「そんな危険物じゃねぇから安心しろ……」


 そういってゴブリンさんが取り出すのはなんか見たことある装置。っていうかバズーカ砲の時も思ったけどいったいどこに収納してるの?


 私のそんな疑問はさておいて、どこで見たんだっけこの装置?……あっこれ01さんの姿を偽装してるやつだ。過去にゴブリンさんが戦車に張り付けて私のことをごまかしてきたことがあったね。


「それを使ってどうするの?」

「ハナ、ゴーレムを出してくれ」


 ーーーーーーーーーーーーー


「なんということでしょう! ボールが7個に分裂しています!」


 司会者のプレイヤーが驚いた様子でいう。


 司会者の言う通り、ボールは視界に7個存在している。でも実際にボールが増えたのではなく、その正体は六匹のゴーレム達だ。


 トリプルAや軍曹たちの6匹の虫型ゴーレムに偽装装置を張り付けてボールに見せかけている。


 といってもアルクは目がいい。さっきから本物のボールのみを狙って射撃してくるし、敵もそれをわかっているからアルクの撃ったボールを追いかける。


「ゴブリンさんやっぱりアルクに見抜かれてる!」

「チッ! いったん集めるぞ!」


 いったん七つのボールを一か所に集めシャッフル!どうだアルク! これで……



 ビシッ!



 バレてるが?


 ボールが自立して動くからバレるのかな?それなら……


 再びボールをシャッフルして、そのうちの一つをゴブリンさんが姫ちゃん、デラさんにパス。


 ゴーレムたちが足の動きに合わせて動き、ドリブルしているように見せる。ゴーレムたちを蹴るわけにはいかないしね。



 よしよし今度こそ……



 ビシッ!



 デスヨネー



 やっぱり動きが不自然だからすぐに本物がバレちゃんのかな?……それなら!


 デラさん、ゴブリンさんがボールを持って、さらには姫ちゃんも念力は使わずドリブルで進軍。


 アルクが矢を放つが、ネルちゃんの風起こしで矢が逸れる。すかさず火球を撃ち込み、爆発で視界を奪う。


 爆発に巻き込まれて敵メンバーはほぼ吹き飛ばされ、ゴールまでガラ空きになった。



 よし、これは決まった!!



 私がそう思った瞬間、黒煙の中から矢が真っ直ぐに飛んでくる。ネルちゃんの風起こしは間に合わない。



 それは真っ直ぐにゴブリンさんの足元に吸い込まれていった。



 ゴブリンさんの足元でボールが弾け



 ボールはアルちゃんの姿に変わる。



 騙されたな!!さすがゴブリンさんとアルちゃん!息ピッタリ!アルクを騙せるくらい自然なドリブルだったよ!


 本命はももちろんデラさんだ、本気シュートが砂煙を上げながらダンさんに迫る。



 刹那、ダンさんとぶつかり、後衛の私に届くほどの衝撃波。漫画かよ……これゲームだった。



 そして



「ゴール!!! 先制点はジダデア! ついに鉄壁のダン選手が破られました!!!!」




 デラさんのシュートが勝った。



 ここで前半終了のホイッスル。



 よし!もう勝ち確!やったね!



「あのハナさん本当にやるんですか?」

「何言ってんのジオさん! これくらいやらないと勝てないから!」



 心が痛むのは分かる。でも勝ちたいしこれは仕方がないことなんだよ。



 ーーーーーーーーーー


 現在会場は私に対するブーイングで包まれている。それもそのはず、私はジオさんに巨人化させてゴールネットを塞ぐという暴挙に出ている真っ最中だからだ。



 正々堂々?知らんな!勝てば良かろうなのだよ!


「ハナ選手がゴールを塞いでから5分、全く状況は進みません!」



 さすがに司会者も話すことがないみたい。申し訳ないとは思うけどこれも勝利のため。許せ……。



「ハナさん大丈夫ですか? その……結構罵られてますけど?」


 そういえばネルちゃん人間の言葉わかるんだっけ?



「大丈夫だよネルちゃん! 私にとっては罵声も普通の話し声も、大差なく恐怖の対象だから!!」

「……ノーコメントだ」


 うん師匠?どうしてそんな顔で私を見つめるの?



 うーんでもさすがにまずいかな?これ録画して某動画サイトにアップされるんでしょ?イェーイYou◯u◯eキッズのみんなみってるぅー?とかやりたいところだけど、このゲームの心象を悪くするのは申し訳ないな。


 ていうかアルク怒ってるかな?せっかく友達になったのにこれで絶交とか泣くが?


