脳筋のヤベーやつ
おっと索敵部隊のアブくんから敵発見の報告
アブくんの視界とリンクさせると大量のゴーレムを相手している集団を見つける。
ここは城の入り口かな?数は……五十人くらい?形としてはゴーレム軍団から後ずさる感じで城内に入っているね。
つまりこっちから行けば背後をつけるかな? あ、城内ゴーレムの行動制御しないと。姿を見せない位置で待機させて……よし。私が到着したら全員で飛び出して包囲!殲滅!大勝利!
「よし、後は……」
万が一のために私は着ている黒いワンピースにMPを注ぎ込む。これでこの装備の特殊効果が発動するはずだ。
私のHP低くてよかった。まぁそのおかげでこの効果も微妙なものになって本末転倒な気がしないでもないけど。
「ハナ、すまないカギを捨てて撤退する」
「あ、師匠おつかれ。いやむしろよくこれだけ時間を稼げたね。流石!」
ちなみにこのカギはボーナスステージへの切符だったりする。ボーナスステージを用意するなんて私優しすぎる!天使かよ……
さて準備は整った!
こっそりと顔を出して様子を伺う。……よし!誰もこっち見てないね。
アビちゃんアブくんを戦場が見渡せるかつ目立ちにくい場所に移して……。よし、ゴーレムはまだ待機ね。
ふぅ……
せーの!!
言葉の割にはこっそりと飛び出した私は手持ちの斧を勢いよく振りかぶって地面に叩きつける。すると
「……ッ!? よけろっ!!」
地面、というか床にヒビが入り、集団を分断していく。ちなみにこれは演出なのでこのヒビ割れに囚われたからといって下に落ちていくとかはない。
よし!理想的な別れかた!
三対七くらいに集団が別れる。まずは三の方を叩く!
ゴーレム軍団ごー!!ごー!!
城内ゴーレムは今までのゴーレムとは戦闘力が段違いだ。体の一部に鉄を使用することによってランクを上げ、そのおかげで多少の知性がある。全員ゴブリンさんの訓練を受けているので多少は戦えるはずだ。
「またゴーレムか……!」
アホみたいな大きさのハンマー(?)を装備した漢がそう呟く。
え?これで終わりじゃないよ?
意識を装備している黒いワンピースに向けて、イメージをする。そして
「イヤァーーー!! 離して!!」
突如として響く女性プレイヤーの悲鳴。
お?ぶっつけ本番だけど成功したっぽい?
一人の魔法使いプレイヤーの足を、地中から伸びる白くて細い骨の腕が掴んでいた。
それを合図に次々とガイコツが這い出してくる。その数十体。
これが私の装備する黒いワンピース<死神のドレス>の効果の一つだ。
混乱を極めた戦場で隊列も何もない。
ついにゴーレムやスケルトンに囲まれた二人の魔法使いが倒れる。
「ハナッ! アナタ......!」
やべぇメサリアさんに見つかった。
とりあえずもう一度斧を振り下ろして分断を試みる。
分断して各個撃破。某軍神様が言っていたから間違いない戦法だよね!
よしよし、ちょど半々くらいに別れたね。
戦場には約十五人の集団が三つ。ゴーレムがいっぱいスケルトンが少し。
ハハッ!順調すぎて怖い!!
こちらの戦い方は簡単だ。スケルトンがなりふり構わず数人で抱きつき動きを止める。そこを鉄を仕込んだゴーレムで叩く。最悪スケルトンごと。
「クソ! キリがない!」
スケルトンはバラバラになってもすぐにまた合体して動き出す。まさに不死身の集団。ちなみにそんなスケルトンの倒し方は……
「ッラアアァァァ!!」
そうそう!こうやって粉々にして……さすがに気づくの早くない?
対処法は瞬く間に伝わり、スケルトン軍団が良質な骨粉となるまでそう時間はかからなかった。……あとで回収して畑に撒こうかな。
訓練されたゴーレムではあるが、プレイヤーだって弱くはない。特にここにいる人たちはみなプレイヤーの中でも上位の人たちだろう。スケルトン軍団を文字通り粉砕した集団は、段々落ち着きを取り戻し、次々とゴーレムを粉砕していく。やっぱりあの脳筋集団ヤベェーよ……相性最悪すぎるわ。
そして今、ステゴサウルス隊長の身体が真ん中から折れた。敬礼。
よし!撤収!メサリアさんがキョロキョロ私を探しているのをアビちゃんの視界で確認した私はその場を駆け出した。
ま、まぁ?そう簡単に止まってもらっちゃ困るよね(震え)。
精一杯虚勢を張って、焦る心をなだめようと努める。
ぶっちゃっけここで倒すつもりだったんだが?もう弾切れなんだが?なんならここでボーナスステージ行かれたらまずいんだが?
大体、私一人でここを守るって作戦が悪い!無罪です!作戦失敗しても私は無罪です!全部筋肉ダルマオウ様が悪い!
今から言えばワンチャン許してくれる……?
一瞬そんな思考がよぎった。
……なぁんて、普通に処されそうだな。両陣営から。
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「ハナ! 隠れてないで出てきなさい!」
静かになった戦場で声を張り上げるが、ゴーレム一匹出てこない。
「なんなの……!? あの子……」
魔物使いで人形使いで死霊使い。一体どれだけ使役すれば気がすむのだろうか?
目まぐるしく変わる戦場の混乱もあって、こちらの犠牲者は約十人。侮った。まさかハナ一人にここまでやられるなんて誰が予想できただろうか?
「メサリア、ここからは慎重に進むとしよう」
「ええ。言われなくても」
ゴンベイ自身もハナに対して思うところがあったようで深刻な顔をしている。
「とりあえずタケシを待ちましょう。さっきカギを拾ったって念話がきたわ」
ゴンベイは頷いて城の奥を警戒する。
城の入り口でこれなのだ。一体この奥にはどんな罠が待っているというのか?
メサリアは不安に飲み込まれそうになるのを必死に堪えて、精一杯の虚勢を張ってタケシを待った。
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「おいハナ? どーすんだこれ? どうにかなるんだよな?」
「……禁則事項です」
「おい」
だってさー普通勝てると思うじゃん?まさか相手が全身鋼鉄ゴーレムをぺしゃんこにしちゃうような脳筋プレイヤーがワラワラいるパーティーだなんて思わなんだ。
「そしてお前、ボーナスステージとか言って部屋つくってたけど中には結局何を入れた?」
「…………」
「まさかアレか!?」
「…………」
「おい! もうこれ詰んでねぇか?……荷物まとめて逃げるぞ。チッ、ハナお前なぁ」
「うふふふふふふふふふふふふふふふ」
「悪かった。オレが悪かったから壊れないでくれ」
ハナ、ニンゲン、コワイ。マオーサマ、マダ?