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魔物使いの少女  作者: つい
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不仲

 

「で、そのカギは何に使えるのかしら?」

「……さあな。ボーナスステージにでもいけるんじゃないか?」

「アナタねぇ……用意したのはハナよ? 公式ならともかく、私たちが有利になるような展開あるわけないでしょ!?」

「いやわかりませんぞ! もしかたらハナ殿は演出雰囲気重視のエンターテイナーという可能性も」

「ないわ!」


 全否定するメサリア。まるで俺たちの頑張りが無駄だったみたいだ。まあ実際無駄になる可能性は高いのだが。


 兎を追い詰めるのにはかなり苦労した。闇雲に追いかけても捕まるはずがなく、おまけにトラップのつもりかバナナの皮が大量に道端に落ちてたり、工事中の看板があったり途中からはなんか別ゲーをやっている気分で存外楽しめた。……曲がり角曲がって即トラバサミにはさすがに閉口したが。


 結局二人一組に別れてようやく袋小路に追い詰めた。ここで兎を倒すことも可能だったが俺たちはあえて攻撃せず、兎がカギを置いて逃げていく背中を見送った。


 別に倒しても良かったが、倒す理由もない。メサリアの話を信じるなら兎がドラゴンレベルの魔物に化けるそうだが、少なくとも追っている間はそんな気配微塵も感じなかった。


 とは言ってもまだイベントは始まったばかりだ。今後で化ける可能性も十分ある。


 まあなんにせよ慎重に進めていくとしよう。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「なるほど、つまり例のペンダントはそのボーナスステージの宝箱においてきたと。そしてその部屋のカギは現在敵の手中にあるというわけですね?」

「ゆーあーらいと」

「今すぐとってこよう。元はと言えば私がカギを敵に渡したのが悪いのだから」

「いや、どう考えてもハナだろ」


 はぁ……分かってないなゴブリンさんは。こういうイベントごとは演出や雰囲気が大切なのに……自分たちの損得は二の次三の次だよ?(友達なし引きこもりの意見です)


「まあどのみち部屋にはカギ付き扉以外の入り口ないから行ってもしょうがないけどね」

「じゃあ持って出てきたところを奪うしかねぇか」

「そんな! 危険だよゴブリンさん! 相手の数が多すぎる!」

「は? 別にオレは行くとは言って」

「ありがとうゴブリンさん! ……信じてるよ、私。……ゴブリンさんなら負けないって!」

「いやだから行くとは」


 ゴブリンさんに視線が集まる。



「……任せておけ」

「さっすがゴブリンさん! よっ大統領!」

「持ち上げ方が雑なんだよ……」


 そう言いながら部屋を出ていくゴブリンさんにアルちゃんがついていく。よし、虫型ゴーレム全軍出撃!


 トコトコカサカサ列をなし、ペンダント奪還作戦が始まった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……何もないな」


 城内のトラップも少人数の方が避けやすい。探索を効率よく行う等の理由からあれから複数のグループに分かれて探索が始まった。なお、タケシのグループはそのまま変更ない。メサリア、ゴンベイのギルドは全員が全員そうではないが、やはりレア職は多い。気の知れた味方ならともかく、別ギルドの一般職なんかとは組みたくもないのかも知れない。……まあそっちの方がこっちも気が楽でいい。


 そんなわけで見知った顔ぶれで城内の探索をしているのだが


「メサさんがいうには入ってからかなりのゴーレムに襲われたみたいだし、それで迎撃作戦は打ち止めなんじゃない? ハナの職業じゃ凝った設置型の罠とかも作れないだろうし、裏切り者付いてたらNPCも頼れないみたいだし」

「プレイヤーの協力者……いや、ないか」


 北城には暇な自称正義プレイヤーがスキあらばハナを殺そうと張り付いていたし、ハナの城下町はプレイヤー禁止の設定がなされていた。


「あぁもう! ホンット迷惑よね! 同じプレイヤーなのになんで協力できないの!」


 兎を追いかけて思ったことが1つある。


 ハナは今回裏切者として参加しているわけだが、別に俺たちと敵対したいとかではなく「そっちの方が面白そう」なんて理由だったりするかも知れん。


 それはまあ、本人に聞いて見ないとわからないが。


「お、タケシ! あったぞ!」


 ギルドメンバーの声に呼ばれていくとそこには


「とりあえず、努力が無駄にならなくてよかったな」


 カギ付きの扉があった。扉にはご丁寧に『ぼーなすすてーじ』と手書きの張り紙がされている。


 まだカギが違うという可能性もなくはないが……


 カチッ


 小気味良い音とともに南京錠のオブジェが外れて消滅する。


 ちなみに丸いドアノブで、全く南京錠は意味がないのだが、そこはゲームの世界なので関係なく、カギがないとどうやっても開かない。


「ゆっくり開けろよ」


 なんとなくここにトラップなど設置されていないという気がしていたが、一応仲間の忠告通りゆっくりと扉を開ける。



 結局、トラップなど何もなかった。



 もともとは図書室だったのだろうか?オレたちの城と比べるとだいぶ小さいが本がたくさん並んでいる。……ハナは英国が好きなのか?


