覚悟
ネルちゃんの背中に乗って、魔王城へ移動中。
メンバーは私と師匠。ゴブリンさんは城でやりたいことがあるらしいのでお留守番。
「しかしハナ、なぜ突然魔王城に?」
「一応、城主になったよーって報告と、ちょっと確認したいことがあってね」
ログイン直前に聞いた次回イベント。私の聞き間違いでなければ魔王様ががっつり関わってるはず。
ネルちゃんは相変わらず北へ飛ぶ。ということは、魔王城は私の治める大陸にあるってことか……。色々都合が良さそうだけど嫌だな……なんとなくだけど。
数分後、魔王城に到着。
門番の人も覚えてくれていたようだ。まあ人間なんて私以外に来ないだろうし、そりゃ覚えるよね。
そして魔王城に行くとレイスがお出迎えしてくれた。そして、魔王様に謁見。
「おお、ハナ! 話は聞いておるぞ! 見事戦に勝利して城主となったそうだな!」
そう言って豪快に笑う魔王様。向こうが知ってるならもうこの話題はいいだろう。さっそく本題に入ろう。
「ところで魔王様、近々人類に攻撃を仕掛けようとか思ってる?」
「ん? ああ、思ってるぞ」
「……ちなみになんで?」
「いや何、この前ハナの参加していた、人族の戦争があっただろう? その戦争が終結した今、玉座に座るのは人族の中でも確かな実力を持つ者だけということだ。城主になったばかりの今、色々と力をつける前に潰しておこうと思ってな」
そう語る魔王様。普段結構ノリが軽いから実はいい人なのでは?って思ってたけど……やっぱり魔王なんだなぁ。
「安心してくれ、ハナの城も攻めるが形だけだ。ネルロもいるしな。それにハナとは今後も国として関係を強めていきたいと思ってる。無論同じ城主、対等な立場でな」
そっか、形だけとはいえ魔王軍と戦わなきゃいけないのか。……形だけってどの程度戦えばいいんだろう? 加減がわからない。
私がそう頭を悩ませているまさにその時だった。
「ハナが良ければ、戦わずにこちらに味方してくれても良いぞ! ……なぁんてな!」
そう言って豪快に笑う魔王様。しかし、私の耳にはその大きな声は一切入ってこない。なぜなら、
『魔王軍として参加しますか?
はい/いいえ
※イベント終了まで裏切り者となり、一部制限がつく場合があります』
なん……だと?
「どうしたハナ?」
「えっと、ちょっと考えさせて」
そう言って師匠とネルちゃんを連れて、部屋から退出する。
「ちょっと二人に相談があって……」
二人にこのことを伝える。勿論だけどシステムメッセージとかそういうことは伏せて。
「なるほど、ハナはどうするつもりなのだ? 私とネルロや魔王様のことは一切抜きにしてだ」
そう師匠に問われる。
「私は……」
師匠たちのことを考えるなら二つ返事で魔王軍に味方するけど……抜きにしたらどうだろう?確かに人間は苦手だけど私も一応人間だし、進んで裏切りたいとは思わない。そもそも、そんな勇気もない。
「ハナさんがどんな決断をしても私たちはハナさんのために戦います。いっそ第三勢力作っちゃいます?」
「それは少し厳しいが、面白そうだな」
そう言って微笑む師匠とネルちゃん。
二人にとって味方が魔王とか人間とか関係ない。二人は私のためだけに戦ってくれる。そう気付いた。無論、この場にはいないけどゴブリンさんも、なんやかんや私のために戦ってくれるだろう。……たぶん。
よし。
「決めたよ……魔王軍に味方しよう」
「了解だ」
「分かりました」
師匠は一切抜きにって言ってたけど、流石に一切抜きには考えられない。だって二人があっての『魔物使い』なわけだし。でも、魔王軍に味方するのは師匠たちが魔物だからとか、魔王様と知り合いだからとか、そういうので決めたわけじゃない。
仲間がいるから人間を裏切る勇気が出た。裏切り者の方が面白そう。そんな感じ。
私は視界の隅にあるシステムに肯定の意を伝える。
魔王様に報告しようと再び入室すると、魔王様から声がかかる。
「話は聞かせてもらった! ハナの心も読ませてもらった!」
またこの魔王様は……
「ぜひ作戦会議にも参加してほしい! 明日の昼からなんだが……参加できるか?」
おお! ってことは四天王とか見れたりするのかな? ……奴は四天王の中でも最弱ってやつだ!
