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魔物使いの少女  作者: つい
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火事泥棒作戦

 私はネルちゃんに一通り強化魔法をかける


「ハナさん、ありがとうございます!」

「ネルちゃんも気を付けてね!」

「はい! 殲滅してやりますよ!」

「では、ハナよ。作戦開始と行こうか」

「うん! じゃあね、ネルちゃん!」


 ネルちゃんは城門に向かい、私と師匠はある場所を目指して走り出す。そういや、今回は師匠もネルちゃんも珍しく死亡フラグ言わなかったな。うん、良いことだ。








「来たぞ!!」


 誰とも知れない叫び声と、ドラゴンの咆哮が重なる。


「うっは迫力スゲェー! 映画みたいだな!」


 ドラゴンは城門から首を突っ込んでくる。


「撃てっ!!」


 副ギルマスの号令で一斉に、魔法や弓、近接組は投擲などをしてドラゴンに攻撃する。凄まじい轟音と共に、それらは爆発し、ドラゴンを煙で隠す。


「やったか!?」


 隣の相棒がさっきからうるさい……っておい、それは禁句だ。


 案の定、煙の中から三発の火球がこちらに飛んでくる。


 しかし奇妙なことが起こる。三発とも、たった一人を狙って放たれていた。


 そう、



「は? なんで俺だけ!?」



 俺は残念な相棒からバックステップで距離を取る。


 あいつは火球の一発目で下半身が消滅し、二発目で首だけになる。そして三発目が当たった瞬間、大きな爆発。


 幸い、全員避難する時間はあった。そのおかげで、あいつ以外は大きな被害を受けずに済んだ。


 アイツの残念さは唯一無二の一級品だと思っていたが、まさかドラゴンにまで通じるとは。


 GJドラゴン! 正直アイツの緊張感のないセリフには、頭が痛くなった。なんだか煙から姿を現したドラゴンも、心なしかスッキリしているように見える。


「……全員攻撃準備! ドラゴンといえど、火球は連発できない! 急げ!!」


 ドラゴンの謎に執拗な攻撃に困惑していた副ギルマスだが、どうやら持ち直したようだ。


 結果的には、今のドラゴンの一撃は実質被害ゼロと言っても過言では無い。全員、無論俺も、あいつがやられたことに対して悲しみや怒りは湧いてこない。酷い集団かと思われるかもしれないが、実際そうなんだから仕方ない。


 それだけあいつは、残念な奴なんだ。








「師匠ここがそうなの?」

「ああ。あの井戸が隠し通路に繋がっている」


 師匠の視線の先には、綺麗な井戸がポツンとある。


「あの井戸に入って通路を進めば、城内に繋がる……らしい」


 らしい……というのも、どうやら前にゴブリンさんから聞いた話のようだ。いつ聞いたんだろ。北城であった最初の時かな? 


 私の立てた作戦はシンプル。ネルちゃんで気を引いている間に、私と師匠がこっそり侵入して玉座の破壊を目指すというものだ。侵入できそうな場所は頑張って探すつもりだったけど、こうして師匠が知っていたのでそのルートを使うことにする。


 というわけで、


「じゃあ早速行こう! ネルちゃんも心配だし」

「そうだな」


 私は井戸まで行って、


「よいしょ〜」


 適当な掛け声で飛び降りる。


「待てハナ! この井戸深いぞ!」


 上で師匠の声がする。時すでにオスシ。もっと早く言って欲しかったよブラザー。……え? 井戸は深いもんだろって? こちとらバリバリ都会住みの現代っ子だ。井戸の実物なんか見たことないよ。


 師匠の言った通り想像以上に地面が遠く、私は浮遊感を感じる。


 架空の重力に導かれ、井戸が狭い故に体勢を変えられず、仕方がないのでそのまま着地をする。当然それなりの位置エネルギーが……うんカッコよく言おうとしたけど、ダメだ。簡単に言おう。



 ケツから落ちて痛い。



 あら、淑女たるものケツなんて言ってはいけませんでございますことですわね。御居処(おいど)から落ちてクソいてぇでございますわ。マジクソッタレですわオホホ。


「大丈夫かハナ? ……頭打ったか?」


 深いぞとか言いながら、師匠は華麗に着地を決める。


「大丈夫打ってないよ。この思考は平常運転だから」

「そうか……ならいいか。……いいのか?」


 師匠の可哀想な子を見る目から視線を逸らすと、ネルちゃんから念話が飛んでくる。


『ハナさん! 残念男を汚い花火にしてやりました!』

『ナイスネルちゃん! よっ、日本一!』

『ありがとうございます。そちらの進捗はどうですか?』

『ごめんね、まだ井戸に入ったばかりなんだ……急ぐね!』

『お気になさらず。残念男はしぶとく、もう一回蘇るんですよね?』


 ネルちゃんたちにもプレイヤーが復活することは伝えてある。システムとかメタいことは抜きで。


『残念男の存在を確認したら、最大火力で倒しますね! いなかったらサクサク片付けるので、早く終わると思います』

『復讐もいいけど(こだわ)り過ぎないでね? 危なくなったらさっさと殲滅しちゃってね』

『はい分かりました。……残念男来ました! 行ってきます!』

『行ってらっしゃい!』


 ネルちゃんとの念話を終えた私は隠し通路の攻略に入る。が、壁にぶつかる。……物理的な意味じゃなくて、問題に直面するという意味ね。


「なんか……迷路っぽいね?」

「そうだな。しっかりと道についても聞いておくべきだったか」


 どうやら師匠も道順までは知らないらしい。あ、でも迷路なら……ちょっと裏技を知っている。


 というわけで私たちは今、『右手を壁につけて進む』という迷路の裏技を実践中だ。これホントなのかね? なんかネットで見たことある情報なんだけど、実際にやったことはない。そもそも日常生活で迷路に迷い込むことがないもの。……いや、人生という迷路では迷いまくっているわけだけども。


 そして進むこと数分。


「ねぇ師匠、ここさっきも通ったよね?」

「そうだな」

「これ、完全にダメなヤツじゃない?」

「たしかにこのままでは埒が明かない。何か考えなくては……」


 そう言って考え込む師匠。そこにまたネルちゃんから念話が飛んでくる。


『ハナさん!! 残念男を遂に、この戦場から永久追放してやりました!』

『ナイスネルちゃん!! よっ、大統領!』

『ありがとうございます! そちらは順調ですか?』

『実は……』


 少し苦戦していることを正直に伝える。申し訳ねぇ。


『分かりました。では私がここをサクッと片付けて、玉座を壊しましょうか? 幸い城内は思ったより広そうなので窮屈なく動けますし』

『今師匠が作戦考えてるの。だから、それは最終手段で!』

『分かりました。それでは戦いに戻りますね!』

『うん、頑張ってね!』


 ネルちゃんとの念話を終えて、師匠に目を向ける。


「ダメだ、何も思い浮かばない……」


 師匠でさえ思い浮かばないのに、私が解決策を思いつくはずがなく、時間だけが過ぎていく。ネルちゃんには苦労をかけるけど、頼るしかないのか。


 そう諦めかけたその時、後ろから聞き覚えのある声がする。


「おい、お前ら」

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