「タケシ! なにかあるよ!」


 本棚と本棚の隙間にその箱は置かれていた。宝箱というよりは木箱だ。


「あ、開けるぞ……」


 最大限の警戒をして開ける。そこには


「ペンダント? 装備か……!」



 早速手にとって効果を確認する。



『01発明品No.038』


 『装備効果』

 魔法弓矢等の遠距離攻撃を全てを無効化する


 『装備ボーナス』なし

 『耐久力』なし

 全職業で装備可能


 ※イベント終了時に自動的に消滅します。


「なんだよ……これ」


 もう一度言わせてくれ。


「なんだよ……これ」

「ちょっとタケシ! 早く戻ってきてよ!」

「あ、ああ……悪い」


 本棚の隙間は広いとは言えず、ガチガチに装備していると人一人通るのが精一杯だ。オレは震える手で装備を持って仲間の元に戻る。



「ちょっと!? 何この装備!」

「なんだよ!?(以下略)」

「(以下略)」


(以下略)


 だいたい思い通りの反応を見せるギルメン。


「ハナって実は公式のNPCなんじゃねぇか?」


 ポツリとそんなつぶやきが聞こえてくる。


 ……たしかにいくらなんでもこれはやりすぎだろう。精々質のいいポーションやドラゴンの鱗でも入っているのかと思ったが、まさかこんなチート装備が入っているとは。


「……このことはメサリアたちには内緒にしてくれ」


 人類側は一枚岩ではない。表面は協力し合っているようにみえてお互いに騙し合い。出しぬきを繰り返している。イベント限定装備とはいえ、これを他の奴らに取られるのはなんだか気分がよくない。


 それとなく探索の痕跡を隠して、部屋を出ようと決め、各々が散って部屋の復元に向かった。



 それがいけなかった。



 警戒の割にトラップがなくて拍子抜けしていたのもあった。他のギルドに知られずに最強装備をてに入れた優越感による慢心もあった。結局のところ、オレは油断していたのだ。心の底から。



 心臓を後ろからひと突き。オマケに首を締められて、口から出るのは掠れた呼吸音。



 オレは呆気なく死んだ。大切な装備を持ったまま、仲間に危険を知らせることも出来ず。


 暗くなる視界の中、側に落ちたペンダントを緑色の肌をした腕が持ち上げる。


 今イベントでは一回死ぬと全ステータス50%ダウンの解除不可のデバフを持ってリスポーンできる。その状態で死ぬとゲームオーバーで始まりの街で観戦となる。


 復活ポイントは玉座付近なのでオレはもうこの北城に戻ってきたところで間に合わないだろう。


 パーティーを組んでいる以上、オレの死は視界に表示される簡易HPバーでわかるはずだ。あとは味方が気づいてくれることにかけるしかないか。


 一瞬でも驕り高ぶった己を心から恨みつつ、タケシの意識は完全に途切れた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『ハナ、ペンダント取り返したぞ』

『ナイスゴブリンさん! アンタがロナウド!』

「誰だよ!』

『よしジョニー、そのまま敵全部倒してバレずに戻ってきてね』

『さらっと無茶言うな……』


 アルちゃんの五感とリンクするとこんな声が聞こえてくる。


『タケシ!? ……タケシがやられたわ! 全員警戒! 入り口に集合!』


『ボブ! 大変だ!』

『……なんだ?』

『多分バレた! プレイヤー集団は武装して入り口で待機中!』

『おい、全員倒すどころか帰るすらきつくねぇか……』

『最悪ペンダント捨ててでも帰ってきて!』

『は? それじゃあ来た意味が』

『いいの! ……私にとって、ゴブリンさんの方が大切だもん』

『ハナ……じゃあ最初っからこんな危険地に送り込むんじゃねぇよ!』

『健闘を祈ります! では』

『おい! 逃げんな!』


 ささっと念話を切って三秒ほどゴブリンさんの健闘を祈る。


 まあなんとかなるでしょ。ゴーレムもいるしゴブリンさんだし。


「応援に行きましょうか?」

「あ、ジオさん。……うーん、大丈夫! ゴブリンさん強いから!」


 ゴブリンさんは負けないと思う。強くそう思う。根拠はないけどね。


 しかしクモーズ全軍だしちゃったのは間違いだったな。おかげで他グループの動きが全然見えん。


「師匠周辺警戒よろしく」

「任せておけ」


 師匠が複数の足音を捉えるのに、そう時間はかからなかった。

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