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魔物使いの少女  作者: つい
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決着

 

 私も師匠も成長した。ネルちゃんがやられたからと言って、昔みたいにうろたえたりはしない。ゆっくりとこちらに歩いてくるタケシさんを見る。


 結構ネルちゃんの範囲攻撃に巻き込まれていたはずなんだけど……全くダメージは受けてないな。


 でもまあそんなの予想済み。ネルちゃんも倒せないと分かっていたから私たちに託したのだ。


 単純に考えて、敵はネルちゃんを真っ二つにできる火力とネルちゃんの攻撃を無傷で耐え抜く装甲を持っている。おまけに油断もしてないし、一般職ながら城ギルド城主のプレイヤーだ。動きだって一切無駄がない。


 一見勝つことは絶望的にも見えるが、私には魔王の剣があるし、邪魔な他プレイヤーはネルちゃんが倒してくれた。


 私はインベントリ操作をして装備を魔王の剣に変更し、タケシさんに向けて構える。


 それが戦闘開始の合図になり、タケシさんが一気に突っ込んできた。


 私はとりあえず全力で横に転がり回避する。掠る程度でも致命傷になりかねない。


 その剣は地面に叩き込まれ、土煙が視界をふさぐ。


「ハナ! 全力で左にとべ!」


 師匠の念話でまた全力で横に飛ぶ。


「ハナまた来るぞ!」


 ちょ、ちょっと待って!タイム!タンマ!


 そんなことしても時間は止まるわけもなく今まさに私に剣が迫ってきたその時


 私の耳のすぐ横を何かが高速で飛び、甲高い音を立ててタケシの剣とぶつかった。


「アルクか……面倒だな」


 ゑ?アルク?確かにドラゴンと勇者が大暴れしたおかげでかなりひらけてはいるけど……ここは森だよ?障害物盛り盛りだよ?そもそも北城から東城まで超離れてるし。


 ポカンとする私とは逆に、タケシさんの行動は明らかに慎重になる。


 タケシさんの行動が慎重になったってことは、これだけ距離があっても有効打を与えるスキルをアルクが持っているってことだ。皆目検討がつかない。もしかしたら私はとんでもないヤツを仲間にしちまったのかも知れねぇ……


 現状実質3対1。私の攻撃がタケシさんに擦りでもすれば私たちの勝ち。逆もまた然りだが、タケシさんの攻撃はどうやったってアルクには届かない。つまりこっちが有利だ。


 師匠の回避指示を頼り、私の甘い立ち回りをアルクの援護射撃でカバーし、デラークさんに教えて貰った技術をフルに使って。それでようやくタケシさんとの戦闘が成り立つ。


 何かが欠けたら崩れてしまう。そんな危うい戦闘が続く。


 私たちはお互いに決め手がなかった。そして、この戦闘が長引けば長引くほど不利になるのは私たちだ。


 実際、私は少し疲労を感じ始めていた。そしてさらに、状況は悪い方向へと転がる。


「ハナ、北城に敵が来た、援護はしばらく無理」


 短くアルクから念話が届く。


 途端にタケシが先ほどとは打って変わって、強気に攻めてきた。多分向こうも北城に攻め入ったという情報を聞いて、アルクの援護が無くなると予想したのだろう。


「ハナ、このままでは負ける。だから……」


 師匠がはっきりとそういって言葉を続けた。


「……分かった」

「頼んだぞ」


 師匠の作戦を聞いた私はやはり少し戸惑うが、代案も思いつかない。


 何度目かのタケシさんの攻撃を剣で受け止めるが、私は受けきれずに膝をついてバランスを崩す。


「……っ!終わりだ!」


 よし!うまくいった!


 タケシさんの剣が迫るも当然受けきれない。そして私に剣が迫る直前


 人化した師匠が私をその場から突き飛ばし、代わりにその剣を受けた。


「<師匠>が撃破されました」


 そんなシステムメッセージを聞きながら、私は即座にタケシさんを囲むようにスケルトン軍団を地中から召喚する。


「チッ!」


 案の定、タケシさんは現れるスケルトン軍団を一撃で消し炭にしていく。さすが勇者だけあって武器に聖属性があるっぽい。


 しかし、タケシさんはこれで私を見失った。背後から剣をタケシさんに向けて突き出す。


 って、ちょっ!?


 凄まじい反応速度で振り返りタケシの剣が私の心の蔵を貫く。


 ……何とか勝てた


 私の持つ剣がタケシに突き刺さる。


「チッ! なんだよそのスキル……」


 そう言い残してタケシさんが光に包まれて消えた。


 ……危ないところだった。まさか反応してくるとは……


 私の持っていた魔王の剣がタケシさんの消滅と同時に消え、私は黒いオーラを放つ自分の右手を見る。


 なんか……試合に勝ったけど勝負に負けた感。


 師匠の作戦はこうだった。


 今まで受け流していたタケシさんの攻撃をわざと真正面から受け止めて隙を作り、そこを攻撃させる。

 しかしそれでは私に攻撃が当たり、勝てなくなってしまう。そこで師匠が身代わりになり、スケルトン召喚でタケシさんの注意を引き死角からとどめを刺す。師匠の犠牲を前提であり、確実性もない作戦だった。


 結果としては一日限定復活まで使うことになってしまったが、とりあえず作戦の目標であった勇者撃破は成功した。


 ……師匠やネルちゃんの犠牲がなければ勝つことは絶対に不可能だった。けど…………


 だからって割り切れるもんじゃない。


 …………絶対勝つから!


 そう心に誓い。私は東城の玉座を破壊しに向かった。





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