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魔物使いの少女  作者: つい
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ゴブリン再来

 師匠とネルちゃんの立てた作戦はこうだ。


 探しても見つからないなら、向こうから来てもらう。


 私たちはキャンプファイヤーのように、盛大に焚き火をする。慎重なあのゴブリンさんなら、必ず様子を見に来るはずだ。だって火事なら逃げなければいけないし、人間なら警戒しなくてはいけない。様子を見に来るならある程度火元に近づく必要があるため、師匠の耳とネルちゃんの目で見つけられる。というか、火元に来れば私たちの姿が見えるので向こうから話しかけてくるだろう。ネルちゃんも空飛んでるし、目立つはずだ。


 つまり、これはのろし。ゴブリンさんへの合図だ。ゴブリンさんの興味を引いてこっちに来てもらう。


「名付けて、『好奇心はゴブリンを殺す』作戦とかどう?」

「……殺してはダメだろ」

「そうですね、殺しはしないです」


 うん、いいツッコミだ。


 作戦開始から十分が経った。


「……む? 何かが近づいて来ておる」

「……あっ、見えました。あれは、ゴブリンですね」


 おっ? 早速成果が出たみたい。


「止まる気配がないな……」

「どんどんきますね」


 ってことは、そういうことだよね。


「何事かと思えば、またお前らか」

「やあ、ゴブリンさん久しぶり……なんか大きくなったね」


 前会った時は私の腰くらいまでだったのが、今では胸くらいまでになってる。そして、声が前の耳障りな声からかなり改善され、少し低くていい感じ。


「ん? ああ、進化したんだよ」


 進化とか出来るんだ……じゃあ師匠もネルちゃんもいずれは? まあいいか。


「で、何してんだ? まさか、寒いから暖をとっていただけか?」

「あー、ちょっと言いにくいんだけど実は……」


 私がここまでの流れを説明する。


「…………」


 ゴブリンさんは完全に黙ってしまった。その表情から葛藤が見える見える。仲間の安全のために鍛冶道具が必要。しかし、命の恩人に上げた宝石の加工のためには、道具を手放さなければいけないという板挟み。


 そして長い沈黙の後、ゴブリンさんは口を開く。


「……分かった。鍛冶道具は返すし、もう盗らない。俺たちはまた、移動する」


 やっぱりいい人だった。ん? いい人なら盗みはしないって? ……そこはほら、魔物と人間の根本的な倫理観の違いだよね。気にしちゃ負けだ。


「あ、そのことなんだけど……私の仲間にならない?」

「仲間? ……ああ、そういえば魔物使いだって言ってたな。……いや、遠慮しておく。仲間のことは見捨てられないからな」

「そっか……」

「でも…………落ち着いたら、まあ、なってやるよ」

「本当!?」

「お前は、命の恩人だ。これでも結構、恩を感じている」


 しみじみと、ゴブリンさんは言った。やっぱこの人、良い人だよなぁ。


「強く生きてね」

「おう。あ、鍛冶道具は俺が直接あの家の主人に持っていく。……迷惑かけたしな」

「そう? じゃあお願いね」


 キャンプファイヤーの後始末をしてから、ネルちゃんと師匠は再び人化しておじいさんの家に戻る。


 おじいさんは小屋の前で待っていて、私たちが小屋に近づくと話しかけてきた。私じゃなくて、ネルちゃんにね。


「おお、待っておったぞ」

「鍛冶道具、届きました?」

「ああ、さっきゴブリンが頭を下げて返しに来たのだ。道具も丁寧に扱われていたようで傷んでいないし、不思議なゴブリンもいるもんだ」

「それで、ルビーの件なんですけど……」

「ああ、分かっておる。任せておけ」


 見た目は頼りないおじいさんだけど、鍛冶道具を手に取るその姿からはとてつもない力強さを感じた。

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