第一試合②
「みんな、後半はジオさんも前線組の仲間入りで!」
「ハナよ……流石にキーパーなしは少し不安ではないか?」
師匠にそう突っ込まれる。確かに。
「無理にとは言わないです」
「いや大丈夫!」
正直ジオさんの性能を腐らせているのはもったいない。でも私や師匠じゃ不安だし……うーん。
「じゃあ俺がやる」
そう言って声を上げたのは狼さんだ。
「あれ? 狼さんいたの?」
「お前! 強引参加させといてそれはないだろ!?」
よくよく記憶を巻き戻してみると。
ネルちゃんのシュートに巻き込まれ、敵と一緒に吹っ飛んでる狼さん。
デラさんの爆速シュートの風圧で、敵と一緒に吹っ飛んでる狼さん。
ゴブリンさん&01さん作バズーカ砲からボールと一緒に発射される爆弾で、敵と一緒に吹っ飛んでいる狼さん。
うん、なんかごめん。冷静に考えれば、狼さんの生息地と師匠の生息地はそう離れていない。私や師匠から見れば強いが、一般プレイヤーからすれば全然脅威ではない。VRゲーム慣れした人なら、例え初期レベル初期装備でも勝てる。
一応進化はしているが、元の強さを考えれば明らかに前線は荷が重い。
「俺がやるっていうかやらせてくれ。……マジで」
目が死んでる……なんかごめん。
というわけで狼さんをゴールキーパーに任命、というかゴールキーパーに退避させ、気合を入れなおして後半戦に向けて各自心の準備をする。
……そういえばゴブリンも決して強い種族じゃないって話だけど……なんでゴブリンさん前線張れてるんだろう?
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「チームジダデアはゴールキーパーが変更されたようです! さあこれがどう影響するのか!? まもなく後半戦スタートです!」
試合開始のホイッスルが鳴り響き、後半戦がスタートする。
後半戦の先攻は私たちだ。敵には悪いけど、こっちがボールを持った時点でほぼ一点は確定みたいなもんだ。
「よし、みんな! 後半戦も頑張ろう!」
念話で皆に向けてそう言って、前線組にバフをかける。
早速デラさんが黄金の右足を大きく引き、爆速シュートを放とうとしたその時。
敵の魔法使い数人が謎の呪文を放つ。
真っ黒い球体が宙へと浮かび、そこからモクモクと黒い煙が絶え間なく出てくる。
目くらまし?でもゴールの位置が動くわけじゃないし意味ないと思うけど。
デラさん黒い煙の中にまっすぐにシュートを打つ。恐らくその直線上にゴールがあるのだろう。
「さあシュートを打った! 煙で見えませんが果たして入ったのか?」
ネルちゃんが全力で羽ばたき、煙を飛ばしていく。するとそこにはボールをしっかりと受け止め、ドリブルしているタケシさんがいた。
「なんと止めています!! チームレジスタンスここにきて本気を出してきた! この試合まだわかりません」
……どうやって止めた?
まず普通に受けるのは無理。前半戦は受け止めようとしたプレイヤーが紙切れのごとく吹き飛ばされていた。それこそダンさんでもない限り真正面から止められるプレイヤーは存在しない。
「ハナさん、あれは恐らく敵の力を吸いとって、味方に付与する闇魔法です」
つまりデラさんの爆速シュートの力を吸収して、さらにその力をタケシさんに付与したってこと?……これはちょっと後半厳しいかも?
