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魔物使いの少女  作者: つい
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暴君

 

 魔物たちがこの町に入るようになって大きく変わったことがある。


 一つ目は魔物たちが城下町で商売を始めるようになったので税収が入るようになった。


 あの謎の集会の後、何人かの魔物たちが「店を出させてほしい」と直接私に言いに来た。


 特に断る理由もないので許可を出し、税金の設定をして遂に私の町にもお店がオープンしたのだ。


 初めは魔物って買い物するのかな?とか思ってたけど魔王城城下町では普通に店があったし、過去にイモムシを倒していた時にイモムシが少額ながらもお金を落としていたことを思い出す。


 劇的にお金持ちになったわけではないが、これで脱貧乏生活!流石に所持金三桁は一国の王としてどうなんだって思ってたからね。


 それにしても、自室でゴロゴロしながらジワジワ増えていく所持金を見るのはなかなか気分がいいね!不労所得最高!(ゲス顔)


 とまあこういういいこともあったんだけど、悪くなったこともある。


「……また始まったかな」


 外が騒がしい。こういうときは大体魔物同士で喧嘩が起きている。


 優秀な統治者であればなんかうまい感じで治めることができるんだろうね。私は優秀ではないのでどうすれば喧嘩が起きないかなんて、みんながコミュ障陰キャになるしか思いつかない。


 しかし、このことはまだいいのだ。そもそも魔物たちは基本自然の中で生き、日夜プレイヤー達と命がけの戦いを繰り広げている。むしろこれくらい喧嘩っ早いのが普通というものだろう。


 私が真に困っているのは、……正確に言うと私は困っていないけど周り(主にネルちゃん)が困っているのは、私のことを快く思わない集団が一定数この町に住んでいるということだ。おかげ私は現在一人で街を出歩くことを許可されていない。なんでや。


 多くの魔物が私に心を開き気さくに挨拶をしてくれる。しかし忘れてはいけないことは、彼らは無害なNPCではなく、プレイヤーに害を与える敵対MOBである。私が襲われないというだけであって、他のプレイヤーから見たらこの町はダンジョンと何ら変わりがない。


 アルクを呼んだのだが、「なんかヤバいから帰る」と火の玉ストレートメッセージを残して帰ってしまった。……まあ自覚はあるけど。




 さて、今から私は一人で出かけようと思う。


 師匠とネルちゃんは現在コンビで私の脅威になりそうな敵を探して城下町を徘徊している。

 師匠の耳で会話を盗み聞き、疑わしければ即刻ネルちゃんの火の玉ストレートが飛んでくる。何という暴君……。


 ゴブリンさんは相変わらずアルちゃんとイチャイチャカサカサしながら兵器開発にいそしんでいる。


 姫ちゃんはこの北城全体の家事をしているので、基本的にいつでも忙しい。


 つまり私は今監視の目がない。だからこの城を抜け出すには今しかないのだ。


 大体ここは私の国なのに、王様が一人で出歩けないなんてこんなの絶対おかしいよ。私だって子供じゃあるまいし……とにかくネルちゃんたちは心配しすぎなのだ。


 コソコソと部屋をでて、ゴーレム軍を展開して周囲の安全を確認して、ついに私は城からの脱出にせいこうする。


 うん、やっぱり一人は気楽でいいな。最近の外出は師匠が執拗に周り警戒したり、ネルちゃんが私を守れるようにドラゴン姿で歩いたりばっかりだったからね。仲間もいいけどやっぱり私には一人の時間も必要だ。


 まずは適当に大通りを歩く。ここなら顔なじみの魔物も多いし襲われることもないだろう。


 あ、あそこの串焼き屋さんおいしそうだな。よし、国民の税金で串焼きたべちゃおう。


 そう思って串焼き屋さんに近づくと既に先客がいたことに気付く、って……ん?


「はいよっ!熱いから気を付けて食えよ」


 そう言って出された串焼きを口で咥えて、その先客はクルリと振り返り、そして私と目が合う。


「あ」

「あ」


 串焼きがポロリと落ちる


「お前!」

「(性格が)狼!」


 それは、まさしく私の初めて(のデス)を奪った(性格が)狼だった。


 狼が串焼きを落としたことに気づき、シュンとしたので私が二本買って一本をあげる。


 そうして自然と話しながら食べる流れになった。


「えっと……最近どう?」

「あ? まぁ元気だよ」


 久しぶりに会った幼馴染の男女みたいな会話をして沈黙。


 会話オワッター!


 そう思っていたら狼さんが話し始める。


「俺のことはどうでもいいだろ! それよりもお前だ!」

「へ? 私?」

「なんだ城主って! なんだ勇者討伐って!」

「えっと、まぁいろいろあったんだよ」

「いろいろってなんだよ! 昔はあんなに弱かったのに!」


 そんな久しぶりに会った幼馴染が思いもよらない変化を遂げていて、その変わりように劣等感と哀愁と恋愛感情を感じる幼馴染みたいな反応されても……


 まあ冗談はさておいて、狼さんは勘違いをしている。




 多分狼さんの中では



 くそ雑魚ナメクジ→勇者さえも討伐できる最つよ国王





 私がこのように進化したと思われているのだ。しかし実際は



 クソ雑魚ナメクジ→強い仲間を持っているクソ雑魚ナメクジ




 そう、私自身は何も変わっていない。でもまあ?ここであえてこの真実を言う必要はないよね?狼さんにはこのまま勘違いしたままでいた方が何かと便利そうだもんね。何より今すっげぇ気分いい(ゲス顔)


 だって過去には私をサクッと殺した狼さんがいまや私をこんなに評価しているんだよ?もっと褒めて。


「こんなこと頼むのは癪だが、頼みがある」

「うん、なに?」


 いやぁー愉快愉快。この最つよ国王に何でもいいな?


「俺と戦ってくれ!」

「うんうん……うん? なんて?」

「俺と戦ってくれ! 俺はもっと強くなりたいんだ!」


 やばいちょっとかなりだいぶまずいかもしれない。


「あの、えっと、その」

「頼むハナ! いやハナ様! 俺と戦ってくれ!」

「あの……もう少し声を抑えていただけると……」



「ハナ様!?」「ハナ様が城下町に来てるのか?」「こっち向いてえぇぇぇーー!」



 ギャラリーが集まってきちゃった。それにそんなに大声で私の名前を叫ぶと……



 穏やかで陽気な日光がとある巨体に遮られ、大きな影が私と狼さんを飲み込む。


「ハナさん? なぜここに?」


 当然のごとく、ネルちゃんが瞬間移動の様な速度で現象する。これが蜃気楼ならどれだけよかっただろうか。当然のごとく、叫べば師匠の耳に入る。それは同時にネルちゃんにも伝わることを意味する。


「ごめんなさい今すぐ帰ります」

「まてよハナ! 話はまだおわtt……」

「何ですかハナさんに害をなすんですか敵ですか敵ですね連れてきますね」


 無慈悲な暴君に哀れな狼が捕まって、ついでに怯えるクソ雑魚ナメクジも捕まって、二人仲良く北城に連行されることとなった。


「ハナさん、言い訳は後でゆっくりたっぷり聞きますから」

「ア、ハイ」



 もうネルちゃんが王様でいいんじゃなかろうか?




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