「そうだ! 友好の印にレイスをやろう! 城の管理は大変だろうからな!」
「うん……?」
あれ、私がふざけている間に魔王様、なんかすごい事言ってない? 気のせい?
「ハナ様、よろしくお願いがい致します」
気のせいじゃなかった。
「今この場で契約してしまったらどうだ? 儂も契約がどんなものか興味あるしな。ちなみにハナからの意見には一切耳を貸さないからな」
「ちょ……! さっき対等な立場でって……」
「私では実力不足でしょうか? ……申し訳ありません」
ああもう! それ言われちゃもう何もいえない!
仕方なくレイスと契約を結ぶ。仕方なくというか、私としては凄くありがたいのだけれどね。
「名前、どうしようか?」
「レイスでも構いませんが……そ、その……付けてくださると嬉しいです。……差し支えなければでいいですが……」
そういって少し恥ずかしそうに、真っ白な頬がほんのり赤くなる。
え、何この可愛い生き物(幽霊)
よーし待ってろ! おじさんがとびっきりいい名前つけてあげるからね!
「花子じゃ不満か!」
「不満です」
即答でバッサリ切り捨てらる魔王様。でしょうね。
「姫雪」
物語のお姫様のように整った顔立ち。真っ白な肌は雪を連想させる。安直か? まあ、姫って単語も雪って単語も可愛いからヨシ!
「姫雪……姫雪……」
何度か繰り返し呟き、やがて満足そうに、嬉しそうに笑い。
「ありがとうございます!」
あー可愛い。えー可愛い。姫雪ちゃん可愛いやったー。てかさ? 普段感情表現が乏しいヒロインがふとしたとき見せる笑顔ってほんとにこの上なくすごくすごい(思考停止)(語彙壊滅)(超絶早口)。
……癒しが来た。勿論ネルちゃんも可愛いけど、どちらかっていうと可愛いよりも美しいが強い。
「花子はダメか……お露、お菊、お岩」
うん、多分全部ダメだと思うよ。発想が安直だな?
「じゃあ魔王様、そろそろ帰りますね」
「ん? ああ」
部屋を出るとき魔王様が言う。
「ハナ、もう対等な立場だからな。堅苦しいのは無しにしよう。それとレイス……姫雪を頼んだぞ!」
そわそわしている。
そんなに心配ならあげるとか言わなきゃいいのに。いやまあ、返してなど言われても困るけど。絶対に連れて帰る。絶対にだ。ここは譲れない。
ネルちゃんの背中に乗って、街を出発する。
「姫ちゃん実体化出来るんだ!」
「はい、何かに触れる時はこうしないと触れられないのです」
思わぬ形で仲間が増え、気分ルンルンだったが、ふとメッセージが届いていることに気づく。
無防備に無警戒で能天気にメッセージを開き、その衝撃で体から一瞬で力が抜け、ネルちゃんから落ちかける。
「ハナ様!?」
「どうしたハナ!!」
「ごめんなさいハナさん!」
「ハァ……ハァ……ネルちゃんの……せいじゃ、ないよ」
ネルちゃんの極限まで乗員に配慮した神業緊急停止。それから師匠と姫ちゃんの支えでなんとか持ち堪える。
私はメッセージの送り主を見て、あまりの予想外に強烈な衝撃を受けたのだ。
送り主は運営だと勝手思い込んでいた。迂闊だった。
送り主の欄にはこう書かれていた。
タケシ
誰だよ!!!