表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔物使いの少女  作者: つい
47/129

2度目の襲撃

 師匠の狩りを一言で表すなら、『はやい』と言う言葉が適切だ。


 その恐ろしく強化された脚力をフルに使い、凄まじい速度で駆け回り、すれ違いざまにツノから稲妻が放たれる。


「今の師匠さんには、私でも勝てませんね」


 ポツリとネルちゃんが、少し微笑みながら呟く。


「はい。師匠さんありがとうございます、実験データは充分に集まりました」

「む? そうか。……なんだか物足りないな」


 ちょっと師匠? 『俺より強いやつに会いに行く』とか言いださないでよ?


「大丈夫だ。この力は一時的なものだからな。旅する余裕もない。それに……本物の力ではない」


 ポツリと師匠が、少し俯きながら呟く。


「では城に戻りましょうか。師匠さん、まだ調べたいことがあるので実験室に来てもらってもいいですか?」

「了解した」


 ゾロゾロと城下町に戻り、城へと帰る。


 途中で師匠と別れ、姫ちゃんも夕食の手伝いをすると言って別れ、私とネルちゃんは部屋へと戻ってくる。


 ちなみにネルちゃんも「手伝います!」って言ってたけど、私が全力で引き止めた。魔王城に住む皆さんは命の恩人である私に感謝して五体投地すべき。


 ……っと、何かにつまずいた。


「……何してんの魔王様?」

「ハナが五体投地しろと言うから……」


 ヤバイ! 姫ちゃんがいないから魔王様がやりたい放題だ!


「と言うか……なんでまた勝手に部屋に入ってるの?」

「ああ、実はハナに伝えたいことがあってな」


 なに?



「北城が襲撃を受けている」



 なんで!? ……いや心当たりはある。ありまくりだ。



「ネルちゃん! 戻るよ!」

「ハイ!」


 師匠に念話を繋げて、姫ちゃんに念話を繋げて、事情説明。


『了解だハナ。幸いこっちの用事は終わった。それに薬の効果もまだ少し残っている。急ごう』

『分かりましたハナ様。すぐに合流します』


 魔王様から許可を貰い、魔王城の中庭からネルちゃんに乗って飛び立つ。師匠はサイズ的に不安定なので人化した。


「飛ばします!」


 師匠を私と姫ちゃんで支えて全力飛行。


 まだゴブリンさんが倒されたというメッセージは届いていない。ゴブリンさんはまだ一人で、その襲撃を受けている。


 私が強引に留守番なんてさせたから。いや……北城に大勢のゴブリンがいる以上、ゴブリンさんは自主的に残ると言ったかもしれない……っと解釈するは都合がよすぎるか。


 私はゴブリンさんに念話を繋げようとして、やめた。


 なんて言えばいいのか分からなかった。








「とにかく魔法を撃ち込みなさい!」


 そこかしこで魔法がきらめき、城下町の門から、あるいは城壁を山なりに跳び越えて魔法が降り注ぐ。


 メサリアはその様子を満足そうに眺めながら、自分も火属性の魔法を放つ。


 ハナが裏切り者になった今、少しでも打撃を与えておきたかった。しかし、城下町はプレイヤーが立ち入り出来ず、向こうから一方的にやられてしまうという。そこで魔法使いを主体とするメサリアのギルドに白羽の矢が立ったわけだ。


 ハナの動向を張り込んで見張っていたプレイヤーから、「ハナが仲間を引き連れてドラゴンに乗り、北の方へ飛んで行った」という報告を受けた。空き巣のようで少しずるいかもしれないが、ドラゴンに蹴散らされる心配がないのなら攻め込むタイミングは今しかない。


 メサリア自身も、件の手紙でハナに対して少し怒りを持っていた。なのでこうして襲撃に乗り出した。


「アルクさん、ドラゴンは見えるかしら?」

「……北からそれらしきものが接近中」

「やっぱり。じゃあお願いね」


 ようやく帰ってきたようだ。メサリアは微笑み、ある魔法を準備する。アルクは無言で弓を構える。


 ヒュッっと、とても軽い音からは想像できない様な速度で矢が放たれ、北の空へと一直線に伸びていく。


 ようやくメサリアの目にもドラゴンらしき姿を捉えた。と思ったら凄まじい速度で近づいてくる。


()()()()()


