勇者
「うわぁ……」
眼下に広がる光景に思わず声が漏れる。
援軍?本隊の間違いだろ!ってぐらい数が多い。見つからないように高度をとっているのではっきり認識はできないが、細かい点々が動いているのが見える。
「ひとりひとりの装備はそこまで良いものではありません」
ネルちゃんはそう言うがそれはネルちゃん視点であって、私にとっては初期装備の新人プレイヤーでさえ脅威になりかねない。
「ハナさんどうしましょう? 今なら相手もかなり油断しているのでたくさんやれそうですが……」
「うーん」
きっとネルちゃんなら反撃を受けずに結構な数を倒してくれそうだけど……その後がなぁー。
きっと玉座で復活したプレイヤーたちはお城に引きこもってしまうだろう。そうするとネルちゃんがだいぶ活躍しにくくなるし城内に攻め入るのも難しくなる。
「とりあえず魔王軍の到着を待とうか」
プレイヤー軍は城をかなり明るくライトアップしているので距離をとってネルちゃんの高度を下げていく。
「とりあえずこの辺で」
東西南北の城には必ず近くに森がある。いったんネルちゃんには人化してもらってそこで息を潜めようと試みる。しかし
「ハナ、2人近づいてくる」
師匠が小声で素早くそう伝えてきた。
「おい、本当に見たのか?」
「本当だって! 暗かったけどアレは間違いなくドラゴンだ! この辺にハナが潜んでいるぞ!」
うん?なんか聞き覚えがある残念な声だ。
「……この男! やりましょうハナさん」
「まってネルちゃん、ここで正体がバレるのはまずいよ」
もしここで戦闘になった場合不利すぎる。だって相手は大声を出せばそれで勝ちだ。この2人組をやれても声を聞きつけて続々とやってくる援軍にやられる。
しかしここでは隠れる場所はなし、動けば間違いなく音でバレる。私が。
この絶体絶命の状況をどう打開すればいいのか?答えは簡単だ。
そう、戦闘をしなければいいのだ。
私はインベントリを操作してクモーズ&トリプルAを展開する。
ゴーレム自体にもレベルがあり、そこそこレベルになったこの子たちは私のインベントリに入れるようになったのだ。
非人道殺戮マシーンたちが列をなし、カサカサと目標へと行進していく。
3匹ずつに分かれてテキパキとそれぞれスタンバイし、次の瞬間
「……!!!」
「……!」
軍曹とアルちゃんが2人の喉元を切り裂き、下に待機していた4匹が足を切り裂き、いや完全に身体から切り離す。
その間わずか2秒。……とんでもねぇもんをつくちまった……
「…………!!!!!」
「……!!」
たった2秒で声と移動手段を失った2人は地面に倒れる。
私はここでゴーレムたちに待てを指示する。殺しちゃったらこの森に何かがいるって伝わっちゃうからね。生かさず殺さず魔王軍が来るまで待っていてもらおう。
とりあえず一安心して、魔王軍の皆さんを待とうとしたその時、だった。
「かなりの大人数がこちらに迫ってきている」
師匠が焦った声でそう言った。
なぁんで?……あ。
声も足も封じて安心していたが、プレイヤーにはまだ連絡手段が残っていることを思い出す。それはメニューから操作してできるチャットだ。
現実ではありえない、ゲームならではの連絡法
完全に忘れてた。だってフレンド0人なんだもん……使ったことないんだもん……
メニューの操作は腕や慣れしだいでは頭で考えるだけでも操作できる。残念男は未だにパニックしてるので、おそらく坊主頭さんが連絡したに違いない。
これはヤヴァイ
まず逃げるのは無しだ。ここで人化を解けば必ずネルちゃんは見つかって、安全高度にたどり着くまでどれだけの攻撃を撃ち込まれるか分かったもんじゃない。
低威力でも数があるとさすがのネルちゃんでも危うい。こちらにはネルちゃんの体力が回復できるような強いポーションがないのでできるだけ被弾は避けたいところだ。
ゴーレム軍団も相手が少数ならいいけどあまりに多いと処理が追いつかなくなってしまう。一応全身鉄でできてはいるが耐久は決して高くはない。
不幸中の幸いか、スマホ石に魔王軍からまもなく追いつくとの連絡が入った。
……やるしかない。傷つきながら逃げるより、戦って少しでも貢献がしたい。
「みんな、やるよ!」
「はい! 頑張りましょうハナさん!」
「ふむ、かなり数は多いが十分勝てるはずだ」
「カサカサワシャワシャ!」
ゴーレム軍団の待てを解いて、とりあえず2人にとどめを刺して、木の上に行くように指示。プレイヤー軍が到着したら飛び降りて、手当たり次第に殺戮を開始してもらう。
陣形とか組まれたら勝ち目ないのでゴーレムで混乱している隙に飛び出して乱戦に持ち込む出来る限り奮闘して、魔王軍到着が先か私たち全滅が先かの勝負だ。
大人数の移動なら音も紛れるだろうと思い、少し移動してそれぞれ木の幹の後ろに隠れる。
少しすると私の耳でも話し声が聞こえるほどの距離になってきた。
よし、やるぞ。
心のなかでカウントダウンして、ゴーレム軍団を木から降下指示。プレイヤーの叫び声を合図に私たちはいっせいに飛び出す。
そしてあるプレイヤーが目に入る。
それはタケシだった。東城城主のタケシ。
生きとったんかワレェェェ!じゃなくて!なんか装備というか身体というか、光ってない?
そうタケシの身体はうっすらと光に包まれていた。その光はとても神々しく、私は一眼見てすぐに察する。
コイツが勇者だと