地上の楽園(地獄)
装備を造ってもらってから、ゲーム内で数日が経過した。そして今、ちょっと困った問題が起きている。
「お金がない!」
「あら、それは困りますね。貧乏はお腹が空いてしまいますからね」
「うむ、そうだな。貧乏は路頭に迷い、他者から蔑まれ、ドブネズミと寝食をともにし、観ている人を感動させるハートフルストーリーの主人公になってしまうからな」
師匠はマジで何言っているんだ? 私が主人公になれるとでも?
「……それでお金ってどうやったら稼げるの?」
「そうですね……冒険者ギルドで依頼を受ける、もしくは魔物のドロップアイテムを売るなどでしょうか?」
ギルドで依頼を受けるのは人との会話が必要。ドロップアイテムを売るのも店主との会話が必要。
「師匠ハートフル映画の脚本よろしく……」
「興行収入は○と○尋の三倍を約束しよう」
「私はト○ロの役で出たいです」
さて、冗談はこれくらいにしよう。んで、毎回師匠たちを人化させて依頼受けたり物売ったりするのもねぇ。流石に自分でもどうかと思う。多分師匠たちは構わないって言うと思うけど……なんかもうそういう問題じゃない。
「ハナさん。そういえば北に、魔物国がありますよ。もし人間と話すのが嫌ならそこを拠点に活動するのはどうでしょうか?」
魔物の国? つまりそこには人間がいない?
「地上の……楽園!」
「普通の人間からしたらただの地獄だと思うのだが……」
「いいねネルちゃん! そこ行こう!」
「まあ、ハナがいいなら構わないが」
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「見えてきましたよ」
「ん? 着いたぁ?」
ちょっと寝ちゃってた。辺りを見渡すと……おお、空が紫がかっていて薄暗い。魔物の国って感じ出てるね。
「ふむ、私も来たのは初めてだな」
ネルちゃんの目指す先には、大きなお城と大きな城下町。
「あれが魔王城か」
「へぇー魔王城……魔王城!?」
魔王城ってこのゲームの最難関ダンジョンだよ! 情報が全く無くて、そういうダンジョンがあるってことしか分かってないやつだよ! 北の果てにあるのね……。
「ネルロよ、魔王様に挨拶しに行くのか?」
「はい、そのつもりです」
ああ、やっぱりいるのね魔王。
「とりあえず地上に降りましょう。このまま近づくと撃墜されてしまいますからね」
そう言ってネルちゃんは高度を下げていく。そして道を歩くこと数分。
「止まれ、これより先は魔王城城下町である。ん? キサマ人間か?」
なんかトカゲを人間にしたような衛兵に、私たちは止められる。
まあ、当然か。魔王城に用のある人間なんて、勇者とかしかいないだろうね。そうなりゃ歓迎はされないか・
衛兵に追い払われる寸前に、衛兵たちはネルちゃんを見て、何かに気づいたようだ。
「あ、貴方は……この人間が本当に……いえ、失礼しました。どうぞお通りください」
なんかネルちゃんって有名人?
「さあ、行きましょうか」
ネルちゃん本人は何も言ってこないから、聞かれたくないことなのかな?
歩き始めてしまったネルちゃんを追いかけながら私はそう思った。