大型アップデート
久しぶりにゲームにログインする。
「あれ?」
目の前に広がるのは、キャラ作成の時の部屋だった。
え、何? もしかしてかの有名な『お気の毒ですが冒険の書は……』ってやつか?
『ご安心ください、ハナ様のセーブデータに問題はありません』
え、じゃあなんで?
『マップの大きな改変がありましたので、説明のためです。必要が無ければこのままゲームにログインしていただきます』
私イベント終わってからちょっとリアルが忙しくて、一切ゲームに触れてなかったからなぁ。知らなかった。じゃあ説明お願いします!
『はい。今回のアップデートで、マップが大きく改変されました』
私の前にマップが映し出される。
上から見た地図かな? 真ん中に丸い大陸があって、その丸い大陸の上下左右にも大陸がある。そしてそれぞれ隣り合った大陸同士で橋が繋がっているようだ。
『上下左右の大陸はそれぞれ、城主プレイヤーの治める国があります。中央は制限のない、どんなプレイヤーでも入れる共通の都市があります。ハナ様は城主プレイヤーですので、上の大陸の都市を治めていただきます』
なるほど! なら人間立ち入り禁止って法律作っても問題ない!?
『法律が適用されるのは城のある首都のみです。大陸そのものや大陸内のその他の都市に対しては適用されません。また、城主プレイヤーのメリットの一つとして、商品が購入された際、その売り上げの一部が税金として納められるシステムがありますので、極力多くのプレイヤーを呼び込む方がいいと思われます』
……まあ要検討って事で。
『城主プレイヤーのメリットは他にもありますが、そちらはいつでも確認できますのでここでは省略させていただきます』
あ、はーい。
『説明は以上です。そして次回イベントは魔王軍襲来です。ほかに何か質問はございますか?』
あ、大丈夫です……ん?
『お待たせしました。それではゲームにログインしていただきます』
そうして私は、初心者の街の噴水の前で目を覚ます。
『魔王軍襲来』ってなに? あの筋肉ダルマ様が何かするの? ……とりあえず師匠達呼ぼうかな。
少しして仲間たちの到着の連絡を受け、街の外に出る。
「え……ネル……ちゃん?」
「はい!」
「だいぶ変わった……ね?」
めちゃくちゃでかくなってる。
前はゾウくらいの大きさだったのに、今は大型バスくらいあるのでは……?
「先の戦闘ではそれはもう、不甲斐なく、お見苦しく、力不足を痛感いたしましたので……全力で特訓して進化して出直してきました!」
進化! そういえばゴブリンさんも進化とかしてたね。……にしても急に大きくなったね。
「もう二度と、あんな醜態晒しません!」
そう意気込むネルちゃん。まあ普段お世話になりっぱだから、私は全く気にしてないんだけど。
「ハナ、私も脚力を鍛えてきたぞ」
先の戦いの最中に、師匠の武器は尺骨形状突起じゃなくて脚力だという(当人にとっては)驚きの事実が判明した。
「私も恐らく特訓前と比べて二……いや、三倍くらいには強くなっている。私も圧倒的力不足だったからな……」
そう呟く師匠。まあ師匠に関しても普段お世話に(ry。
さて、二人の近況報告を受けた私だが、今回のイベントで最も働いていないキングオブク○ニートは誰だっただろうか?