 私がだんだんと良心の呵責(?)に苛まれてきたその時、事態はついに動く。



「な!!? なんと! ダン選手が! ダン選手が動きました!」



 なぬ?



「一歩一歩また一歩! 着実に前線に向かっています!」



「おいハナ! どうすんだ!?」

「…………」

「おいハナ聞いてんのか!?」

「ゴブリンさん……止めたりとか」

「無理に決まってんだろ!!!」



「さあついに中央目前です! 頑張れ! 頑張れダン選手!」



 いつの間にか会場はダンさん頑張れの言葉に包まれた。




「ダン選手にボールが渡ります! ゆっくりですが確実にドリブルで進んでいます! 頑張れ!」




「ねえジオさん……どう?」

「無理です」




「敵ゴールまであと半分! 頑張れ、頑張れダン選手!」




「お前ら何びびってんだ? 確かにデカイがこれくらい」

「待って!! 待って狼さん!!!……あ」



 場外ホームラン。マモレナカッタ……。




「さあついにゴール目前です! 決めてくれぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」




 ああ……お父さんお母さん、今までありがとう。私は先に逝きます。




 私は文字通り紙切れのように吹き飛ばされ、ジオさんの体を貫通してゴールネットにボールが突き刺さる。



 会場の盛り上がりは頂点を迎えた。口笛拍手が鳴り止まない。



 ダメージは入らないのでジオさんに風穴が空いたとしても痛みはない。けど案の定あり得ない威力だ。



「ねぇみんな、もう……いいよね?」

「ああ……でも俺たちここまでよく頑張ったよな……」


 ゴブリンさんが力なく言う。


「ああ、だがこの敗北は忘れない」


 師匠が空を見上げてそう言った。



 他の面々もみんな同じ様子だ。これはもうきまりだね。






「えーただいまチームジダデアから降参が選ばれました! チームカイアスが降参を承認した場合、この試合はカイアスの勝利となりますが……ダン選手、いかがでしょう?」


 司会者のプレイヤーがフィールドまで下りてきてダンさんにマイクを近づける。


 これ以上戦ってもダンさんに蹴散らされるだけだ。もう一点も奪える気がしないし。それならさっさと試合を終わらせて北城に逃げ帰ろうって寸法だ。そろそろ私の(人前での)活動限界も近いしね。


 即刻勝利が確定するんだから飲まない手はないだろう。ここで負けても準優勝だし。運動できない私にしては頑張った方だろう。まあ色々あったけど今回のイベントもたのしかったなー。


「降参は認めん」



 ん?



「はい! 降参は認められませんでした! 試合は続行です!」


 司会者が嬉しそうにそう言って定位置に戻っていく。



 いやいやいや!違うじゃん!そういう流れじゃないじゃん!私たちはもう完全に戦意喪失して、後輩たちに希望を託す三年最後の大会後みたいな空気になったじゃん!


 そういえばアルクが「ダンは戦闘狂、ヤバい奴」とか言ってたような……。



 私たちの攻撃から試合は続行されるが、さっきも言ったようにもうみんな戦意を喪失しているのだ。アルクは邪魔してこないが、デラさんのシュートはたやすくダンさんに止められる。



「さあ、ダン選手にボールが渡った!」



 く、来るな!やめてくれ!



 一歩一歩着実に近づいてくる死神の足音。




 これが罰なのか。ゴールを塞ぐという暴挙に出た私に、サッカーの神様から天罰が下されたというのか……



 会場の盛り上がりはとめどなく上がっていく。当然だ。卑怯な戦法を取った私がダンさんに木っ端ミジンコになるまで叩き潰されているのだから。



 ごめんなさいもうしません許してくださいごめんなさいもうもうしません許してください




 私は心の中で謝罪を続けた。そして何分が経過しただろう。




 ピッー!!




 試合終了のホイッスル。私は恐る恐る目を開ける。



 そこには撃ち落されたネルちゃん。肩で息をして、あお向けに倒されているデラさん。なぜか右足が吹き飛んでいるゴブリンさん。そしてなにより、体にいくつもの穴をあけて、真っ白に燃え尽きているジオさん。


 ボロボロに見えてもみんなにダメージはない。しかし、心のダメージは計り知れない。



 私たちがしていたのはホントにサッカーだったのだろうか……?



「ここで試合終了です! 結果は1-6でチームカイアスの勝利です!」



 試合開始前と同様に挨拶をしたらダンさんはインタビューに答える。



「なかなか楽しい試合だった。機会があればまた、今度はダメージありでやろう」



 普段仏頂面なのに少し笑顔でそんなことを言う。




 もうヤダこの人……



 私は閉会式を待たずにログアウトした。







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