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魔物使いの少女  作者: つい
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人類VSゴブリン&狼

 アルクは嘘をついていた。


 タケシとメサリアには、ゴブリンと狼に遭遇したというメッセージを送信した。しかし、既に狼はアルクが倒していた。アルクが敵の接近を感知し、その姿を捉えた瞬間に矢を放った。その放たれた矢は見事に狼の頭に突き刺さり、撃破した。


 アルクはダンと二人で、魔王領の森を歩いていた。


 荒廃した土地が多い魔王領にしては珍しく、そこは植物が生い茂っている場所だった。無数に生えている木の幹はダンでも破壊できないほど固く、その木の枝につく葉は濃い緑を通り越してもはや黒。そんな木に覆われた森は当然薄暗く、視界が悪い。謎に淡い光を放つキノコや花があるため、何も見えないというほどではないのだが。


 アルクとダンがこの森を歩いていたのは、魔王城に接近するためであった。この森であれば、空を飛び回るドラゴンに見つかることはない。


 例えドラゴンに見つかったとしてもアルクがいるのだから、絶望的と言うわけではない。だがドラゴン相手にはダンが何もできないに等しいために、できれば見つからずに行きたいという思いがあった。


「ゴブリンはどうした?」


 武器を構え、ゴブリンがいるであろう方向に向き直ったダンがアルクに尋ねる。


「やれてない」


 アルクはそう答えながらダンから少し離れ、それからダンの背後に入って、弓を構える。


 狼が倒れ、上に乗っていたゴブリンは投げ出された。しかし、ゴブリンはその勢いのまま地面を転がって木の幹に隠れてしまったのだ。ろくにダメージは入っていないとみていいだろう。


 アルクとダンは、ゴブリンが隠れているであろう方向に注意を向ける。この視界の悪い環境、並みのゴブリンであればその小ささに苦労させられたかもしれない。しかし、ハナのゴブリンは鬼という言葉がしっくりくる体格であるため、注視していればその動きを見逃すことはないだろう。逆にそのせいで無視できない火力を持っているという可能性があるため、良い事ばかりではないのだが。


 巨体らしからぬ素早さで木々の間を移動するゴブリンの姿が見える。想像より近い。アルクは職業の特性上、距離をとらないとゴブリンにダメージを与えることができない。アルクはさらにダンから離れて、弓を構え直した。


「逃げるつもりは……ないらしいな。アルク、やるぞ」


 ダンの背中に、アルクは頷いて答えた。


 逃げないということは、何か策があるのかもしれない。ここは障害物が多くて、射線も簡単にふさげる。十分に注意して戦いに臨もう。そう考えながらアルクは次にゴブリンの姿が見えた時に備えて、全神経を前方に集中させる。



 アルクのHPが半分ほど減った。



 アルクは痛みを感じて、自分の左腕が落ちたことに気が付いた。慌てて右腕で弓を掴み、何とか武器を落とすことは避けられたが、これでは弓を構えることができない。


 アルクは反射的に右方向に身を引きながら、左側をみた。


 何もいない。


 アルクは視線を下に落とす。そこには、気味の悪い虫がいた。いや、これは虫ではない。ハナが見せていたゴーレムだ。鉄でできた、足が鋭利な刃物になっている、虫型のゴーレムだ。


「油断した」

「みたいだな。らしくもない」


 ダンがそう言いながら、アルクの近くまで下がって来る。


 ダンはアルクのもとへ向かう途中、虫型ゴーレムのターゲットを自分に移そうとスキルを使う。しかし、虫型ゴーレムは無反応。暗い森の中へと姿を消した。普通の魔物であればあり得ないことだが、ゴーレムは生物ではないし、魔物とは違った行動を取るのかもしれない。


