開戦
『南城』
「おいアルク、どうした? 急に弓矢なんか撃って」
「北城の上空に、ドラゴンがいた」
「そうか。全然見えん」
「もう撃てなくなったから、いい」
淡々と話す、アルクと呼ばれた少女は全身を動きやすい布の服に包み、その体にはあまりに大きな弓を隙なく構えている。
「じゃあ、援護頼むぞ」
「任せて」
ギルドマスターである、顔まで隠す全身鎧に身を包んだ巨漢は仲間達に突撃命令を出す。
「お前ら、目の前の敵を潰せ。上の魔法使いやらはアルクが全て倒してくれる。死にそうになったら俺の元に来い。必ず守り抜く。いいか? 行くぞ!!」
「突撃!!!」
『西城』
「マスター。ここら一帯の他ギルドの排除完了しました」
「……損害は?」
「軽微です」
「分かったわ。全員のMPが回復したら、予定通り城の攻撃に移るから伝えておきなさい」
「はい」
ギルド全員がローブに身を包む、怪しいギルドのリーダーを務める彼女は妖しく微笑んだ。
「……雑魚敵には持て余すのよね……ここなら初めて全力が出せるかしら」
無数の魔法陣を展開され、それを合図に西城の攻略が始まった。
『東城』
「敵の攻撃も落ち着いてきたな……今のうちに消耗が激しいやつは城内の味方と交代しておこう」
「はーい。伝えとくね」
「最終日まで保つか……」
「大丈夫でしょー」
「俺らは一般職なんだから、レア職に来られるときついんだよなぁ」
「って言いながら、もう何人も追い返してるじゃん?」
「まあ……しっかり地の利を生かして手堅く行けば、負けるはずがないってことだ」
「でもさぁー、この戦法地味じゃない? もっと派手になんかないの?」
「謙虚に行くぞ、驕りは身を滅ぼすからな。レア職なんざに負けたくないだろ?」
「……まあね」
一般職のみで構成されるギルドのリーダーを務める『戦士』の男と、副リーダーを務めるの『魔法使い』の女は厳しい顔で話していた。
『北城』
「ふぅ……やはり高所に慣れなくては……すまない。迷惑をかけたな」
「いいよー全然。正直、私たちって最終日まですることないんでしょ?」
「そうですね。どうせ城をとっても、守るすべがありませんし」
「暇だなぁ……なんかこの辺も急に静かになっちゃったし……みんな今頃始まりの街で酒を飲み交わしてるのかな?」
「早くないか? ……と思ったがそうでもないのか?」
もしこのイベントの二回目あったら時間短くなるだろうな。
「ねぇ、もう攻めてみる?」
暇すぎるが故にふと出た私の一言に、師匠もネルちゃんも考え込む。
「正直私も暇すぎて少し思っていた」
「私もです」
このバトルジャンキーどもめ! 嫌いじゃないぞ!
「じゃあ玉座は壊さないで嫌がらせだけしましょうか? 上から火で一方的に……」
「ネルちゃんえげつない……大好き」
「……ノーコメントだ」
私は嬉々としてネルちゃんに乗り、紳士な師匠は少し複雑そうな気持ちを胸にネルちゃんに乗った。まあ、遅いか早いかってだけで、似たような作戦を後になってするんだけどね。
「じゃあ、行きますね!」
「うん! 『殺戮飛行作戦』開始!!」
「珍しくまともなネーミングだな」
私としては物騒な作戦名にツッコミして欲しかった。
作戦は失敗した。
と言っても、こちらに被害が出たわけではない。むしろ逆だ。……いや、逆って表現もおかしいな。えっとつまり、相手に被害を与えられなかったということだ。
一人二人焼いたところで、全員城内に逃げ込んでしまった。城はシステムで破壊不能に設定されているようで、どうしようもなかった。
「やっぱり、そう上手くはいかないね」
「ハナさん申し訳ありません……私、必ず隠密飛行を習得してみせます! その時の作戦名は『ステルス殺戮飛行作戦』でいきましょう!」
なにそれ強そう。
「しかし、今のでネルロが敵に知られてしまったな。対策されなければいいが……」
「まあ、大丈夫でしょう。生半可な対策はゴリ押しで上回れるし」
「そうだな……特化でもされない限り大丈夫か」
「師匠、いくつフラグを立てれば気がすむのかな?」
「いや、もう今更かと思ってな」
「ハナさん! 私フラグクラッシャーなので大丈夫です!」
「ソッカーアンシンダナー」
果たして存在するのだろうか。自称フラグクラッシャーがフラグをクラッシュしているところを見たことある人は。