……自分が一番分かってますよ。しかも全然働かなかったくせに、最後の玉座破壊といういいとこ取り。まさに悪魔の所業。しかも契約してないゴブリンさんにも助けられるし。いや、たぶんゴブリンさんは、最初っから私のことを助けるつもりで北城に来てたんだろうけどさ。
ん? あっ。
「ネルちゃん北城行かないと! ゴブリンさんとの約束が!」
ってゴブリンさんと約束したあの場にネルちゃんはいなかったね。しかし、私に対して異常な忠誠心のあるネルちゃんはすぐさま出発してくれる。
進化に伴って速力も上がったため、師匠はすぐさま穏やかな眠りについた。
「ハナさん見えてきましたよ」
改変されたマップを空から眺めていると、ネルちゃんから声がかかる。
結構マップ広くなったはずなのに、到着は随分と早い。
「おお……」
思わず感嘆の声が漏れるほど、お城は美しく様変わりしていた。
前は城というよりも要塞って感じだった。それはそれで私は好きだったけど、今目の前にあるのはしっかりお城だった。
「まるでノイシュバンシュタイン城みたいだね」
ドヤ顔でそんなことを言ってみる。噛まずに言えて偉い。
まあ、みたいっていうか、私それ以外の外国の城を知らない。流石にこれをみて「姫路城みたい」という感想は出てこない。
まあつまり適当に言ってみただけ。なのに、
「ふむ、初めて聞く名前だな。また一つ知識が増えた」
「流石ハナさんです! 博識ですね!」
……うん。ここまで褒められると見栄張りたくて口を滑らせた過去の自分をグーで殴りたくなる。後ろめたさがヤバい。
「ゴブリンさんいるかな?」
これ以上城について質問されても困るので、私お得意の素早く自然に話題転換。
「おう、ここだ」
声がした方を見ると、身長180cmはありそうな緑色の肌をした人が立っている。
「ゴブリンさん進化多くない?」
「まあ、ゴブリンだからな」
答えになってないが、きっとこの世界ではゴブリンの進化が多いのは常識ってことだろう常考。
「約束、果たしにきたよ」
城をバックにスッと右手を差し出し、アニメキャラっぽく決めてみる。
ゴブリンさんは目を閉じて、フッと微笑み私の手を取る。
「おせぇーんだよ!! この野郎!!」
アダダダダダダダ! 手! 手がつぶれるぅぅぅー!!
少し時間がたって、ゴブリンさんが落ち着いてきた。
「ふぅ……いきなり叫んで悪かったな」
「あ、大丈夫です……」
いやーゴブリンさん性格変わったね。昔は普通に私に武器向けてたのに今は自分から謝ってくるとは……あまりの変わりぶりに思わずコミュ障発動しちゃったよ。
「それで、約束について……」
「大丈夫、覚えてるから」
こういう報酬の話って、向こうからは言いにくいからね。
「実は約束とは別に、ひとつお願いがある」
「え?」
「俺を、お前の配下に加えて欲しい」
「え……その、いいの? というか、それならむしろこっちからお願いしたいくらいだけど……」
「ああ、この城……というか城下町に住まわせて貰えれば生活も安定するからな。それにやっぱりお前……ハナには大きな恩もある」
「わかった!」
ゴブリンさんが跪き私がその額に触れる。
契約完了。
後は名前を付けるだけなんだけど。
「名前……ゴブリンさんで慣れちゃってるんだよね」
「別に、それで俺は構わない」
「うーん……それはちょっと」
味気ない気がするなぁ。
「ハナ、護舞漓んとかどうだ」
「師匠、『ん』なんとかならない?」
「すまん、私の知識ではどうすることもできなった……」
私の知識でも無理だなぁ。
「ハナさん、緑でいいんじゃないですか?」
「まんますぎるよ……」
「大喜利やってんじゃねえぞ」
ネルちゃんってなんかゴブリンさんに冷たい? 仲良くね?
名前はカタカナで略してゴブリンって呼べる名前。
「ゴルブットリクールン! 略してゴブリン! ……それかゴルバチョフとか?」
「長くないか?」
「もう緑以外ならなんでもいいぜ……」
ゴルバチョフは不可。ゴルブットリクールンで決まり!
「よろしくねゴルブットリクールン!」
「ふむ、よろしく頼むゴルバットリコレクション」
「よろしくお願いしますねゴルバチョフさん」
「契約……誤ったか?」
先行きは不安だが、割といつものことなので気にしない。何はともあれやっとゴブリンさんの獲得に成功した。これでボケ倒してもいいってことだよね? あ、ついでに丁度いい火力も手にはいって一石二鳥だね。
この時の私は知る由もなかった。まさかゴブリンさんが、とんでもない色物枠だったなんて。