最終決戦
師匠の情報によると守りは五人。その内一人は恐らく非戦闘員なので無視していいとのことだ。戦士系二人魔法使い系が二人。
『魔法使いに回復魔法を使われると面倒ですね。戦士は耐久あるので、持久戦なんてされたら時間切れになっちゃいますよ……私も正直消耗しすぎましたし』
「ネルロ以外まともな火力がないのだが……かなりギリギリの戦いになりそうだな」
師匠とネルちゃんの作戦会議を聞きながら私はステータス確認をする。そう、暇だから。
「おい、ハナ。お前絶対話聞いてないだろ」
なんて失礼なゴブリンさんだ、聞いてますよ。……本当に聞いてるだけですけどね。
そこから師匠とネルちゃんの作戦会議はそこそこ長引いた。
そしてついに。
「よし、行くぞハナ」
「分かった! じゃあねゴブリンさん。また後で!」
「おう」
ゴブリンさんに別れを告げて、師匠と共に階段を進み、玉座部屋に出る少し前で待機。ここでネルちゃんとタイミングを合わせる。
『ネルちゃん準備オッケー?』
念話で確認を取ると、すぐに答えが返ってくる。
『はい! バッチリです!』
「オッケー!じゃあ3、2、1で行くよ?」
「待てハナ、それは1のタイミングで行くのか? それとも0か?」
「え……どっちでもよくない?」
「……それもそうだな」
この疑問、ウサギにも通じるあるあるネタなんだ……。って、せっかくの緊張感がなくなったな? いや、まあいいんだけどさ。
「よし、じゃあ気をとりなおして」
3
2
1
урааааааааааааааа!!!
玉座前の暖炉から赤軍……じゃなくて、私と師匠が。玉座部屋の入り口から同志ネルロが。
しかし、ここで私はある異変に気付く。
敵の注意はやはりネルちゃんにいった。そして私と師匠の注意もネルちゃんにいった。
なぜなら。
ネルちゃん瀕死じゃんっ!!!
まさに風前の灯火。HPバーが残っていない。正確には目視出来ない量で残ってるんだろうけど……いやどーすんのコレ?
『ちょっとネルちゃん! なぜそんな痛ましい姿に……!』
『残念男を倒しきった辺りから妙に敵の連携が強くなりだしまして……ちょっと手こずっちゃいました』
ネルちゃんはこのギルドのメンバーの大半を三回ずつ倒してる。少し考えればネルちゃんが大ダメージを負ってることなんてすぐ気付くのに……。ごめんよ。
「ドラゴン瀕死だ! オラッ! 仲間の仇!!」
いやぁーー! やめてぇ! 友達なんですぅ!
私と同じ両手斧を持った男が、私怨全開でネルちゃんに突っ込んで行く。当然ネルちゃんは火球で迎え撃つ。しかし、本来の力が出ないのか男は火球に耐えた。
その時だった。
火球の直撃のもらった男の足は止まったが、攻撃の手は止まらない。最後の力を振り絞ってスキルを発動し、斧を投げる。投げられた斧は地面スレスレを回転しながら滑っていき、火球の反動で動けないネルちゃんへと達し、その足を分厚い刃がほんの少しだけ、浅く切り裂く。
「あっ」
誰が言ったかも分からない一言。でも恐らくその場にいた全員が心の中ではそう呟いたはずだ。
普段のネルちゃんなら気にする必要もない攻撃だっただろう。しかし、その攻撃は微量だがネルちゃんにダメージを与えた。
そう、ダメージを与えた。
『<ネルロ>が撃破されました』
オゥ! マァイ! ゴットッ!!
『ヘイ、師匠! どうするよベイベー!?』
『もちつけハナ! 傷は浅い!』
あぁ……師匠もだいぶ動揺してらっしゃる。
敵の皆さんはというとそりゃもうテンション爆上がりだ。ドラゴンを倒して城を守ったとか何その王道RPG感。
敵はもう勝った気でいるようで、私たちのことをガン無視しちゃってくれてる。無力だと思ってナメやがって……無力だよ!
「ギルマス、まだゴミが残ってました」
「おっと、忘れてた忘れてた」
わざとらしくそう言ってみせるギルドマスターらしき男。
「さて、君のことを殺す前に職業とか、ギルドの仲間がまだいるのかとか聞いておきたいんだけど……何か話してくれるかな?」
え、OHANASHI? いやです。
「まあさすがに話さないか……なら」
師匠が捕まって連れてかれる。頭の中で自然にドナドナが流れた自分を殴りたい。
「お友達がどうなってもいいのかな?」
お友達って、……言い方可愛いなオイ! 萌えるじゃねぇか!
『ハナ、実は余裕だな?』
『……実はちょっとこの状況楽しくなってきた』
『そうか、私のことは心配するな。無視していいからな』
念話で会話している最中にギルマスさんが割って入ってくる。
「早く話さないとこのウサギがどうなるか……」
そう言ってウサギを抱き、存分にモフる。人質の扱いが凄く丁寧。絶対この人いい人でしょ。
なんとも微笑ましい光景でずっと見ていたかったが、そうもいかないようで、
「ギルマスちょっと変われ! おい! さっさと吐け!」
うへぇーめんどくさいのきたなー。
私が露骨に嫌な顔したのが伝わったのか、ギルマスの代わりに出てきた魔法使いの男は声を荒げた。
「なんだその顔は! この野郎……!」
そう言って魔法を私に向けて放つ。
あっっっつ!!
私の体力は実に九割近く削れる。魔法を撃った魔法使さんの方が驚く始末。
「ギルマス、こいつ見た目通り弱すぎる。多分ギルドの下っ端だから大した情報は持ってないぞ」
「そうか……じゃあもういいか」
ギルマスがそう呟いた時その時、
「「「くぁwせdrftgyふじこlp」」」
忘れもしないふじこ。これはゴブリンの声だ。
「は!? 何でこんなところまでゴブリンどもが……」
そう魔法使いの男が呟いたところで私と目が合い、何かを察したようだ。
「まさかお前の職業は……」
師匠が拘束の緩くなったギルマスさんの腕から自慢の脚力で抜け出し、数匹の鎧をつけたゴブリンが突っ込んできてと、場は大混乱に陥った。
ゴブリンさんが直接鍛え上げただけあって、ゴブリンたちは強かった。決して敵を倒せるほど強いわけではなかったが、戦士二人はゴブリンの相手で手一杯。魔法使いは師匠がウサギキックで魔法の妨害をする。魔法は準備中に攻撃を食らうと失敗するらしい。知らなかった。
『ずっと角が私の武器だと思っていたが……脚だったのだな』
気付くの遅いよ師匠。
斧使いの男はネルちゃんの一撃を食らっていたので、数分で倒れた。ゴブリン側に負傷者はいても死者はいない。全てのゴブリンがギルマスさんに殺到する。魔法使い二人は師匠に邪魔されてほとんど魔法が撃てていない。
玉座に向かう私を阻むのは、非戦闘員と言われた最後の一人。
「私戦闘できないのに……」
奇遇だな。私もできねぇや。
相手の武器は杖。というか木の棒?棒術で見るような長いのじゃなくて、六十センチくらいの長さの細長い棒だ。片手で持ってる。
玉座を目前にした大切な戦いだというのに、私とお姉さんの勝負は酷い泥仕合だった。あまりにも酷い。
それでも私は勝った。
こうして、城争奪戦争のイベントは終了した。