 ガラスの割れる音がする。ダンの注目はゴブリンから外れていた。アルクも攻撃ができない状況にある。そんな絶好のチャンスを、ゴブリンが見逃してくれるはずもなかった。


 あたり一面に緑色のガスが広がり、アルクとダンはそれを吸い込んだ。アルクのHPがさらにじわじわと減り始め、ダンのHPも、微々たる量だが減り始める。


 ダンは驚きを隠せなかった。ダンが固定ダメージに弱いことは確かに広く知られている。だがまさか、ゴブリンに、魔物にまで対策されるとは思わなかった。


 実際、ダンがやられた魔王城前の戦闘では、ハナが毒ガス攻撃をしなければあそこまで簡単にはやられなかったはずだ。魔王軍はダンに攻撃が通らないとしても、愚直に攻撃を続けてきていた。毒で固定ダメージを与えようなどと動いてくる魔王軍はいなかった。それどころか、これまで戦った魔物で、ダンの特性を知った上で対策をしてくる魔物などいなかった。なぜなら魔物はプレイヤーではなく、ある程度行動パターンが決まっているからだ。


「私は、もう無理」


 アルクは生存を諦めた。アルクの目は良い方だが、この視界の悪さであの小さなゴーレムを見つけることは不可能だ。おまけにダンのスキルも効かず、自身の左腕もないため弓も握れない。ダンがアルクのことを守ろうとすれば、ゴブリンから意識を外すことになる。そんな風に舐めてかかれる相手ではないことを、アルクもダンも悟っていた。


「分かった。後は任せておけ」


 アルクから手早くポーションなどを譲り受け、ダンはアルクから意識を外す。数分と経たずに、アルクは神出鬼没の虫型ゴーレムにやられるだろう。


 ダンはポーションを飲む。一定時間、体力を持続的に回復してくれるポーションだ。まずはこれで毒のダメージを相殺。続けて普通の回復ポーションを飲んで、HPを満タンに戻そうとする。


 当然、ダンがポーションを飲むところを、ゴブリンがおとなしく見ているはずがない。突然木の影から飛び出してきて、すれ違いざまに隙だらけのダンの横っ腹を、真っ黒な長剣で切り付けてくる。


 金属音がして、ダンの鎧にゴブリンの剣が弾かれた。


 今の演出は、防御力が攻撃の数値を上回り、ノーダメージであった場合の演出だ。攻撃者は逆に弾かれた反動を受けることになり、大きな隙ができる。本来なら反撃のチャンスだが、残念ながらダンはポーションを飲んでいたため、武器を構えてすらいなかった。だから攻撃など試すまでもなく間に合わず、ゴブリンはあっという間に木の陰に消えた。去り際にまたガラスの割れる音がして、せっかく消えかかっていた毒の霧が復活する。さっきよりも毒が強い。相殺できていた回復が間に合っていない。


 ちなみに、アルクは既にやられていた。いつやられたのかもわからない。ただし、あの虫型ゴーレムがダンの防御力を貫通することは不可能だ。ダンはゴブリンの剣を弾いたことでそう確信した。だから、ダンは変わらずにゴブリンだけを気にしていればよかった。


 この毒の中にいる限り、ゴブリンだって無傷ではいられないはずだ。しばらく消えることのない毒の霧の中で、ダンは一息ついてから、目を閉じて、意識を周囲に向ける。


 ダンの索敵はアルクほど優れていないが、そこはこれまでのVRゲームの経験もある。勘のようなものは鋭く、まだゴブリンが逃げずに近くで息をひそめていることを感じ取った。


 敵は決着をつけるつもりだ。ダンは北城へ行った時のことを思い出す。ずいぶんと賢そうなゴブリンだった。一般的なゴブリンとはわけが違う。逃げる判断は十分できるはずだ。逃げないということは、そういう事だろう。


 敵は途方もなくじりじりとダンを削るしかないのに対し、ダンは一撃当てれば勝ちだ。ゴブリンは鎧などつけていない。ダンの攻撃をまともに食らえば、一撃とはいかないだろうが、その機動力を維持できないほどの傷は負うだろう。そうなってしまえばダンの負けはあり得ない。


 有利か不利かは分からないが、どうせダンの機動力では逃げることなどできない。戦うしか道は残されていないのだ。


「さあ、来い!」


 ダンは強敵との戦闘に笑みをこぼしながら、気合を入れ直した。

 

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