勇者討伐報酬
イベントから数日、ようやく気持ちの切り替えができた私はゲームにログインする。
「ハナ様おはようございます」
早速姫ちゃんに声を掛けられ、自分がベットに横になっていることに気付く。
そういえば前回はパーチー辞退して部屋で休んだんだっけ。
姫ちゃんに挨拶を返してメニュー画面を開く。うん、師匠たちも復活しているね。
私がそれを確認し二人に念話をしようと思ったその時。
ネルちゃんと念話がつながり、いま師匠を乗せて魔王城に向かっていると連絡を受けた。師匠に話しかけてみたが返事がないので多分かなりネルちゃんが飛ばしているんだろうなぁ。……師匠頑張れ。
そのことを姫ちゃんに伝えて、待つ。……沈黙がつらい。
いやいや待って?姫ちゃんとは初対面というわけではないしお互いに苦手意識もないはずなんだけど。
「あ、あの姫ちゃん!」
「はい? なんでしょう?」
やべ、とりあえず呼んでみたけど特に話題が思いつかなない。どうしよう、「呼んだだけって」とか言ってみる?いやめんどくさい女とか思われるかもしれない。えっと、ええっと……。
私が慌てふためいていると姫ちゃんの方から話題を振ってくれる。
「そいえば戦争中に味方してくださったアルク様とは現在もご連絡を取っているのですか?」
「え、……うん取ってるよ」
まあ正確には取っているというかとれる状況にあるってだけだけど。フレンド登録をしてあるのでいつでも連絡を取ることは可能だ。……まだ連絡してないけど。
「是非あの方とは今後も良好な関係を続けて下さいね! あの方はとても優しくて強いお方です」
どうやら姫ちゃんは北城防衛中はアルクと行動を共にしていたらしい。おめめをキラキラさせながらたくさんの話を聞かせてくれた。
「あ、申し訳ありません私ばっかり喋ってしまって……」
「いいよ全然気にしないで!」
よっぽどアルクが気に入ったんだな……。北城に帰ったらアルクが城下町に入れるように設定しておこう。
姫ちゃんの楽しそうな会話を聞いていたら私の緊張も自然と解けて、普通の会話ができるようになった。そうしてがーるずとーく(?)に興じていると
「ハナさん魔王城に到着しました!」
そうネルちゃんから連絡が入る。
「おっけー、じゃあ玉座部屋で待ち合わせね」
玉座の部屋を待ち合わせ場所にするなんて……まあいいか。
姫ちゃんにも伝えて玉座部屋へ移動する。
玉座部屋に入ると
「ハナさん!」
そう言ってぱっと顔が明るくなるネルちゃん。
「おお、来たかハナ!」
「なんで魔王様がいるの?」
「いや、ここ儂の部屋なんだか……」
それもそうか
「ハナよ久しぶりだな」
「師匠も元気そうで」
これでとりあえず全員sy……あ、ゴブリンさん。
「ねぇ、ゴブリンさん知らない?」
「途中まで一緒だったんですが……北城で作業したいというので北城で降ろしました」
なるほど、ネルちゃんタクシーに乗ってはいたけど途中で降りちゃったのか。
「ここまで来てもらってから言うのもあれだけど……ネルちゃん北城まで飛んでくれる?」
北城にゴブリンさん一人にしておくのはちょっとトラウマが……
「まあ待てハナ、まだ勇者討伐の報酬を受け取っていないだろう、それだけでも受け取ってはどうだ?」
あ、忘れてた。うーん、……戦争直後だからメサリアさんが今すぐ北城に攻め込んでくる可能性は低いかな?
「じゃあそれだけ受け取っていこうかな」
「おおそうか! 今回もタムタスが宝物庫で待っている、今から向かうといい」
魔王様にお礼を言って玉座部を出る。そして魔王城の廊下を歩くとやがて宝物庫の前で待っているタムタスさんが見えてきた。
「来たな、さぁゆっくり選ぶといい」
今回は師匠たちも一緒に玉座部屋に入る。
相変わらず教室ぐらいの大きさの部屋に乱雑に宝物が置かれている。
「なにを貰おうかな……」
実は現在私は武器を持っていない。
前に貰ったあの斧、なくしちゃった☆
ダンさんに遠くへポイされたときに壊れてしまったのだ。握りつぶされたのか落下の衝撃で壊されたのかは定かではないけど……。まあメンテナンスとか一回もしてなかったから仕方がない。
で、ここ最近数多くの戦いをこなしたわけだけど、その中で思ったことがある。
やっぱり私に戦闘は向いてないってことだ。うんまあ何を今更って思うかもだけどね。
確かに私一人でも普通に戦えていた。でも冷静に考えてほしい、私の職業は魔物使いだ。私が戦うのではなく、魔物を使って戦うのが前提の職業なのだ。
つまり魔物の力を借りずに私一人で戦うという状況自体がイレギュラー。基本ネルちゃんの力を借りるので私が力を持つ必要はない。
「というわけでみんな! なんか惹かれるものを見つけたら私に声かけてね」
そう言って各々好きに宝物を見る。
気になった物をタムタスさんに質問し、帰ってきた答えを聞いて慌てて手を放す。この宝物庫ヤベェ物しかないのか……?
そんなことをしばらく繰り返しているとふとある物が目に留まる。
「タムタスさん、この卵は?」
「……実はそれは何の卵かわかっておらんのじゃ。記録によると初代魔王さまの代から保管されており、今日まで孵化していない」
「初代魔王様って……何年前?」
「約1万年前じゃ」
まじか……。ヤバいめっちゃ欲しい。
「構わんが今後も孵化するという保証はないぞ? といってもとても強い魔力を感じるからの。いつかは必ず孵化すると思うのじゃが……」
私が無言で皆を見る。
師匠たちからは当然だが反論など出るはずもない。
皆ごめんよ!でも溢れる好奇心が抑えられないんだ!
私は卵を大事に受け取って魔王を出発した。待っててねゴブリンさん!だいぶ遅れたけど今から行くから!