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魔物使いの少女  作者: つい
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転機は突然に

 急遽、私は再びログアウトして『始まりの街』(仮称)周辺の狩れそうな魔物を探すことにした。


 そして、候補が三匹見つかる。


 一匹目、でっかいイモムシ。


 速度が遅く、反撃されにくい。ただし見た目がキモい。イモムシのくせに大型犬くらいのサイズがある。キモい。


 二匹目、イノシシ。


 こいつは突進しかしてこないので、比較的戦いやすい。


 三匹目、師匠……じゃなくてウサギ。


 最弱。

 

 狩るならウサギは無しだ。師匠のウサギ社会での信頼が、底辺どころか地獄まで落ちてしまう。


 イノシシも危ない。バカみたいな一直線突撃さえ避けられない、アホがいる。私だ。

 

 残ったのはイモムシ。じゃあ、イモムシ狩るか。キモいのは嫌だけどしょうがない。


 覚悟を決めた私はもう一度ログイン。すると目の前に師匠。どうやら最後にログアウトした場所から再スタートらしい。


 コレ、運が悪いと出た瞬間死とかありそうで怖い。


「む、戻ってきたか」

「え、あ、うん」


 何にも考えてなかったけど、今のって師匠の目にどう映ったんだろう。私は一瞬でここに現れたわけで……うん、こういうのは考えないようにしよう。


「師匠、イモムシ狩り行こう!」

「了解した」


 私と師匠は並んで歩いて、イモムシの出現するエリアへと移動を開始する。移動と言っても、近場で探したのだから距離はない。数分歩くと、目的地の『狼の森』(仮称)が見えてきた。


 イモムシはこの森の近くに出るらしい。今日はダラダラとイモムシ狩って終わりかなぁー。


 私はそう思っていたのだが、困ったことにイモムシが一匹も見当たらない。というか、道中も一切魔物に襲われなかった。森もやけに静かだ。


 ちょっと嫌な予感するな。


 困ったことに私の嫌な予感は百発百中絶対命中不可避である。困ったことに。


 次の瞬間、辺りが暗くなる。うん? 急に夜になったのかな? ゲームってやつは時間の表現がアバウトだなぁ。昼か夜しかないのかい? HAHAHA!


 現実逃避をする私の耳に、遠くで鳥が一斉に羽ばたいて逃げる音や、狼の遠吠えが響き渡る。


 バッサッバッサと音を立て、木々を凄まじい風圧で揺らし、私たちに影を落としていたそいつは堂々と、私たちの前に降り立つ。


 日の光を受けて赤く輝く鱗。大きさはゾウより少し大きいくらい?


 ああ、これがドラゴンってやつね。


「えっと、どうも。こんにちは」

「あら? あなた、龍語が喋れるのですか?」


 こんなイカツイ顔と体なのに、声はゆるふわ天然のお姉さんって感じだ。……師匠と声の設定間違えたのかな? まあ、私はもう師匠で十分耐性がついてるからね。見た目詐欺には動じないよ。


「ええ、まあ。……あの、私たちに何かようですか?」

「いいえ、たまたま飛んでいたら、綺麗なお花を見つけたので」


 ふぅ。とりあえず温厚そうな人……じゃなくてドラゴンで一安心。てっきり、『ここは俺様のナワバリだ、下等生物ども!』って感じで殺されるのかと思った。……いや待て。お花=私たちの可能性、あるか? 『綺麗なお花! 摘んで持ち帰っちゃおうかしら!』っていう無邪気の狂気パターン?


「お花、好きなんですか?」

「ええ! といっても、この体では触れることもできないんですけどね」


 確かに、その凶悪な爪では抉ることしかできないだろう。


「主人よ。急にそんな大声で威嚇するような声をだして……恐怖で狂ったか?」

「狂ってないから! 可愛らしいお花の話! ガールズトーク中!」

「お花……? ガールズトーク……? この声の調子で?」


 もう、師匠はちょっと黙ってて! 今私たちの命がかかったやり取りしてるんだからね?


