ゴブリン編2
ゴブリンから逃げて空の旅。師匠はずっと考え込んでいる。
「師匠、これってそんなに深刻なことなの?」
「ああ、攻撃的なゴブリンが知性を持つと碌なことにならない。倫理観がないからな」
確かに。知略の限りを尽くして略奪のとかされたら、色々と厄介なことになりそうだ。
「やっぱり焼きます?」
「だから……いや、面倒だからそれでもいいかもな……」
「ちょっ、師匠!? 折れないで!」
「冗談だ」
勘弁してよ……。
「あ、城が見えてきましたよ」
色々トラブルはあったが、ようやく目的地に着いたようだ。
「でも……どうやら住人がいるようですね」
先客……? 私と同じ考えの人がいたのだろうか?
「ゴブリンですね。しかも城に投石機とか、大砲もついています」
またゴブリンか……大砲?
私、大砲の構造なんて知らないよ? え、かなり賢くない? それとも、私が知らないだけで大砲の構造って一般常識なの?
「うーん、攻撃されると面倒だし、壊しちゃっていいよ」
「はい、わかりました!」
まだ敵対行動は取られてないけどね。取られちゃ困る。
ネルちゃんが火球をぶつける度に大きな爆発が起こる。そしてやっと私でも先住民が目視できる距離まで近づいてきた。
先住民の皆様は……怒ってる。言葉が通じないからわかんないけど。……まあ怒るよね。
他の種族ならドラゴンを見ただけで逃げるというのに、彼らは粗悪な武器を振り回して喚いている。実力差は歴然なのに。……一周回って勇敢に見えてきたな?
「私は少し前にここの辺りを飛びましたけど、その時は無人でしたね。人間に邪魔されずに休める、いい場所でした」
「このゴブリンの数、恐らくここら一帯のゴブリンは全てここに集まっているのだろう」
「じゃあ……」
「ああ、多分あの城に知能が高いゴブリンがいる」
そう師匠が話したその時、ネルちゃんが何かに気づいた。
「城から誰か出てきました」
反射的に城を見ると、バルコニーに小さな緑の小人が立っていた。
「会話できるかな? ネルちゃんゆっくり近づいて」
「はい」
ネルちゃんにゆっくり近づいてもらって、バルコニーに飛び降りる。向こうも攻撃してこないし、敵意がないことは伝わったかな?
「初めまして、私は魔物使いのハナと言います」
「あ? ゴブリン語が話せんのか? ……チッ、ゴブリンでさえ話せない奴が多いってのに……」
甲高い、耳障りな声だ。
「いや、まあ私のは……裏技みたいなものです」
「裏技? まあいい、何の用だ? 潰しに来たか?」
ここで私の必殺技、ノープラン発動! どうしよ!
「……答えねぇってことは図星か? あ?」
あっあっあっ、無理だこの人。頼むからコミュ障にグイグイ来ないでほしい。
「チッ、人間って奴はどうしてこう、自分勝手なんだ! ゴブリンが栄えると潰す決まりでもあんのか?」
「あ、あの、その」
「あ!? 舐めてんのか? はっきり喋れ!」
「あ、る」
あばばばばばどどどどうしよよよう!! 終わった、オワタ! もう人類とゴブリンは分かり合えない! いやそもそも私に任せるのがおかしいな? 責任者出てこい! そんな人いないや! あばば……。
「ふざけやがって……」
ゴブリンは静かに武器を構える。しかし、私のそばにはネルちゃんがいる。
「やめてください!!」
ネルちゃんの一声でゴブリンの動きが止まる。こんな間近でドラゴンの咆哮。小さなゴブリンには大き過ぎたようだ。
「チッ! 弱いくせにドラゴン使ってデカイ顔しやがって……」
それに関しては! 返す言葉もございません! それに関しては! 本当に! 申し訳! ございません!
「ハナよ、どう見ても失敗したようにしか見えぬのだが」
「失敗したよ……人類とゴブリンが今後一生分かり合えなくなるレベルで、ね☆」
「そんな、ウィンクテヘペロされても困るのだが」
うるさい、ゲームの中でくらい現実逃避させてくれ(?)。
「焼きます? というか、私としてはハナさんに手を出そうとした時点で今すぐにでも、城ごと、焼き払いたいのですが?」
「ネルちゃんなんかゴブリンに対して容赦ないよね! 私もめんどくさいからそれでもいいかなと思い始めてる」
「落ち着け二人とも……」
しかしこの状況はまずい。すぐにでも戦闘になりそうな雰囲気だ。
「チッ、無視しやがって……」
「あ、すいません」
「で? なんだ? そのドラゴンの力で、俺たちを皆殺しにしようってことか?」
まずはこの誤解から解かなきゃいけないね。
「いや、仲良くさせていただきたく存じ申し上げてございまして……」
「は? お前さっき……」
「あれは言葉の綾というか、鮎というか……食い違いというか入れ食いというか……」
「……訳わかんねぇよ! チッ! ああ、もう! 待ってやるから、話したいことまとめてから話せ!」
前言撤回! いい人! この人超いい人! 絶対仲良くなれる! ありがとう、ありがとう!
私はここから軌道修正すべく、必死に言葉を考える。人類とゴブリンに栄光あれ。