知り合いかも
北に飛ぶ。北城よりも、さらに北に。
「どこまで行くねーん!」ってツッコミでも入れようかと思ったら、やっとネルちゃんが森の上で止まった。北城超えてからも十分くらい飛んでたね。
「このあたりのようですね」
「やっと着いたのね」
とりあえずネルちゃんお疲れ様っと。
「だいぶ涼しくなったな」
そうだね師匠。でも、寒くはない。むしろ快適なくらい。ほんと、一年中このくらいの気温なら過ごしやすいのになぁ。
「多分あの子屋だと思うのですが……」
「うーん……あっ! あれか」
針葉樹の森の中に、小さな小屋が一軒建っていた。立派な煙突から煙が出ているので分かりやすい。
「どこに着陸しましょうか?」
たしかに木を蹴散らして着陸するわけにはいかないもんね。
「うーん……あ、そこに湖が……寒いかな?」
「いえ、大丈夫です。……そこしかなさそうですね」
というわけで、小屋の裏手にあったそこそこ大きな湖にネルちゃん着水。勿論、ドラゴンが裏手の湖に降ってきたらびっくりするので、ゆっくりと。
「よし、じゃあ後は、師匠とネルちゃんよろしく!」
「……任せておけ」
「はい!」
ん? 師匠の返事に変な間があったぞ? ラグかな?
二人は再び人化して小屋に近づき、ネルちゃんが優しく扉をノックする。
「はいはい、どちら様でしょうか」
出てきたのは痩せ細り、腰の曲がった老人だった。失礼だけど、とても鍛冶師には見えない。
「あの……」
ネルちゃんはここに至るまでの話を老人にして、ルビーを見せる。
「これは……しかし、すまんな。残念だが、今は少し力になれそうにない」
「ふむ、何か困りごとでもあるのか?」
「実はな……道具を一式、ゴブリンどもに盗まれてしまったのだ」
へー。ゴブリン……ね。
「恐ろしく賢いゴブリンたちで、罠にもかからん。この間などは、見事な連携で狩りをしている所を目撃したりもした。本当にゴブリンかと疑いたくなるほどだ」
へー……賢い……ゴブリン。……ふーん……賢いゴブリン。……なんかごめんなさい。それ多分知り合いです。
「賢いゴブリンですか……もし鍛冶道具を取り戻したら装備を造って下さいますか?」
「それは勿論だ。だが……奴らは本当に、普通のゴブリンとはわけが違う。戦闘になれば一筋縄でいかぬだろう」
「心配は要りません。多分戦闘になりませんから……」
「む? 戦闘にならない? ……とにかく、無理はせんでいいからな」
「はい! それでは」
これがいわゆるクエストってやつだよね。ゴブリンさんを守った時は勝手にクエストが始まっていたけど、今回は分かりやすい。
にしても……たしかにゴブリンさんたちは、あの時北に行くとは言っていた。それがまさかこんなに早く再会するとは思わなかったよ。それも、結構気まずい形で。まあ、ネルちゃんの言った通り戦闘にはならないと思うけど……きっと鍛冶道具も必要だから盗んだんだろうね。
「師匠、なんか聞こえる?」
「……ダメだ、ゴブリンの居場所が掴めるような音は聞こえてこない。森は他の動物も多いからな」
「ネルちゃんは、なんか見えた?」
『ダメですね。流石にこの広い森から、緑の小人を見つけるのは難しいみたいです』
ネルちゃんは上空から、師匠と私は地上でゴブリンを捜索している。しかし、捜査は難航していた。
ネルちゃんも師匠も手掛かりを掴めない。え? 私? ……うん。
まあ私の事はいいとして、やっぱり闇雲に探しても見つからない。なんか作戦を考えなきゃ。そう! 私の仕事は作戦を考えること! 私のスーパーでクールなブレインで、ナイスなアイディアをシンキング! ……ごめんなさい師匠たちの方が頭の回転が速いです。
「ハナよ、少し考えたのだが……」
『ハナさん、少し考えたんですけど……』
ほらね!!