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魔物使いの少女  作者: つい
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作戦会議

「それではこれより、会議を始める」


 進行役の師匠が言う。場所は北城の会議室。メンバーは私、師匠、ネルちゃん、ゴブリンさん、姫ちゃん。


「まずは最重要事項である、作戦名を発表する! ハナ、頼む」


 私は神妙に頷き、起立して口を開く。


「作戦名は『土器!土器!気になるアイツ(タケシ)と文通!?〜後編〜』作戦。通称、ハニワ作戦と今後呼称します」

「意義あり! やけに真面目だなと思ってたらやっぱ不真面目じゃねぇか! 大体……!」


 言葉を続けようとするゴブリンさんだったが、総議員の非難の視線を受けて口ごもる。


「チッ……完全にアウェイじゃねえか……」


 そう呟いて大人しく座る。再び場が静かになったことを確認して、師匠は口を開く。


「このハニワ作戦の目的は、無事にハナがタケシという人間にお返事を返すことだ。そして今回話し合うことは作戦の具体的な内容。つまり、文の内容について決めたいと思っている。例えば時候の挨拶や言葉遣いなどだ」

「そもそもタケシって奴からはどんな手紙をもらったんだ?」

「まだ確認していない」

「グッダグダじゃねぇか!」


 立ち上がって抗議するゴブリンさん。そして再び非難の集中放火。


「ゴルバチョフ、静粛に。次はシベリア送りだ」

「なあいいか? 俺帰っていいか? もう十分我慢しただろ……?」


 そう言って再び座るゴブリンさん。


 確かにゴブリンさんの言った通り、タケシさんからの内容が分からないと返事も考えようがない。ここは勇気を出して手紙を確認すべきだろう。


 師匠に目で合図する。


「それでは、ハナから手紙の内容を発表してもらう」


 私は神妙に頷き立ち上がる。全部言う必要はない。要約して伝える。


「内容を簡潔にまとめると、『魔王軍の襲来に備えて、城主同士で会議をしたい』とのことです。しかし、私はもう魔王軍に味方をすると決めました。なのでお断りと、魔王軍に味方する旨を伝える手紙を書きます」

「よし、それでは意見のあるものから挙手を……ネルロ」

「はい。文全体の言葉遣いですが敬語ではなく、というかむしろ、所々罵倒を織り交ぜるくらいで丁度いいと思われます」


 なるほど興味深い。


「同じ城主同士である以上、立場は同じです。敬語を使うのは逆に不自然であり、いきなり面識の無いハナさんに手紙を送りつけるという非礼。これが罵倒を織り交ぜるべき根拠です」

「ふむ、確かに……姫雪」

「はい、私も敬語は不必要と思います。ハナ様に対する非礼も許せません。しかし、品の無い手紙にしてしまうのは考えものではないでしょうか? ここはあえて丁寧に執筆し、気品の高さや、非礼を許せる器の大きさを相手に見せつけるべきではないでしょうか?」


 なるほど興味深い。


「ふむ、確かに……ゴルブットリクールン」

「……挙手してねぇぞ?」

「ゴルブットリクールン」

「ハァ……そうだな……無視でいいんじゃね? 別に無理に返事を返さなくていいだろ」


 部屋に衝撃が走る。その手があったか!!


「つまり、お手紙を読まずに食べてしまえばいいってこと……?」

「食うな、腹壊すぞ。普通に読んだ上で無視すりゃいい。既読無視ってやつだ」


 既読……無視……?


「どうしたハナ!?」



 体が震える。呼吸が浅くなる。視界が揺れる



『既読無視』。それは、友情を破壊する禁忌の儀式。


 私にそれをやれというのか!?