 とりあえず、お花=私たちの線は無しとみていいかな? このドラゴンさんは本当にお花が好きなだけで、そこにたまたま私たちがいただけと。


「良かったら、お花とってあげましょうか?」

「いえ……私は眺めるだけで。摘んでしまうのはかわいそうですし」


 それもそうか。花も生きているわけだし、今の発言は不用意だったかもしれないな。んー、なんか可哀そうだし、どうにかしてあげたいけど、何をどうすれば可哀そうな何かがどうにかなるのか分からない。


「あなた達は逃げないのですね」

「え?」

「私が来ると、大体逃げられるか攻撃されるか、どっちかなんです。お話するなんて初めてです」

「あー……」


 当然か。師匠曰く、私達は現在威嚇するような大声で、吠えるように可愛いお花の話をしていたようだ。そんな状態で口を開いたとして、言語が理解出来ない一般人や動物は逃げるしかないだろう。


「それに、ドラゴンの身体は優秀な防具や武器になるみたいで……積極的に追いかけられることも多いです……」

「強いってのも、大変なんですね」

「そうなんですよ! 安心して、寝てもいられないんです!」


 そんな生活だからこそ、風に揺れる花をただ眺める、そんな落ち着いた時間がこのドラゴンさんは好きなのかもしれない。


「主人よ、このドラゴンも仲間にするのか?」

「え?」


 急に何を言い出すんだこのウサギは?


「それは流石に……」

「私たちにとっては心強い味方となると思うのだが……」


 そりゃそうだ。むしろこのドラゴン一匹でいい。私たちはいてもいなくても変わらない、完全なる背景と化すだろう。


「当たって喰われろってやつだ」

「そんなことわざは知らない……」 


 うーん、まあ雰囲気的にも急にとって喰われることはないはずだ。でも仲間にするってことは契約をするってこと。契約をするってことは絶対的な上下関係が生まれる。いくらドラゴンが強くて私が弱くても、システム的には私が絶対の上でドラゴンは下。

 

 つまりドラゴンにはデメリットしかない。わざわざはるかに格下である相手につくなんてありえないだろう。


 よっしゃ! 喰われてやろう。


「よかったら私たちと一緒に来ませんか?」

「……それも、いいかもしれませんね。正直この生活にも疲れてきましたし」

「デスヨネ……え?」

「あなたは、他の人間と違う。私から逃げもしないし、私を襲いもしない。それに龍語を話せる人間とは初めて会いました。もしかしたら、これもは運命なのかもしれません。まだ子ドラゴンなので力になれるかわかりませんが……どうぞよろしくお願いします!」

「ス、ストップ! タイム、タイム!」


 私は横にいる師匠を見る。


「む? どうした主人よ? まさかドラゴンは兎ステーキをご所望か?」

「いやしてないしてない。というか私自身何が起きたか分かんない」

「ん? どういう意味だ」

「……ほんとに仲間になってくれるって」

「…………」

「はいストップ! ウサギ肉はいらないから! 筋肉をほぐす運動はやめて!」

「ならば金銀財宝か、私の角や毛皮を売ればかなりの額になるだろう」

「自分に自信持ちすぎでしょ!?」


 私と師匠のやりとりを楽しそうに見つめるドラゴンさん。


「もしかして……言語理解してます?」

「ええ、喋れはしませんが、理解するだけならなんとか」


 ドラゴンって頭が良いんだなぁ。どっかのウサギとは大違いだ。


「それで……本当にいいんですか?」

「ええ、そのウサギさんを見ていれば、あなたが悪い人でないのは分かります。それに、とっても楽しい毎日が送れそうで楽しみです」


 別にこっちだって漫才やりたくてやってるわけではないです。……まあいいか。ドラゴンさんの気が変わる前に契約しちゃおう。


「では失礼して……」

「はい、お願いします」


 そう言ってドラゴンは頭を下げた。


 ……よし、これで完了! っと思ったら、ドラゴンの額に謎の紋章が浮かび上がる。ナニコレ?


「なんか、変な紋章でたけど?」

「それは契約の証ですね。ウサギさんにはついてないんですか?」


 なぬ? そんなの初めて聞いたぞ。スキル説明にも書いてなかったし。


「この紋章は飼い主を表すだけでなく、能力アップの効果も付いているらしいです。噂ですが」


 へぇー。まあ悪いもんじゃないってことだよね。なら良かった。


『名前を決めてください』


 おっと、私の中の小宇宙がビックバンを起こす時間だ……自分でも何言ってるかサッパリ。


 ドラゴン……リュウ……トカゲ……ネルロ! よし、ネルロで決定! また新たな宇宙が誕生したね(?)。


「今日からドラゴンさんの名前はネルロね!」

「わざわざ素敵な名前まで! ありがとうございます!」

「私はハナで、こっちは師匠!」

「ふむ、よろしくなネルロ」

「はい、よろしくお願いしますハナさん! 師匠さん!」


 こうして私は心強い味方を手に入れた。

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