 そう言ってメサリアは、準備していた魔法を発動させた。








「ハナさんもうすぐ着きます!」


 視線の先には黒い煙を上げながら、真っ赤になっている城下町。そして休むことなく降り注ぐ炎や岩やエトセトラ。


「想像よりだいぶ状況がよろしくないね……」


 果たして再建には時間とお金がいくらかかるのか……考えたくもないよ。


「とにかく魔……しっかり捕まっていてください!」


 ネルちゃんが言葉を突然切って、短く警告してくる。


 前方に目を凝らすと、太陽の光を反射しながら、まるで一筋の光のように輝きながら何かが近づいてくる。


「危なかったですね」


 それを腕で弾きながら、ネルちゃんは一度止まって、私たちが落ちないように体を安定させる。


「ネルちゃん今の……もしかして」

「矢……ですね。おそらくアルクさんがいると思われます」


 状況はもっと悪い方向へと転がってしまった。


 魔王城へ逃げ帰ることはしたくない。ゴブリンさんはもちろん、契約をしていないゴブリンたちだって、守れるのなら守りたい。ただ、あの魔法集団にアルクさんまでいるとなると、いくらネルちゃんでも厳しい。



 私がそう考えていると、ぐらりと視界が傾く。



「ネルちゃん?」

「ッ……ハナさん、ごめんなさい」


 ネルちゃんの翼には大きな大きな穴があいていた。焦げた様なニオイが遅れてやってくる。ネルちゃんの翼の動きが、鈍くなる。



 ヒュッっと、軽い風切り音と共に三本の矢が飛んでくる。三本の矢はもう片方の翼を貫き、後ろへと通り抜けていく。


 完全に羽ばたきが止まったネルちゃんは、落ちる。



 凄まじい轟音。



 私は生きていた。かなりダメージを食らったが、まだ死んでいない。どうやらネルちゃんが庇ってくれたようだ。


「ネルちゃん!?  大丈夫!?」

「はい、ダメージ自体はそこまで大きくないんですが……しばらく飛べそうにありませんね……それにバランスがうまく取れなくて……」


 ネルちゃんの体力は残り約七割。


 私や師匠ならともかく、ネルちゃんの体力は膨大なので手持ちの初心者用ポーションを使用したところでろくに回復しないだろう。


「む? どういう状況だ?」


 おお師匠! お早いお目覚めで! とりあえず事情説明。


「なるほど、私はまだ薬が切れていないからな。私に任せておけ」

「師匠さんお願いします」


 師匠が人化をといて、最強形態へと移行する。


「あとは任せておけ」


 そうだよ、おじさまボイスはこうでなくっちゃ。








 メサリアは笑いが止まらなかった。当然だ。あのドラゴンを撃墜したのだから。


『マジックミラー』という、魔法の威力を倍にして返すスキル。効果に差はあれど、大体のRPGに似たようなスキルがあるだろう。


 マジックミラーで容器をつくって、中に雷の魔法を閉じ込める。中で魔法は跳ねまわって、その度に威力が上がって、まさにロマン兵器。このゲームでやろうと思ったら複数人でタイミングをピッタリ合わせないと出来ない。メサリアが全部一人でできるのも職業『大魔導士』のおかげだ。


 反射を重ね、タイミングを見計らって一部のマジックミラーを消す。


 本当はドラゴンの身体を貫くつもりだった。だが狙いは少しズレてしまった。『マジックミラー』はサイズこそ自由に決められるものの、消す時は一面全てが消えてしまう。銃口のように小さな穴をあけるなど、器用な消し方はできないため仕方がない。


「でもまあ、結局落とせたから結果オーライね。アルクさんありがとう。サポートとっても助かったわ」


 もしドラゴンに感づかれて火球でも打たれようものならば、ミラーの箱が壊れ、四方に反射された雷が散って大きな被害が出ただろう。捨て身の技だった。


「……何かくる」


 そう言ってアルクが矢を放つ。方向としては、ドラゴンが落ちた方向だ。まさか、あのドラゴンが猪突猛進でこっちに突っ込んできたのだろうか。


 メサリアは慌てて気を引き締め、ドラゴンとの戦闘に備える。



 バリッ!



 森の奥がピカッと光り、遅れて雷属性特有の音が聞こえる。今のはアルクの矢を迎撃した音だろう。かなり音が大きい。あのドラゴンは火属性のはずなので、ドラゴン以外のナニカということになる。


「……ウサギ?」


 間も無くして森の木々を間を駆け抜けてきたのは、象ほどの大きさを持つウサギのような生物だった。


 それなりにゲーム慣れしているメサリアとアルクは一目で察した。これは間違いなくドラゴンクラス、もしくはそれ以上のバケモノだと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