表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔物使いの少女  作者: つい
42/129

奇襲

 狼の森の中、私たちは息を潜めて気配を消す。


 『裏切り者』。門番さんはそう言った。心当たりはある。心当たりしかない。ドンピシャで言い当てられてびっくりした。


 確かに魔王軍に味方すると決めた時、制限が付くかもと警告はあった。こういう形で現れるのね。にしても共通都市の門番さんは職業『盗賊』でも入れちゃうザル警備で有名なのに……つまり『裏切者』のレッテルはそれよりも悪いということだろう。


「っと、みんな怪我ない? 大丈夫?」

「私は大丈夫です」

「わた、しも……問、題ない……」


 おっと師匠がだいじょばない。


 見ると真っ白なお尻が一部赤く、ダメージエフェクトが煌めいている。キックをかましに行った時に軽く反撃を貰ったのだろう。師匠は私に負けず劣らずステータスが低いからね。武器が軽く当たっただけでも瀕死だ。


「師匠、ちょっとお尻見せて」

「いや、大丈……夫、だ」


 師匠の服従レベルを上げて抵抗出来なくし、初期荷物の初心者ポーションを師匠のお尻に振りかける。


「ヘッヘッヘ! 叫んだって誰も来やしねぇよ!」

「ハナさん、完全に悪役ですね!」

「せっかく裏切り者ポジションになったから楽しまないとね!」

「もうお婿に行けない……」


 師匠が体力万全になったところでネルちゃんに乗り、北城を目指す。途中、他プレイヤーから魔法の襲撃を受けたりした。


 これはもしかして私に懸賞金掛かってる? 五十ゴールドくらい。私って赤竜一味のペットみたいなもんだしな。


 一般ピーポーの魔法でくたばるネルちゃんじゃない。いつもよりすこーし到着が遅れた以外は特に被害は無かった。北城の首都は人間立ち入り禁止にしているので安全だ。


「裏切り者になったら完全に人間に近づけないのかな……」


 それは困る……困る? 困らんな? あれ、おかしい。今まで通りと何も変わらないんだけど。


 あーでも、飛んでるだけで攻撃されるのはちょっと困る。それにアルクさんに目を付けられたらヤヴァイ。


「とりあえず、城内に入りましょうか」


 そうだねネルちゃん。今回は魔法を避けるために、ネルちゃんが結構動いた。よって師匠はお休み中である。いい夢見ろよ。


 城内に入るとゴブリンさんと姫ちゃんがお出迎え。


「お、ハナ。いいところに」


 そう言ってゴブリンさんが手に持ってるのはヒモだ。ヒモの先を目で追って行くと台車に繋がる。そしてその上に、


 大砲。


 姫ちゃんは砲弾らしきものが入った木箱を持って、ゴブリンさんの隣を歩いている。


「こいつの実験がしたいんだが……いいか?」


 ……それは実験をする許可を求めてるの? それとも的になってくれって意味? いやまあ、前者だと信じて許可するけどね。


「いいよ……ってそうだ!」


 師匠を寝かせて、残りのメンバーで首都の外ギリギリまで行く。


「おい! 卑怯だぞ! そこから出てこい!」


 やっぱりね。正義感溢れるプレイヤー達が私を狩ろうと首都に来て、しかし入れず、入り口でわっしょいって感じかな?


 絶好の的だね。


「ゴブリンさんやっちゃって」

「……おう」


 おっと電波が悪いみたい。ゴブリンさんの返事が遅れて聞こえる。


「装填完了しました」


 姫ちゃんが言う。


「撃つぞ」


 ゴブリンさんが火をつけて、


 ドォォォン!!


「なんか思ってたのと違う……」


 いい意味でね。


 地面にはクレーター、空中にはプレイヤー達の手足が舞う。いやー乱世乱世。まさに惨状って感じ。こいつはひでぇ。


 …………さて、私が惨状と言ったのは、クレーターや宙を舞う手足だけを指して言ったわけではない。


「お、おおれぇのお腕がぁぁぁぁ!!」

「あぁんまぁりだぁぁぁぁぁ!!!」


 お前ら言いたいだけだろ! ……って、そんなツッコミは置いといて、死に切れないっていうのが凄いと思う。本当かどうか知らないけど、戦場では殺すよりも大怪我させた方が戦力が削げるらしい。救助に動員されるからね。本当かどうか知らないけど(保険)。


 しかし目の前の光景はどうにかしないとな……姫ちゃんなんてめっちゃ震えてるし、そろそろ私もSAN値がピンチ。


「ネルちゃんお願い」

「はい」


 人からドラゴンに姿を変えて、火炎放射。脳みそも血管も残らないようにしっかり消しとばす。


「よし、全員背中確認! ……問題なし! 帰ろっか」


 ワンチャン、レア職業にいるかもしれないしね。


 城に戻った私たちは各自休憩とし、思い思いに過ごす。


 私は現在、首都の設定画面をいじっている。


「百万ゴールドで門番ねぇ……」


 門番は設定した敵を攻撃してくれる。死なないので最強。


 さらに盾にもなるらしい。どういうことかと言うと、例えば街の入り口で街中に向かって魔法使われたり弓を撃たれると、普通に被害が出る。門番さんがいるとその身を使って盾になってくれる。


