空白の一夜
おはようございます。時刻はとっくに昼でございます。でも、お早うございます。
目が覚めるとお日様が高く、横で師匠もネルちゃんも死んだように眠っている……生きてるよね?
起こすのも悪いかと思ったが、この状況でプレイヤーや魔物に見つかったら再び眠りにつくことになってしまう。気が引けるが、二人を起こすとしよう。
「すまないハナ……」
「ごめんなさいハナさん……」
「別にいいよ、私も今起きたし!」
さて、ここで問題になるのは、昨日何があったのかということだ。師匠と私はともかく、ネルちゃんまで寝るとは何かあったに違いない。
「ねえ二人とも、昨日、何があったか覚えてる?」
「……何か、小宇宙の誕生に立ち会ったような気がするな」
「そうですね……ダークマター」
周りを見ると空っぽの鍋や焚き火のあと……ふむふむ、小宇宙にダークマター。空っぽの鍋、焚き火……分からん!
「む!? なんだこの力は!」
「すごくステータスアップしてます!」
「えっ?」
失礼して服従レベルを上げて、二人のステータスを見る。おそらく左の白数字が通常のステータス、そしてその右隣の、緑数字が強化されたステータス。
五倍……五倍!?
「でも、効果時間があと十分もありませんね……」
「あっ本当だ」
二人の服従レベルを下げて自分のステータスを見ると……うん、確かに五倍されている。
「つまり寝てしまった原因は確実にコレだな……果たして何があったのか」
「私が強く覚えてるのは、何か強大な力を背後から感じことですね……」
「あ、それ私も覚えてる! 何かに出会ったんだよね……なんだったかな?」
「ふむ、つまりこの異常な強化の原因は、間違いなくその出会いだろう。残された手がかりから察するに……宇宙人説が濃厚だな」
じゃ、じゃあ! 私たちは宇宙人と会っていた……!? 未知との邂逅!ロマンが溢れる!
「寝ている間に魔物やら襲われなかったのは、ラッキーだったな」
今は師匠もネルちゃんも人化しているので、普段の力が使えない。そう考えると結構恐ろしい状況だったね。
その後も、私達は強化が切れるその時まで考察を重ねたが、結局事件は迷宮入りした。今回の件は『空白の一夜事件』として、私たち三人の中で語り継がれていくだろう。
遠い魔王城で一つ、盛大なくしゃみが城を揺らした。