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タケシは一先ず、作戦の成功に安堵した。
「まさかこのスキルが役に立つなんてね……」
副ギルマスのアイアが苦笑いしながらそう言った。
今ギルドメンバーたちが使ったのは、ネットではクソスキルとして扱われているスキルだ。
敵、あるいは敵の攻撃の力を吸収して味方に付与するという、文面だけ見れば強そうに見える。
しかし、実際のところ吸収量も付加量も微妙で、バフとデバフのスキルを別々に使った方が強い。何より煙が非常に邪魔。MPの使用量が大きい。付加できる対象が一人で効率が悪いなど、不満の声が多い。
しかし、タケシはハナのチーム勝つにはこの魔法しかないと判断した。前半終了後、スキルポイントを使って魔法使いの仲間全員にこの魔法を取らせた。幸い初期スキルのため熟練度0でも使うことができる。
理由の一つは効果対象にある。普通のデバフは敵MOBが対象だが、このスキルは敵の攻撃も対象にできる。敵のシュートが敵の攻撃という扱いになるかは賭けだったが、無事に攻撃判定となった。
理由の二つ目として、敵のシュートの力を吸収して自分の物にできるということだ。前半戦で確信したが、敵のシュートの威力はどれも半端じゃない。ゴール前にチーム一列で立ったとして、前から順に全員吹っ飛ばしてもなお威力は落ちないだろう。
このスキルの付加量が微妙といわれているのは、そもそも吸収した敵がそこまで強くないからだと思っている。その点敵のシュートの威力は申し分ない。
現にタケシは勇者の時ほどとはいかないが、自分力がかなり強化されているのを感じた。
そしてこれは抑止力にもなる。敵が超威力のシュートを打てば打つほど、その力は吸収され、俺に蓄積されていく。そうすればいずれオレも超威力のシュートをこの身一つで打てるようになる。
敵チームがこの魔法の存在を知らなければかなり有利だ。ここから巻き返してやる。
タケシは心の中で自分を鼓舞して、ドリブルを始めた。
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「つまり姫ちゃん、闇雲にシュートすると止められるだけじゃなくて、敵も強くなっちゃうの?」
念話をチーム全員でつなぐ。狼さんやデラさんも今はチームなので念話を繋ぐことができる。
「というわけでみんな、いったん慎重に。敵のボールを奪うことを考えて!」
そう皆に指示する。そう指示したが、もしかしたら結構ピンチかもしれない。
まずうちのチームは敵からボールを奪うのが苦手だ。そして妨害も今までのようにはいかない。なぜなら適当に火球を放とうものなら間違いなく吸収されタケシさんが強化されてしまう。
だから攻撃せずに妨害することが望ましいんだけど……。
案の定敵は細かくパスを繋いでぐんぐんと進んできていた。
ゴブリンさんも一対一ならともかく、複数人相手がいると簡単に抜けられてしまう。
後半は点取られまくるかも……そう私が焦ったその時だった。
突然日光が遮られ、数秒後凄まじい地響き。
何事かと思ったら、コートを敵陣地と味方陣地で分断するように巨大な山ができていた。……いやコレは……足?
それは巨大化させたジオさんの足だった。ジオさんが巨人化しコートの端で座っている。……絵面は非常にシュールだが、敵に危害を与えずに妨害をするという、今最も望ましい最高の防衛だ。
「これで少しは時間が稼げますかね」
ジオさんが念話でそう言う。……ん?まだ理性を保っているってことはそのサイズでも本気モードではないってこと?……一体本気モードはどこまで大きくなるの?
「なんとコートに突如巨人が現れました!!! ドラゴンに鬼だけでなく巨人までいるとは! ジダデアこれは非常に強い!!」
司会者も興奮しているようで、観客席からも悲鳴のような、罵声の様な、歓声のような。とにかく人々の声が大きく響いた。
突然現れた壁に敵チームは混乱しドリブルが止まった。すかさずゴブリンさんがボールを奪取し、デラさんにつなげる。
今敵は前に詰めていて、ゴール前は人が少ない。
デラさんのシュートは相変わらずすさまじい速度でゴールへ直進し、キーパーを吹き飛ばしてネットへ突き刺さった。
これで9点目!
ただジオさんも言っていた通りコレは時間稼ぎで、問題の解決にはなっていない。相変わらずこちらの攻撃組が動きにくいことに変わりはない。
点差はある。今すぐ逆転負けはない。
落ち着いて、慎重にいこう。