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魔物使いの少女  作者: つい
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人類VSネルロ&ジオ2

 軌道に乗り始めた巨人の処理とは反対に、ドラゴンの相手は苦戦していた。


 正確に言えば、苦戦どころではなかった。既に崩壊していた。


 巨人処理が順調の兆しを見せ始め、タケシが落ち着いて戦況の把握をしようとしたその矢先。囮部隊は既に半分が消滅し、今まさに、追加で二人がドラゴンのブレスに消えた。


 一応、魔法職や弓使いなどが撃ってはいるが、手数が少なすぎてお話にならない。やはりメサリアのように、攻撃を雨あられの如くぶつけることができなければ、空を飛ぶドラゴンには有効打になりえないだろう。


 また、囮部隊の一人が火球に飲まれる。これで残りは七人。そのうち四人の分身体は壊されているので、囮部隊の見かけ上の総数は十人だ。


 ドラゴンが、動きに変化を見せる。


 これまではタケシたち本隊に背を向けて、魔王城側へ走る囮部隊を追いかけていた。しかし、突如として反転。囮部隊をほったらかして、本隊へと直進してくる。


 一般の魔物であれば、まずありえない行動。囮部隊に交じっているプレイヤーの分身体には、敵の注目を集める効果がある。メタい話をすればそういうシステムなのだ。一人でも分身体が残っているのなら、プレイヤー側がよほどのことをしない限り魔物はその分身体を狙って行動する。


 しかし相手は使役魔物。一般の魔物とは違った行動をとるらしい。


 その行動を観察する限り、流石にプレイヤーと分身体の区別がついている、というわけではないことが分かる。もし区別ができるのであれば、分身体をわざわざ攻撃したりしないだろう。


「メサリア! ドラゴンがこっちに来る!」


 メサリアの顔が歪む。言葉はなくとも、それが答えであった。


 先に巨人を全力で倒すべきだろうか。タケシはそう考えたが、その考えをすぐに振り払う。ドラゴンの火球が飛んでくるまでの猶予は数秒ほどしかない。巨人の処理は、このままいけば処理できるというだけであって、間もなく完了するわけではない。むしろ始まったばかりで、HPは七割ほど残っている。


 ここで巨人が、変化を起こす。


 タケシは心に浮かんだ諦めという文字を、何とか振り払った。しかし、どんなに心を強く持ったとしても、その巨人の変化は絶望的であった。


 既に城のように大きかった巨人が、さらに1.5倍ほどの大きさに膨れ上がったのだ。


 それだけではない。その瞬間、巨人の纏う空気が変わった。


 それは全てを破壊する殺気。理性が完全に消失した、野生的で容赦のない力。


 巨人が再び叫ぶ。それはまさに獣であった。それから、滅茶苦茶な乱打。今の巨人は、アリ一匹潰すことにさえ、全力の拳を放つだろう。


 ひねった攻撃など何もない。だがその常識はずれな巨体ゆえに、何もせずとも全てが即死級。


「おおーすっげーな!」

「言ってる場合じゃないわよ!」


 ヘラヘラと笑う『道化師』の男に、メサリアが怒鳴った。


「……これまでか。後は頼めるか? クラン」

「んーまあ、ドラゴンだけ何とかしてくれればね」


 タケシの問いに、『道化師』の男『クラン』は笑いながら答えた。


 クランはアイテムストレージを操作して、白い仮面を取り出す。


「アンタね、そんな余裕そうにしておきながら、一瞬でやられないでよね?」

「いやー、多分いけるっしょ。見た感じあの巨人、動きがすっごい単調だし」


 クランは躍るような足取りで防御魔法の範囲から出ていき、悠々と巨人の背後を取る。


 巨人の背後を取ったクランは口笛を吹く。口笛程度であれば巨人の打撃音にかき消されそうなものであるが、その口笛はれっきとしたスキルだ。よって、殺伐とした戦場に不相応な、間抜けな口笛が響いた。


 巨人が攻撃の手をピタリと止めて、後ろを振り返る。


 泣き顔のペイントがされた白い仮面。クランがもう一度口笛を吹いた。


 巨人は雄たけびを上げて、クランへと殴り掛かった。タケシたちには目もくれない。他の一切を無視して、ただ真っすぐにクランへと拳を振り下ろし続ける。


 しかし、クランには当たらない。それどころか、クランは巨人の攻撃をよけるたびに、より身軽になっていく。


 躱せば躱すほどクランの身のこなしは華麗になり、その様子がさらにに魔物をイラつかせ、魔物はクランに一撃入れないと気が済まない。しかし攻撃をすればするほどクランの身のこなしを助けることとなり、怒りが限界突破した魔物はもうクラン以外を意識することはない。


