装備製作
「……これで良いか?」
「はい。ありがとうこざいます」
しばらくして、おじいさんから出来上がった装備をネルちゃんが受け取る。
「しかし、なんでまたこんな巨大な首輪を?」
「あーそれは……」
ネルちゃんが視線を泳がせる。もう正体言っちゃてもいいのでは?
『ネルちゃん、ネルちゃん。もう正体言ってもいいんじゃない?』
『……そうですね』
すぐ隣にいるネルちゃんに念話を飛ばしてそう伝える。え? なんで隣にいるのに念話を使うのかって? だって目の間に人がいるじゃん。じゃあ念話で話すしかないじゃんね。
「実は、ですね……」
「ん? なんだ?」
ネルちゃんが光に包まれ、巨大になっていく。そして、真っ赤なドラゴンに変わる。
「彼女はドラゴンだ。今まで人化していた。騙すような真似をして申し訳ない」
すかさず師匠がフォローする。師匠、私の名前出さないでね!
「主人はハナ、……さっきからずっと黙っているこの娘だ」
おいコラ。あっおじさんと目が合った。とりあえず会釈。人見知りの必須スキル。あっ……どうも。
「私も、ハナに使役されている魔物だ。まあ……事情があって今は人化を解くことができない。申し訳ないな」
そうそう。師匠まで人化解いたら誰がおじいさんと話をするんだってなるからね。悪いねおじいさん。ほんとに騙そうって思ってたわけじゃないのよ。
「とすると……あのゴブリンもか?」
「いや、彼らは知り合いと言うのが一番正しいだろう。彼らも生きるために鍛冶道具を盗んだのだ。許してやってくれとは言わないが、彼らにも深刻な事情があったことは知っておいて欲しい」
おじいさんはしばらく静かに師匠の話を聞いていたが、やがて大きくうなずいた。
「正直、まだ混乱しているが……おぬしたちの話を信じよう。実際、道具はこうして戻ってきて、丁寧に扱われていたようだしな。それにしても……」
おじいさんは言葉を区切って、ネルちゃんの顔を見上げた。
「まさか、ドラゴンの装備を作る日が来るとはな……」
「出来れば今後も魔物の装備の製造をお願いしたいのだが、勿論対価は払う」
「ああ、別に構わんぞ。実際、なかなかにいい経験になったしな」
「では、これからもよろしく頼む」
さすが師匠、今後も装備作って貰う約束を取り付けた。たくましいね!
師匠がお師匠さんとの会話を終え、私たちはその場を後にした。
「では帰りましょうか」
「あ、うん」
ネルちゃんの首にルビーの宝石を付けた首輪、オシャレに言うならネックレスをつけて、私たちは始まりの街方向へと帰る。
今回、私何かしたっけ?
私はフェルマーの最終定理レベルの難題にぶつかった。……証明不能! というか、頼むから真相は解き明かさずに闇夜に葬ってほしい。切実に。