物騒な世の中
ギルド作成を終え、ご褒美タイムを終えた私たちは鍛冶屋に来ていた。そう、ゴブリンさんからもらったあの宝石を装備にしに来たのだ。
「私の装備を作るより、売って皆さんの装備を買うのはどうでしょう?」
「それはダメだよ。だってゴブリンさん装備にする前提で話してたし、それに、私たちがいい装備をつけたところで……ね」
ミジンコに金棒を持たせるより、鬼に金棒を持たせた方が強いに決まってるんだよね。ネルちゃんも察してるのか、これ以上は食い下がらなかった。
そんなこんなで鍛冶屋に到着。あっ職人さんと目が合った。あわわ。怖いよー。
「師匠、後は任せた!」
「……まあいいが」
「いえ。今回は私が行きますね」
「む? そうか。じゃあ頼むぞ」
「はい」
人化状態のネルちゃんが近づいていき、職人さんと会話を始める。
「あの、装備を作りたいのですが」
「はいよ! 素材を見せてみな!」
ネルちゃんが、持っていたルビーの塊を職人さんに見せる。
「これは……! ルビーじゃねぇか……こんなサイズなかなかみないぜ」
職人さんの雰囲気が急に落ち着く。ビビってるな? それだけ貴重な物だということだろう。
「すまねぇが……ウチではコレを加工するのは無理だ」
「あら、そうですか」
「ああ、だが俺の師匠ならきっとできる。今は引退しちまったがコイツを見れば……職人の血が騒いできっと協力してくれるはずだ。師匠の家は……」
そう言いながらお師匠さんの家がある場所を教えてくれた。どうやら北の森の中。ポツンと一人で暮らしているようだ。
「はい、わかりました。ありがとうございました」
「おう! 最近物騒だからな、気をつけて行けよ!」
「はい」
私たちは街の外に出て、早速教えてもらったお師匠さんおお家を目指す。ところが、ある程度町から離れて、ネルちゃん達の人化を解こうとしたまさにその時。一つの好ましくない事件が起こった。
「おい、そこのお前ら。ここに持ち物全部置いていけ」
友好的とは言えない。そんな声が後ろからかけられた。振り向いてみると……うん、悪い人だ。多分誰が見ても悪い人ってわかるような格好をした男が立っていた。
「嫌だと言ったらどうなります?」
ネルちゃん落ち着いてるね。私はもう倒れそうだよ。ニンゲンコワイタスケテ……あっ師匠、支えてくれてありがとう。
「ここで全員ブッ殺す!!」
男のその声を合図に岩陰から、草むらから、さらには擬態していたのか地面からも急に男たちが出てきた。その数十人くらい。うん、なんで気づかなかったんだろう。自分でも不思議。
ネルちゃんと師匠も今は人化しているから、その能力は一般ピーポーレベルまで落ちている。……まあ、人化解いちゃえばいいんですけどね。それだけで私たちの勝ちだ。私や師匠はあっさり死んじゃうけど、ネルちゃんは絶対にやられないからね。相手がお気の毒なレベル。
「さあ置いてけ!」
男たちはみんな武器を手にやる気みたいだし。よし、ネルちゃん、ごー!!
私が人化を解くと、師匠とネルちゃんは光に包まれる。師匠の光はドンドン小さく、ネルちゃんは逆にドンドン大きくなって、やがてウサギとドラゴンに変わった。
盗賊さん達は固まっている。「は? ドラゴン?」と、かすれた声で呟くのが精いっぱいのようだ。
文字通り、秒で片付いた。というわけで盗賊退治成功。
「じゃあこのまま師匠さんの家まで飛びますね」
「うん。よろしくね」
ネルちゃんは何事もなかったかのように、私と師匠に背中に乗るよう促した。
ネルちゃんの背中で空の旅を楽しみながら、私は師匠に話しかけた。
「ねぇ師匠、思ったんだけどさ」
「ふむ、言いたいことは大体わかるぞ」
「鍛冶屋の師匠さんと、師匠で名前が紛らわしいね」
「うむ、私が一番思ってる」
ちなみに盗賊の中で、赤髪のメイドは絶対に獲物にしてはいけない常識となった。