 普通の城下町であればそれなりにプレイヤーがいて賑わっているため、魔法をぶち込まれるということはないはずだ。しかし、私の町は普通ではない。このままだと私の討伐隊が組まれて攻撃を受ける可能性もある。


「百万は高いなぁ」


 私はとにかくお金を使ってない。装備も初期装備だし、当たれば即死のステータスなのでポーションとかも必要ない。しかし、収入がない。ドロップアイテムとかネルちゃんで焼いちゃうんだよね。そういうわけだから、ドロップアイテムを拾いに行く習慣がない。自動でインベントリに入ってくれればいいんだけど、残念ながらそういうシステムじゃないしなぁ。


 どうにかしてネルちゃんに頼らず戦闘ができればいいけど、それができないから『魔物使い』なんだよねぇ。


「ハナ、お困りのようだな?」

「し、師匠!」


 目が覚めたんだね。良かったよ。


「なんとなく考えていることは察した。私も角に比べたら火力が出せるようになったはずだ。それにゴルブットリクールンと姫雪がどれくらい戦えるか、確認しなくてはいけないだろう?」


 確かに……姫ちゃんってどんな戦い方するんだろう?


 私はみんなを集めて城周辺の雪原を探索する。ネルちゃんはお休みでもよかったけれど、不測の事態に備えてついてきてもらった。今回でゴブリンさんと姫ちゃんの実力を確認して、ネルちゃん先生の引率がなくなる戦闘方法を模索していきたいところだね。


 さっき城周辺の雪原とは言ったが、名前に雪原がついてるだけで、雪はほんのすこししか積もってない。この世界に季節の概念あるのかな? 分からんけど私の治める北の大陸は雪国って感じなので、もし冬とかあったら大変そうだ。


 ゴブリンさんと姫ちゃんの相手には、真っ白な毛並みをしたキツネを選んだ。




 ゴブリンさんの戦闘は安定していた。


 確実に避けて確実に当てる。キツネが砂を飛ばすという予想外のアクションにも瞬時に対応し、危なげなく勝利する。やっぱり大きくなった体格から繰り出される攻撃は強烈だ。


 さて、問題の姫ちゃん。戦闘は専門外に見えるけど……とんでもないダークホースの可能性もある。


 まあ結論から言おう。



 ハマればつおい。



 キツネの突進、姫ちゃんが避けきれないと思ったその時、姫ちゃんが体を透過させる。キツネはそのまま姫ちゃんを通り過ぎ、地面とごっつんこ。


 姫ちゃんは狐の方へ振り返り、妖しく目を光らせる。キツネさんが徐々に痩せていき、最後はそのままバタリと倒れた。


 とまあこんな感じで、戦闘は終了した。


 姫ちゃん曰く、


 物理無効、魔法は大丈夫なのとダメなのがある。


 聖水とかダメ。絶対。量にもよるが、ほぼワンパン。


 基本の攻撃手段は呪術。ただし、相手のレベルが高かったり、抵抗アイテムを持っていると一気に成功率が下がる。


 結論、ハマればつおい。


 ゴブリンさんは普通に強いけど、普通。絡め手がない。それこそ姫ちゃんと戦ったら負ける可能性もある。


 姫ちゃんは状況によっては最強だけど、状況によってはとことん弱い。何もできずにやられちゃう可能性がある。


 ネルちゃんは最強を体現している。


 師匠は戦闘力がないけど(私よりはある)、索敵とか作戦立てとか優秀。


 私は…………魔王様と仲良し?


 まあ弱いところは仲間で補えばいい。なんたって私たちは、仲間なんだから! 仲間って素敵!


 一人そう結論づけて、城に戻ろうとした時だった。


「なにやら、ガサガサ音がしているな」


 師匠がそういって、森の方に目を向ける。


 次の瞬間。



「ウホホッ!」


 あ、ゴリラ!


 真っ白なゴリラが飛び出して来て、一直線にこちらへ四つん這いで走ってくる。


 そういえば、ゴリラってンコ投げるらしいですね。


 ネルちゃんがいる時に勝負を挑んだのがウンの付き! 頼むから何か握ってそうなそのこぶしは開かないでね! 後生大事に持っててね!


 ネルちゃんが発する固有スキル『実家のような安心感』によって焦りは全くなかった。しかし、


「あれ、ネルちゃんどうしたの?」


 ネルちゃんが一向に人化を解除しようとしない。それどころか、


「…………」


 目を閉じて、まるで眠っているように見える。というか……眠っている。



「睡眠……眠り矢か! つまりゴリラは陽動!」



 師匠がそう言って、私はようやく気づいた。これは完全に『裏切り者(わたし)』を狙った犯行だ。


 人化中のネルちゃんを狙うあたり、結構私たちに詳しい。初見ではまさかドラゴンだとは思わないはずだが……あの時盗賊たちに見られてるからなぁ。そこから情報が回ったのかも。


 そして目の前には真っ白な毛並みで、立ち上がると三メートル近くはありそうなゴリラ。


 ただのゴリラじゃない。シルバーバック? 雪男?


 そう捉えた瞬間、急にゴリラの瞳に知性を感じ、一筋縄ではいかないことを悟る。


 ここまで来てようやく、私は焦りを感じ始めた。


 ネルちゃんなしでどこまでやれるか。


 相手は強敵だが、四対一。いけるとこまでやってやる!


 ゲームを始めてからそこそこ経つが、ようやく初めての『戦闘』な気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