表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔物使いの少女  作者: つい
55/129

前日

 

 イベント前日、魔王城で作戦会議があると、タムタスさんから念話が飛んできた。


 イベント前日に作戦会議とか……ちょっと意識低くない?ゴーレム造りまくった意識高い系の私を見習って欲しいね。そして材料を城まで送って欲しいね。無くなった。




 いつもの門番さんに挨拶してもはや第二のホームと化している魔王城に入る。


「ハナ、待っていたぞ。早速こっちに来てくれ」


 今回の会議は師匠とネルちゃんの参加が認められている。……といっても二人とも魔王様がいると全然喋らなくなっちゃうけど。


「よし、ハナも揃ったことだ。始めよう」

「ハイ」


 魔王様補佐改め、お世話がかりのサシさんが切り出す。


「ではこれより会議を始めます」


 会議の内容は部隊編成、部隊の仕事、注意事項、イベントのルールについての説明が主だった。


 まとめると


 私たちは魔王軍のメンバーとは組まず、私たちだけで一個の部隊。


 仕事は作戦をきいて、指定された場所にネルちゃんという機動力で援護に向かう。それから魔王軍が到着するまで北城を守る。


 注意事項はアルクさん。


 イベの概要はどうやらイベントは長くても三日間。私たちが全ての城を落とせば勝ちで、逆に部隊全て魔王城まで撤退されたら人間の勝ち。三日で決着が着かなければ引き分けって事で終わるらしい。当然サシさんはこんなメタい言い方してないけどね。


 さて、一つ気になるのが、魔王軍の面々が来るまで一人で北城を防衛しなきゃならんところだ。


 いけるかと言われたら……うん。無理ッ!


 どうやら北城は両軍にとって重要ポジションらしくて、向こうも躍起になって取りに来るらしい。


「こちらも出来る限り早く到着出来るようしたいのだが……まあ、間に合わんだろうな」


 無慈悲。人生とは不条理で無情なり。


 まあ、ゴーレムもいるしなるようになるだろう。


 ちなみに魔王城居残り組は魔王様、サシさんタムタスさんだ。最強スリートップが働かないって……まあタムタスさんとかメチャ強らしいしバランス的にも仕方ないのかな。


「さて皆さん、最後に一つ。ここで話した作戦はあくまで予定です。当日は臨機応変にお願いします」


 臨機応変という便利で人任せな言葉で作戦会議は終わった。臨機応変私も乱用してやろうかな。




 北城に帰還。そろそろ城の警備をしっかり準備しておこう。え?前日に準備なんて意識が低い?……あーあー聞こえない。


 イベントが始まると門番さんや魔法障壁はなくなるし、私の城下町設定のプレイヤー立ち入り禁止も意味をなさなくなる。当然、イベントが終われば元に戻るけどね。



 うーん、ただ配置するだけじゃつまんないしなぁ……なんか仕掛けでも作ろうかな。ゴブリンさんに言えば大抵つくってくれるし。よしそうと決まれば


 いくつか意見を思いついたらゴブリンさんに制作依頼を出しに行く。


「ゴブリンさん、ちょっとこういうのつくって欲しいんだけど」

「いいぞ」

「納期明日ね。それじゃヨロシク」

「おう……明日!?」



 ブラック企業?いえいえとんでもない。アットホームな楽しい職場です。社員募集中(人外に限る)



 ゴブリンさんに依頼を済ませて、ゴーレムを配置して回り、姫ちゃんがゴブリンさん用に作った差し入れを毒味し、なんとなーくゴーレムをつくり、流れる雲を観測するお仕事をしていたら。


「出来たぞ……」

「おお早い!」

「まあ数は多いけど簡単なものばかりだったしな。それに人手も増えた」


 ゴブリンさん率いるゴブリンチームは順調に数を増やしている。初めて遭遇した時の人数くらいはもういるじゃないかな?


