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魔物使いの少女  作者: つい
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反省

 

 魔王城ではささやかなながらパーティーが開かれていた。


 今回占領した城はお互いに2つで、痛み分けのように思える。しかし、魔王様が言うには私たちは人類に大きな打撃を与えることができたというのだ。


「なんといっても今回で勇者を倒すことができたのだからな!これでしばらくは現れることがないだろう」


 曰く勇者という職業は実力差関係なく魔王様に致命的なダメージを与えてくるらしい。つまり魔王様が100レベで勇者が1レべだったとしても戦闘は危ういということだ。


「勇者にとどめを刺してくれたハナには宝物庫の宝物を一つやろう!素晴らしい活躍であった」


 ニコニコ笑顔でそう言って下さる魔王様だが、私はその賞賛を素直に受け取れない。なんてったってタケシさんを倒せたのは師匠、ネルちゃん、アルクの助けがあってこそなのだ。


 この場にはそんな功労者三名がいない。なのに堂々と賞賛など受けられるはずがなかった。


 それに私がもっと賢く動いていればたくさん守れる命があった気がする。全滅してしまったデラさん部隊とか、何よりもゴブリンさんには本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。


 戦争が始まる前は姫ちゃんを戦地に出さないつもりだったのに、実際は姫ちゃんを残して先に死ぬ&がっつり最後まで戦わせてしまっている。


 戦争だから人が死ぬのは当たり前。何よりこれはゲーム。そうわかってはいるけど死んでいった彼らにも帰りを待つ家族がいたかもしれないと思うと……はぁ……


「まあハナよ、少なくとも我らの部隊はみないつでも死ぬ覚悟ができている。それにハナはデラークを守ったではないか。その身を犠牲にして」


 どこまでも沈んでいく私の気持ちを察知した魔王様がそうフォローをしてくれるが全く気持ちは晴れない。


「まあ今日はもう休むとよい。戦争で疲れているからきっと思考も後ろ向きになってしまうのだ」


 魔王様がそう言うので私はパーティーを辞退し、部屋を借りてログアウトすることにした。


 ぶっちゃけ今は能天気にパーチーと洒落込む気にはならない。


 私が辞退を宣言すると姫ちゃんが私もと続ける。


 姫ちゃんは楽しんでおいでと言おうと思ったが、言葉を飲み込む。……ほんとに姫ちゃんは天使だな。幽霊だけど。


 私が玉座部屋から出ていこうとしたときデラさんがボソッと私に、聞こえるギリギリの声量で言った。


「助けてくれてありがとな……」


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 プレイヤーも中央の共通都市にてささやかなながらパーティーを開いていた。


 そのパーティーをアルクは少し離れたところから見守る。


 途中で人類を裏切ってしまったので正直輪の中に入りにくいというのもあるが、もともとみんなでワイワイ騒ぐのがあまり得意ではなかった。


 そうして集団を眺めていると不意に横から声がかかる。


「何故裏切った?」


 ダンが短くそう言った。


 ダンは決して怒っているわけではない。ダンとはかなり付き合いが長いのでそのことはすぐに分かった。なのでこちらも正直に答える。


「ずっと防衛……暇」

「そうか、それは悪かった」


 私もダンも戦うことが好きだ。なのに今回の戦争では防衛専門で自ら攻めることができない。南城は人類最後の砦であるため、タケシに死守するように言われたのだ。そしてその防衛はあまりにも暇だった。ダンがすべて獲物をとってしまうから。


「俺は楽しめたからいいが……あとの二人はカンカンだぞ」


 あとの二人とはタケシとメサリアのことだろう。


「多分今も文句を言ってやろうとお前を探して……見つかったっぽいな」


 二人が大股でこちらに歩いてくるのが見える。


「おいアルク!どういうことだ説明しろ!」


 タケシがものすごい顔で私に詰め寄る。きっとタケシの怒りは相当なものだろう。なんといってもタケシは勇者に選ばれていた。もし戦争を生き残ることができていたらその勇者という職業は正式にタケシのものとなり最強のプレイヤーになれたに違いない。


 メサリアが怒っているのはなぜだかわからない。メサリアのギルドは魔法使いに偏っているためにアルクが手を出すまでもなく魔王軍に壊滅させられていたからだ。


「理由……暇だったから?」

「ふざけるな! お前が邪魔しなければハナを倒せていた! そうすれば俺は! 俺は……!」

「気持ちは分かるが落ち着け」


 今にも子供みたいに暴れだしそうだったタケシをダンが宥める。少しするとタケシも落ち着きを取り戻したようだ。


「悪い……ゲームは自分の好きなようにやるのが一番だもんな……」


 そういうとタケシは私に謝罪をした。


「謝らなくていい、私も少し軽率だったかも」


 改まって謝られると申し訳ない気になり、一応謝罪らしきものをしておく。この場に適しているかは知らないけど。



 しかしメサリアはというと未だに怒りが収まっていないようだった。


「それならアナタ、何かハナの情報を教えなさいよ!」


 その声を聴いてみんなが一斉に黙る。やはり結局のところ皆そこが気になるのだ


 私はハナと苦難(北城までのマラソン)を共にした仲なのでそれなりに仲良くなったと思うし、未だ出回っていないような情報もたくさん仕入れることができた。



 でも、ここでそれを伝えてしまうのはフェアじゃない。それに私はハナともっと仲良くなりたい。だからここではごまかすことに決めた。


「じゃあ一つだけ、…………ハナは人間の言葉が話せない」


 そう私が軽い冗談のつもりで言う。


「やはりか、最後に呼びかけたが反応がなくてな……」


 とダンが


「嘘だろ……でも手紙は……そうか! 翻訳されたものだから不自然な文章に……」


 とタケシが


「やっぱりそうなのね! もう容赦する必要ないわ!本気で北城を攻める計画を……」


 とメサリアが


 三者三様それぞれ、普通に考えればあり得ないことを真剣に悩み始める。


 アルクは吹き出しそうになるのを全力で堪えた。


 冗談だと言おうと思ったが、その言葉を飲み込む。


 なぜならその方が圧倒的に面白そうだから。




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