表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔物使いの少女  作者: つい
43/129

戦闘

 先に動いたのはゴリラだった。


 眼前まできたゴリラは四足歩行からスッと二足歩行に切り替え、胸部を強く叩く。いわゆるドラミング。


「ウオッ!!」


 ゴリラはそう低い声で鳴くとドラミングをやめて、右の拳を大きく拳を振りかぶる。


「来るぞ!」


 師匠の一声で、私たちはそれぞれ対応する。


 師匠は余裕を持って回避し、背後に回ったのが見える。背後をとれたのはいいけど、果たして師匠の火力でどこまでやれるかは謎だね。


 ゴブリンさんはその場で最小限の動きでかわしている。あ、しかも凄い。カウンターでゴリラの腕に一太刀入れてるよ。ダメージエフェクトが出てるってことは、それがダメージとしてゴリラに影響を与えたってことなんだけど……うん。ゴリラさんはまだまだ元気。痛がる素振りもないし、文字通りかすり傷ってところだろうか。


 姫ちゃんは物理無効だから心配する必要はないはず。……うん。大丈夫そうだね。呪いがかかれば私たちも戦いやすくなるけど……相手はどう見ても格上だしなぁ。あまり期待ではできないね。


 そして私。私は回避できずに殴られて……っと、思うじゃん? 何とビックリ回避出来ちゃったんだなぁコレが。と言っても、本っっっっっ当にギリギリね。地面をゴロゴロ転がって、うおうお目が回る。


 というわけで、ゴリラの攻撃は空ぶった。


 私は戦闘経験が少ない。とっても非常に凄く少ない。なので、攻め時とか分からない。けど初心者なりに今は攻撃のチャンスと判断する。だから、無我夢中で斧を持って走り出す。……絶対構え方間違ってる。重心が安定しなくて走りにくい。


 横目に確認すると、師匠とゴブリンさんも同時に動き出している。二人が動いているならやはり私の判断は間違っていないってことだろう。良かった良かった。


 ゴリラから見て、正面からゴブリンさん。背面から師匠。右側面から私の挟撃。ゴリラは右腕を振り抜いた体制でいるので反撃は出来ないはず。……よし、反撃はこなさそうだ。私の斧がゴリラの右脚を捉え、師匠の蹴りがゴリラの左膝裏を打ち、ゴブリンさんの短剣がゴリラの右腕に浅く突き刺さる。


 両脚に攻撃を受けたゴリラは堪らず前に倒れ込む。流石に効いたでしょこれは。このまま追撃して……と行きたいところだが、私はゴリラから距離を取る。


 戦闘がうまい人ならもう一撃二撃ぶちかましていくんだろうけど、私には無理だ。無理だから無理しないで、着実に行こう。極論今の流れをゴリラが倒れるまで繰り返せば勝てるわけだし、焦る必要はないよね。


 ちらりと周りのみんなに目を向ける。師匠もゴリラと距離を取ったようだ。んーまあ師匠は単純に火力がないからね。追撃は出来ただろうけど、意味がないから離れたって感じだろう。


 ゴリラは前方向に倒れたのだから、正面にいたゴブリンさんの足元にゴリラの頭がある。私と師匠が離れた後、ゴブリンさんが黄金の右足を蹴り抜いて、ゴリラの頭をガツンと蹴る。痛そう。でも、ゴリラは多少ふらつきながらも起き上がり始めた。ゴブリンさん逃げて超逃げて。やっぱそのゴリラやべぇよ……。


 私たちが距離を取ったところで、ゴリラは怒りの雄叫びを上げる。弱った様子は微塵(みじん)も感じられない。タフだねぇ……。今の所被弾の心配はないけど……まさか攻撃パターンが殴りしかないってことはないだろう。魔法とか使われたら一瞬でやられる自信があるぞ。私は。


「申し訳ありませんハナ様。呪いの方は辛うじて掛かりましたが本当に微々たるもので……大きく影響が出るのはかなり後に……」


 姫ちゃんが私にそう報告してくれる。


「ありがとう姫ちゃん。……師匠、この近くに私以外の人間いる?」


「……いや恐らくいない。より精密に探るには目の前のコイツをどうにかしないと無理だ」


 師匠に確認してもらうが、まあそうよね。絶対に近くに、ネルちゃんに矢を放ったプレイヤーが居るはずなんだけど……変にゴリラにターゲットされるのを避けるために逃げたのかな? だとしたらちょっかいかけられずに時間をかけられるからありがたいのだけれど。


 ゴリラが再び右の拳を振りかぶる。


 先程と同じように回避するが、今度はそこで攻撃が止まらない。左に避けた私を追従するように拳が迫る。パンチというより薙ぎ払い攻撃的な?