「戦闘訓練はそこそこやっているからな。それなりに戦力になるはずだ」

「その事なんだけどゴブリンさん……」


 私はゴブリンさんとは契約しているけど他のゴブリンとは契約していない。なのでもしやられちゃったらリスポーンしないのだ。かといって全員と契約なんて言ったらキリがない。


「気にするなハナ。たとえ死ぬことになっても全員覚悟している。それに俺がアイツらには指一本触れさせない。大事な仲間だからな」


 強い瞳でそう言われちゃ納得するしかない。


「じゃあ頼んだよ!」

「おう」


 そう言って私は城内に戻った。




「あ、ハナ様」

「姫ちゃん」


 ばったり姫ちゃんと遭遇。


「今回私だけ力になれなくて本当に申し訳ありません」

「気にしないで。私の方が役立たずだから」


 こんなこと笑顔で言えちゃう事実が憎い。


 姫ちゃんはハマれば強いけどまだまだ不安があるし、何よりこんな純粋可憐な女の子を戦争になんて連れていけない。……といっても北城が戦地になるから、連れて行かなくても向こうからやって来るんですけどね。


 姫ちゃんの主な仕事は衛生兵。戦場の天使(幽霊)になってもらう。まあ、戦争には参加させられないとかいってるけど、実際は魔王城のメイド長様で、私よりも強いからいざという時は臨機応変に。


「当日は任せて下さい。死者を出さないように頑張りますので」


 幽霊さんに言わせるセリフじゃないねこれ。


 そんなこんなで姫ちゃんとも別れる。




 そして自室に向かう途中今度はネルちゃんに会う。


「ネルちゃん、当日はよろしくね。本当にネルちゃんが要だから」


 基本どんなことでもネルちゃんが重要ポジ。牙を抜かれた飛べない私にエクスカリバーと十二翼を授けてくれる。


「私最近やれられてばかりで、ハナさんに申し訳ないです」

「大丈夫自信を持って!」


 たしかに最近ネルちゃんはやられちゃうことがある。でもそれはネルちゃんが弱いとか、周りが強くなってるとかじゃなくて単純に主人の作戦、指示が悪いと思うんだ。全く、私がきつく言っとかなきゃ。はい。


 心の中で陳謝して、ネルちゃんとも別れる。


 自室のドアに手をかけて、思いとどまり師匠の部屋に向かう。


「師匠、いる?」


 返事がない。


 ということはあそこか。



 階段を登り、登り、登る。



 やがて屋上?というか屋根の上というか。まあとにかく上に出て辺りを見回す。


 やっぱりいた……随分端っこにいるな


「師匠!」

「ハ、ハナ!? ッ! ……っと」


 身体をびくりと震わせ、危うく屋根から落ちそうになる師匠。


 あぶねー!絶対なると思ったけどあぶねー!


「ど、どうした。何か用か?」

「あ、いや大したことじゃないんだけど。さっきから偶然にもみんなに会ってね、明日の意気込み的なものを聞いてたんだ。あと師匠の聞けたらコンプリートだなーって思って」

「そうなのか」


 師匠は高所恐怖症(本人は決して認めない)を治すために、たまにここにきている。ネルちゃんに乗るたびに気絶しちゃうのはやっぱり本人も治したいらしい。


「私は弱い……01の薬を飲んだ時、嬉しくもあったが同時に少し悲しい……虚しかったんだ」


 やっぱり。私は何となくその気持ちに気付いていた。


「あの薬がないと私はあまりに無力で、索敵さえゴブリンやネルロに大きく勝るわけでもない」


 それはまああの二人がハイスペックすぎるだけな気がするけど……まあたしかにネルちゃんはともかく、ゴブリンさんもなかなかいい索敵能力を持っている。


「正直、私の存在意義が見つからない」


 師匠はかなり悩んでいるみたいだった。正直私も自分の存在意義って言われてもすぐには思いつかない




 でも




「しかし、私は今がとても楽しい。もしあの時、ハナが私を誘ってくれなかたら今頃はきっと人間に殺されているだろうな。……あっさりと、一切苦戦することなく……な」

「師匠? それ遠回しに私の悪口だよね?」


 私と師匠は役立たずかもしれない。けどマイナスとマイナスでプラスになるように。というか別にプラスにならなくてもいい。


 師匠は私の初めての友達なのだ。私はこれからも師匠と、他の仲間たちと何か、楽しいことがしたい。ただそれだけだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