魔王が現れた
城下町を歩く私たち、というか私は凄く注目を集めた。きっと私から溢れる魅力が抑えられ……魅力が……魅力……うん、奇異の目ってやつねおkおk。
うわ、なんだあれ? 百目っていう妖怪だっけ? 百の奇異の目が私を襲う。おお怖い怖い。
こっちの奴は悪魔? あれは鬼? すっげぇ! マジで人間いないじゃん!
「ハナ? なんだか人間の街にいるときよりも楽しそうに見えるのだが」
「え? そう?」
「ハナさんに楽しんでもらえて嬉しいです!」
「ネルロよ、楽しめるのは恐らくハナだけだ」
幸せの形は人それぞれなのだよ。
私はただちょっと人間に囲まれているよりも、魔物に囲まれている方が落ち着くってだけ。何もおかしなところはないよね。
そんなことを考えていたら魔王城到着。
「ようこそ魔王城へ。勇者御一行様ですね?」
山羊の様なツノ、蝙蝠の様な羽、尻尾は……正面からは見えない。髪は短くて逆立っており、色は赤い。そんな美青年が爽やかスマイルでとんでもない誤解をしていらっしゃる。勇者? 初期装備で魔王城行くとか……私TUEEEEE(棒)。
「へぁ!? いや、私はその、そんなんじゃなくて……そう! 魔王様に忠誠と服従を誓いに……」
やっべぇ、テンパって人類裏切っちゃったゾ☆
「冗談ですよ。門番たちから、話は伝わっています。ところで、今の魔王様に忠誠と服従を誓うというのは?」
「……? そんなこと言いましたっけ?」
「……私の聞き間違いでしたかね? まあいいです。私に着いてきてください。魔王様がお待ちです」
ネルちゃんがドラゴンのまま入れるくらい、入り口も城内も広かった。
「あ、そういえば皆さん。城内は勇者撃退用の魔物や罠で溢れています。なので絶対に、絶対に私から離れないで下さいね。それでは行きましょう」
大歓迎ってわけね嬉しい(白目)
「ここから先は魔王様のお部屋です。皆さん、お疲れ様でした」
やっとついた……。ほんと長かったわ。
おや? 師匠とネルちゃんが目に見えて緊張してるね。やっぱそいういもんなのかな? え、私? 私は魔王の部屋から感じる恐ろしい圧で一周回って気分がウルトラハッピーで堪忍袋の緒が切れましたーHAHAHA!
「ん? ああハナさん、『恐怖』のバットステータス付いちゃってますね……まあ人間ですから仕方ないですね。よっと」
ハッ! 私は今まで何を? ……え、何この部屋圧が凄いアハハハハハ!
「ハナよ、無限ループほど恐ろしいものは無いぞ。気を確かに」
「ハナさん、大丈夫ですから。怖がらないでください」
ハッ!私は(ry
「……そろそろいいですか?」
「ハイ、大変ご迷惑をお掛けしました。誠に申し訳ございません」
「いえいえ、人間ですから。仕方ないです。では、入りますよ」
部屋の入り口からは真っ赤な絨毯が伸び、その先には大きな男が一人。不敵に笑い、玉座に座っていた。筋肉モリモリ、マジでキモいくらい筋肉モリモリ。服弾け飛びそうだよ。
「よくぞここまでたどり着いたな、勇者よ……」
え? このネタまだ続くの? 今回は流石にテンパらないけど。
「ふむ、まさか初期装備であの罠と魔物の群れを無傷で突破して来るとはな……少しはやる様では無いか」
罠にはかかりようが無かった。だって魔王様の優秀な部下がそれぞれの罠について一から懇切丁寧に教えてくれて、魔物たちも彼が事情を話せばスルー出来たし。というか近道とか全回復ポイント?ってやつまで教えてくれた。魔王城攻略と言うより、魔王城観光だ。
「ハイハイ。魔王様、悪ふざけはその辺にして下さい」
「そうか? すまんな、私も久し振りの人間だからつい……」
「今時、そんなこと言う魔王いないですよ」
「何を言うか、どんなに弱い魔物でも『世界を半分くれてやる』とか言っておけばもう魔王なのだ」
「何百年前の話をしてるんですか……」
うん。何となくこの二人の関係性が分かった気がする。
「だいたい来るの遅すぎではないか? 扉の前が騒がしくなったと思ったら三十分も待たされた。いつ入ってきてもいい様に三十分間ずっと不敵に笑い続けた結果、儂の表情筋はたった今死んでしまったぞ」
「おお表情筋! 死んでしまうとはなにごとだ!」
「む!? マズいネルロ! ハナがまた『恐怖』の状態異常になったぞ!」
後に師匠とネルちゃんは語る。
まさにカオスだったと。