「ハナッ!!」


 私はそれをしゃがんで回避する。頭上をゴリラの腕が通り抜けていく。


「大丈夫! それより……」


 私はゴリラから距離を取って、師匠とゴブリンさんに攻撃力アップの強化魔法をかける。


 ゴブリンさんは隙のできたゴリラの右腕を掴み、そこから体術で戦おうとする。しかしすぐに諦め、再び距離を取った。まあ、生物として根本的に力が違いすぎるね。強化魔法をかけた程度ではその差は埋まらないだろう。


 師匠は先程同様、ゴリラの膝裏を蹴る。しかし二回目ともなれば流石にゴリラも体制は崩さない。と言うか、師匠の方を気にしてすらいないな。


 ここでゴリラが今までにない挙動を見せる。恐らくゴリラの中で、真っ先に潰すべきはゴブリンさんとなったのだろう。体を完全にゴブリンさんの方に向けてから、ゴリラは体を右に捻る。


 私たちは警戒し、よくゴリラを観察する。


 右に体をひねった状態から、ゴリラは思いっきり回転する。()()()()()()()()()()()()()()()()


 ゴリラの左拳から放たれたものは私の危惧していたものではなかったが、最悪な物には違いなかった。


 大小の石。


 大きな拳一杯に収まっていた石が解放され、散弾のようにゴブリンさんに迫る。ゴブリンさんは大きくなってしまたその身体に、石の散弾を受けその場に崩れる。


「ゴブリンさん!」


 まだ生きてる。とりあえず一安心。でも気を失ったようで、実質戦闘不能になってしまった。


 ゴリラの目が私に向けられる。次の潰すべきターゲットは私か。


 どうする? 私じゃまずあの石の散弾は避けることができない。それどころか、単純な殴りだって薙ぎ払いだって、集中的に連続で狙われたらすぐさま攻撃に捕まってしまうだろう。ああ、そう考えている間にもゴリラは私にグングン近づいてきている。あれ、あの閉じられた手は石を握っているのだろうか? それとも殴りつけるために握っているだけなのだろうか? どこに逃げれば安全だ?


 ゴリラは私を真っすぐに捉えている。もう逃げられない。


 私は恐怖に支配され動けない。


 ゴリラは私を叩き潰そうと、腕を振り上げる。勝利を確信した笑みを浮かべて。


「ハナ!!」


 師匠が今日何度目かの叫びを響かせ、ゴリラの頭に飛びつく。私はぼんやりと残った意識で、こんな状況であるにも関わらず師匠の跳躍力に感心する。


「ハナ様!」


 姫ちゃんが私を射程外へと強引に引っ張る。


 そこで私はようやく我に帰った。


 ゴリラが頭に張り付く師匠を掴もうと腕を伸ばしていた。その腕から、師匠はゴリラの額あたりを蹴って逃れる。その際ゴリラの頭が大きく揺れたようで、ゴリラがふらふらとよろめき、尻餅をつく。


 多分これが最後のチャンス。私はそう判断し、斧を構えて走り出す。斧を構えると斧がスキル特有の光を放ち始める。気休め程度だろうけど、これで多少は威力が上がるはずだ。


 右手で頭を押さえながらも私の接近に気づいたゴリラは、左の手のひらで地面をえぐり、一杯に握り込んだ土を投げようとする。しかし、


「させるか!!」


 いつの間にやら回復していたゴブリンさんが左拳を抱きかかえるように取り付き、それを防ぐ。引き剥がそうと滅茶苦茶に振られる腕を透過で避けた姫ちゃんが、ゴリラの眼前で実体化。顔に抱き着くように取り付き視界を塞ぐ。


 何度地面に叩きつけられても、ゴブリンさんは決して離さない。


 右腕にどんなに引っ張られても、姫ちゃんは決して離れない。


 そして私がゴリラの目前まで来たところで、二人は同時にパッと離れる。


 ゴリラは左腕と視界の自由が戻ったことに喜びの色を示すが、それはすぐさま絶望の色へと変わる。勝利を確信して笑ったり、本当に知性を感じるというか、人間臭いゴリラだ。ウン、臭い。


 私は後のことは考えず、跳躍してゴリラに飛び込む。全体重&重力の力も借りて、


 そして、


 ゴリラの脳天に、私の全力を乗せた斧がめり込んだ。








 ネルロは目を覚ます。


 首が動いたことによってポロリと何かが落ちる。確認するとそれは眠り薬の塗られた小さな矢じりで、自身の身の上に起きたことをネルロは理解した。


 辺りを見回すと、ボロボロになって肩で息をする四人の仲間と、見たことないほど異常に巨大な雪の闘士(スノーウォーリア)が絶命しているのが見えた。


 四人で戦って、勝った。あの疲弊具合を見るに、負けてもおかしくないほどにはギリギリだったに違いない。


 ……ドラゴンに生まれた私は、ハナさんたちを守る役割があると思っていた。戦闘は私の仕事だった。……もしかしたら心の何処か奥底で弱者(なかま)を守る強い自分に酔っていたかもしれない。ネルロはそう思った。


 正直言ってハナさんたちでは通常サイズのスノーウォーリアだって怪しいはずだ。私の協力が無くては勝てない()()()()()。そんなことを考えてから、ネルロは立ち上がった。


 ……いつか私もみんなと肩を並べてギリギリの勝負とかしてみたいなぁ。


 ネルロは仲間の方へと歩いて行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