決着
敵は相変わらずタケシさんを囲んだ護送船団方式で進軍中。
こちらは前線メンバーも防衛に本格参加で迎え撃つ。
とは言ってもそろそろ防衛はきびしか?そう思っていた私だったが、結果から言えば大してピンチでもなかった。
そもそも魔法は一瞬で打てるわけではない。
杖を構えて狙いを決めて、呪文を選択(または詠唱)してようやく発動できる。
うちのメンバーは優秀なため、発動される前に近づき、一発殴って発動する前に離れるなど朝飯前のことだった。
よって、完璧に攻撃を封じられたというよりも、気軽に攻撃ができないだけで、しっかりタイミングを見極めれば攻撃で妨害ができる。
よってなんやかんや普通に防衛に成功し、結局試合終了まで我がチームのゴールネットが揺れることはなかった。
「ここで試合終了のホイッスル!! 勝ったのはチームジダデアだ!!」
案外あっさりとした勝利に少し拍子抜けしてしまう。
「……まあ普通に考えて勝てるわけないよな……」
試合開始前と同様に、お互いに向かい合って並び、握手をしたときタケシさんが私にそう言ってきた。
当然私はここで気の利いた返答とかできないので黙って目をそらしておく……ハッ!ここで何も言わないから魔物説とか信じられちゃうんだ!何か言わないと!……だめだ思いつかねぇ!
試合が終わると急に人目が気になって、恐怖値が限界突破しそうなので、早く控室に戻りたいと思ったその時。
「ここで勝者インタビューの時間です! チームジダデアのキャプテン、ハナさんに今の気持ちをきいてみましょう!!」
え?
いやいやいやいやいやいやいやちょっと待って!!?聞いてない聞いてない!は?いんたびゅーって何それおいしいの?
「ハナさん! 圧倒的大差で第一試合に勝利しましたが、今のお気持ちは?」
司会者の男性プレイヤーがマイクらしきものを持って私にグイっと近づいてきて、先ほどまで得点が表示されていた大スクリーンに、ドアップの私の顔が映る。
え?ナニコレ罰ゲーム?私勝ったよね?勝ったのに罰ゲーム受けなきゃならんの?……今すぐタケシさん勝ち譲っていいですか?
沈黙が流れる。
あ、地獄。ここは間違いなく地獄だ。まさに生き地獄。……え、キッツ。なにこれキッツ。私が何か言うまで終わらないの?それってつまり無間地獄ってことじゃん。
沈黙が流れる。
あの、もう赦してください。全てを懺悔します。深く反省します。もう二度と悪事を働きません。毎日お祈りも欠かしません。なのでどうか、どうか赦しを、神よ、私にどうか赦しを!!
そう願ってみるも、現実は非情で無常なり。沈黙が流れる。神は死んだ。
もう駄目だと思い。私がログアウトを決意したその時だった。
「……そいつはなんか……人間の言葉が話せないらしい」
タケシさんがそう司会者に告げる。
「は? いやでもプレイヤーですよね?」
「ああそうなんだが……まあ何というか……話せないらしいんだ」
そう聞いた司会者さんは大きくか首をかしげたが、やがて私のもとから離れていく。
神……様……?
神は死んだ?馬鹿野郎!目の前の御方が神でないなら何というか?まさしくタケシさん……いやタケシ様こそ神。我らが主であられるぞ!
「ハナよ落ち着け、戻ってこい」
ハッ!? 私はいったい何を? ありがとう師匠正気に戻れたよ。
「なあハナ、……マジで人間の言葉話せないのか?」
タケシさんがそう聞いてくる。
そういう聞き方助かる。だって首振りでこたえられるもん。
私が否定を示すために首を横に振ろうとしたその時だった。
「えー少しハプニングがありましたが、気を取り直して! 次の試合に参りましょう! 参加チームが多いためドンドン進めていきます! それでは試合の終わったチームは控室に転送されます!!」
ちょっと待って!?今は誤解を解く大チャンスなの!もう三秒だけ転送待って!!
私の願い虚しく、司会者の言葉が終わるやすぐに体が光に包まれ始める。
私はとりあえず首を全力で横に振るが、もうすでにタケシさんはこちらを見ていない。というか、見ていたとしても光に包まれているので首振りが判断できなかっただろう。
視界が戻るとそこは既に控室だった。
また誤解が解けなかった……しかもタケシさんの発言はマイクに乗って多くのプレイヤーに聞かれたんじゃ……?
悪魔だ……タケシさんは悪魔だ!今回の件で余計に誤解が広まってしまった!
ああもう絶対アルク許さない!いくら懺悔したってもう遅いから!
間違いなくメサリアさんチームに勝ってくるだろう。そうすると次の試合相手はアルクのチームとなる。
絶対試合でボコボコにして発言の撤回をさせてやる!
私の気分は打倒アルクで燃え上がったが、ダンさんの存在を思い出してすぐに鎮火する。
ダンさんからゴールを奪う?……ムリムリ不可能!……私は一生この誤解を受け入れてゲームをするしかないのかな……。