 幸い、私の友達欄には二十四時間いつでも瞬時に返信してくれて、既読無視をしても怒らない友達しかいない。そのため私自身が痛い目をみたことはない。


 しかし、私が経験したことないだけで、若者の間で既読無視は問題になる。そこから学校生活が終焉を迎えることもある。クラスメイトにそういう人もいた。その人は結局仲間外れにされて一人ぼっちになって……ってあれ、私もそうだったな? ……うん、まあいいか。この先は多分一つ死体が増えるだけだ。勇気ある撤退をしようね。


 タケシさんとはそもそも壊れる友情も無いけど! 既読無視で逆上し殺されても文句は言えない!(既読無視に対する強い偏見)


 既読無視は高確率で巨大なリスクを伴う。


「既読無視は……! リスクが……! 大きすぎる!」


 そう主張して、私の体調を心配をしていたネルちゃんと姫ちゃんにもう大丈夫と伝える。


「え? え? なんだ? は? え?」


 過去に見たことないくらい困惑しているゴブリンさん。おもろ。


「師匠、……続けて」

「了解した」


 会議は続き、詳しく内容が決められ、下書きが作成されたところで終わりを迎えた。


 ゴブリンさんは終始困惑していた。ウケる。








「遅い……!」


 東城城主のタケシは、視界に表示される時計を睨みながら呟いた。


 目の前には、


『西城城主メサリア』


『南城城主ダン』


『北城城主ハナ』……が座っているはずの座席は空席となっている。


 ドラゴンに乗っているところを見たと目撃情報があったので、確実にゲームにはログインしているはずだ。


 目の前の二人とは過去に面識があり、フレ登録をしてあったので比較的楽に呼び出せた。しかし、ハナに関しては一切面識がなく、多くの人を訪ねたが誰一人として確かな情報を知らない。今回、会議ついでに山のように積もった質問を消化しておきたかったが……当の本人が大遅刻をしている。


「メッセージに気づいてないんじゃないかしら?」


 そうメサリアが言う。


 確かに、フレンドメッセージじゃない普通のメッセージは表示が小さい。何かに集中していると気づかない場合がある。


「それか、もうログアウトしたか……」


 そうダンが言う。


 目撃情報はもう数時間前だ。その可能性も無くはない。フレンド登録をしていないので、現在のログイン状況を確認はできない。


「……しょうがない。先に始めるか」


 まさにそう言ったその時、タケシは一つのメッセージを取得する。


「待った。……ハナからメッセージが来た」


 タケシは黙々と、ハナからのメッセージを読んだ。


「………………嘘だろ」

「どうしたのよ?」

「まさか……」


 察しの良いダンは気づいたようだ。


 ハナは魔物を手懐ける職業だと噂されている。だからタケシも、この可能性も考えていなかった訳ではない。


「ちょっと見せない!」


 自分だけ理解していないことに腹が立ったメサリアが、少し不機嫌になる。


 タケシはウィンドウを可視化してメサリアに向ける。


『Hey Guys!!


 ハナだお!


 皆様に悲しいご報告があります馬鹿野郎コノ野郎


 この度、私ハナは魔王軍に味方することを決めました。異論はイベント終了後に聞くわ!


 つきましては今後も会議には参加しませんのでそのおつもりで!


 では最後に一言


 震えて眠れ!!!!


 アリーヴェデルチ!』


 文がぐちゃぐちゃとか、どうでもいい。とりあえず今回のイベントはタケシの想定していた最悪な展開へと猛進していくようだ。


「……ッ!」

「…………」


 メサリアもダンも黙っているが考えていることはまるで違う。


 メサリアは舐めきった文章が気に入らないのか静かに怒りを募らせている。


 ダンは今回のイベントが相当荒れたものになることを想像して、密かに楽しみを募らせている。寡黙で真面目そうに見えるが、存外戦闘狂だったりするのだ。


 ドラゴンに乗り、地上を火炎で焼き尽くすハナを想像する。タケシをとてつもない頭痛が襲ってきた。


 せめてもの腹いせに、この深夜テンションで考えられたであろう手紙をネットの海に放流してやる。


 タケシは大手掲示板に手紙のスクショをアップした。

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