「大丈夫そうだな」


 タケシはひとまず安堵のため息を吐いた。まだドラゴンの対処が残ってはいるが。


 今の所ドラゴンは、空からタケシたち本隊にブレスや火球などの攻撃を加えている。それ自体は巨人の攻撃に比べれば威力はだいぶ低いため、対処は問題ない。


『クラン、ここからどこか、適当な方向に離れて行ってくれ』

『なんだよその適当な指示!? おいおい、扱いがいひでぇな?』


 クランは念話におどけて応える余裕まである。巨人に関しては一人で任せて問題ないだろう。


「そういえば、面白い情報入ってるわよ」


 そんな前置きから、メサリアは本当に面白い情報をタケシに伝えた。これは使えるかもしれないと思ったタケシは、思いついた作戦を実行するために、具体的な指示をクランに伝える。


『クラン、魔王城だ。魔王城の方向へ巨人を連れていってくれ』

『ちょっと距離あるぜ?』

『頑張れ』

『おい!』


 タケシはクランとの念話を終えた。魔王城へ向かう道中、魔王軍と会うかもしれない。タケシは生き残った囮部隊にクランの護衛に回るように指示した。クランと巨人の一対一の構図さえ維持できれば、クランはやってのけてくれるだろう。


「ドラゴンは、やれそうか?」

「ええ。思ったより火力は高いけど、私が攻撃に回る余裕はありそうね」


 メサリアはそう言いながら、防御用の結界と、攻撃用の魔法を同時に展開する。


 全力で攻撃できないとは言ったが、それでも空中に展開された魔法陣の数は多い。どれもこれもそこまで威力の高い魔法というわけではないが、この数であればドラゴンと言えども無事では済まない。


「ドラゴンが逃げそうなそぶりを見せたら、巨人とは反対方向に追い立ててくれ」


 タケシの指示に、メサリアは「ええ」と頷いた。


「やっぱり、アルクには声をかけておいた方が良かったんじゃないかしら?」

「そうするとダンが拗ねるだろ」


 戦闘狂は扱いが難しい。ダンも適材適所と理解はしているだろうが、理解と納得は別問題だ。


 大勢は決した。何度も危機に陥ったが、この様子で行けば勝てるだろう。撃破まで持っていけるかは分からないが。


 タケシはこの後、続けて魔王城前まで進軍するつもりでいた。なので、足の速いプレイヤーを数人呼び寄せて、一度補給のために人類軍側領地へと帰還させる。巨人の無力化に成功したため、MPポーションの消費は落ち着いた。この戦闘ではポーション切れを心配する必要はないだろう。ただ、続けて進軍するとなると少し不安な量だ。


 新たに編成した補給部隊が走り去っていった数分後、ついにドラゴンが墜落する。翼にダメージが蓄積し、飛行できなくなったようだ。こうなれば取り逃がす心配はない。


「ドラゴンはまだ生きてるぞ。油断するなよ」


 ここに集まる猛者たちには無駄な注意喚起ではあるが、タケシは一応、そう促した。


「もう勝ったも同然ね。ほんと、苦労させられたわ……」


 タケシのすぐ隣、油断している猛者がいた。


 タケシは、まだ何かあるのではないかと不安だったが、幸い、ドラゴンの抵抗もここまでだ。ドラゴンが地に落ちてからはそう時間はかからず、ついにドラゴンのその巨体が光に包まれた。


 戦場が静かになる。疲労が強く、叫ぶ元気がある者などいなかった。


「人員と物資の到着を待つ。それまで休憩しよう」


 ドラゴンは地に落ちてから、防御をかなぐり捨てた猛攻に出た。壊滅とまではいわないが、こちらが受けた被害も大きい。五十名ほどの部隊であったが、最終的に生き残ったのは、クランの護衛に向かった者も含めて十数名といったところか。前線を構築するような戦士系の職業はほとんどいなくなり、安全な防御結界の中にいた魔法職がほとんどだ。


 ようやく気を抜くことができたタケシのもとに、一つメッセージが届く。それを確認してメサリアの方を向けば、メサリアもこちらを見ている。どうやら同じメッセージが届いたらしい。


 それは、ダンとアルクが、ハナの使役するゴブリンと狼に遭遇したというメッセージであった。



 

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