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魔物使いの少女  作者: つい
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人類VSネルロ&ジオ

 

『タケシ、ちょっといいかしら?』


 東城での集会を終えた翌日。東城で一人今後の作戦を考えていたタケシのもとに、メサリアから念話が飛んできた。


『どうした?』

『今ね、ハナが使役魔物と別行動をとっているらしいのよ』


 詳しい内容をメサリアが話す。ハナの使役魔物があちこちで出没しているらしい。その組み合わせはドラゴンと巨人、ゴブリンと狼で、近くにハナの姿はないという。


『……想像はしていたが、普通に単独で動けるのか』


 例えば『召喚士』であれば、召喚魔物が動ける範囲は術者を中心に決まっているし、術者を倒せば全ての召喚魔物は制御不能となって即霧散する。


 ところが案の定、『魔物使い』のハナにその法則は当てはまらないらしい。


『まあ、ハナの使役魔物は普通に有能そうな奴ばっかりだったもんな』

『ええ、……ハナよりもね』

『……やめてやれ』


 ハナの名誉のために否定してやろうと思ったタケシだったが、結局言葉に詰まった。


『どうするの? はっきり言って、ドラゴンと巨人の組み合わせなんて無理よ? 事実、今のところ目をつけられたパーティーは漏れなく壊滅してるわ』


 例えるなら、草むらから野生のディア○ガとパル○アが飛び出してくるようなものだ。生半可な戦力では抵抗すらできずに蹂躙されるのみ。


 しかし、タケシはあることを思いつく。


『……むしろチャンスかもしれないな。ハナがいないなら、これまでとは違った動きを見せるかもしれない』


 ハナの存在の有無で何が変わるのか。それは魔物の生存意識ではないかと、タケシは考えていた。


 ハナが乗っていれば当然、ドラゴンは極力被弾を避けるし、何よりハナ自身が魔物を使い潰すとも思えない。すると普段はかなり生存重視の指示出しをしていると思われる。実際、これまでのハナ襲撃の様子を振り返ってみれば、その傾向は読める。


 ハナがいなければ魔物たちの行動はより攻撃的になり、逃げに転じるラインが低いと考えられる。タイミングを見て虚を突いて、一気に勝負を決めれば勝機があるかもしれない。


『俺たちでその巨人とドラゴンを潰そう。……ちょっと考えがある』

『いいわよ。ダンとアルクにも声をかける?』

『いや、あの二人は呼ばなくて大丈夫だ。巨人はともかく、ドラゴンとダンは相性が悪い。ドラゴン対策ならメサリアと、お互いのギルドの奴らで十分火力は足りる……と思う』


 部隊編成は『召喚士』を呼んで、……まあ『竜騎士』も呼んでおくか。後は保険で『道化師』も呼ぼう。


『そんな大所帯で行って、ちゃんと狙ってくれるかしら?』

『そこは大丈夫だろう。むしろ向こうからすればチマチマした少数を狙うより、適当に攻撃するだけで誰かに当たるような大乱闘を望むはずだしな』


 それから集合場所を決めて、メンバーに声をかけて、三時間後には準備が整った。






 タケシとメサリアのギルドメンバーをメインとした、五十名ほどの部隊。魔王城に向けて、平坦な荒野を行軍する。


「アイツに見張りを任せて大丈夫か?」

「大丈夫よ。魔法職で『マジックバリア』重ねてるし、遠距離からの火球程度なら、余裕で耐えるはずよ」


 メサリアは行軍するプレイヤーたちを囲むように、マジックバリアを張っていると言った。つまり上空で意気揚々と飛んでいる竜騎士の彼は範囲外と言うことだ。タケシは何も言わずに黙っていることにした。


 最後にドラゴンたちの姿が確認されたのは、ほんの数分前。魔王城目前までたどり着いていた二十人ほどのプレイヤーたちがきっちり全滅させられている。つまり方向的には、ドラゴンたちは真正面からくる可能性が高い。


「……と、早速来たみたいだな」


 そんなことを考えながら歩いていれば、前方に小さなオレンジの光。ドラゴンの火球だ。視認したそれは恐ろしいスピードで近づいてきて、部隊に直撃する。


 煙が晴れれば、タケシの目でも十分確認できる距離にドラゴンを発見した。


「……大丈夫! 防御は問題ないわ!」


 被害がゼロであることを確認したメサリアの声を聞きながら、タケシは念話で指示を出す。


『全員落ち着け、マジックバリアの範囲内からでなければダメージはない。次から、余裕のある遠距離攻撃手段持ちは、火球の迎撃を試してみてくれ。魔法使い組は参加しなくていい、防御用にMPを温存だ。そして囮部隊、俺の合図で前進。まだ待機だぞ』


 そこかしこから、了解の意を告げる声が上がる。


「メサリアも、俺の合図で頼む」

「ええ。MPは大丈夫よ」


 部隊の行軍は一度停止。弓矢を構えたり、小ぶりの鉄球をストレージからアイテム化したり、各々遠距離攻撃の準備をする。囮部隊は合図と同時に走り出せるよう構える。


 三発目の火球。こちらの弓部隊が放った数多の水属性の矢が、火球を打ち消した。


 攻撃には、それぞれウィークポイントが設定されていることがある。複数の弓がどうやらそれをうまく撃ち抜くことができたらしい。


 ドラゴンが威嚇の雄たけびを響かせながら、大きく翼をはためかせて突っ込んで来る。近づいて、より強力な火炎ブレスや爪攻撃をするためだろう。


 恐らくハナがいれば、もうしばらくは様子見で遠距離から撃ってきただろうが、情報通りハナはいないらしい。ドラゴンは一気に勝負を決めに来た。


『囮部隊、行け! 攻撃を視認したら散開。衝突しないように気をつけろよ! 巨人が来たら撤収、死ぬ気でバリア内まで戻ってこい!』


 約二十名の囮部隊が走り出す。


「メサリア、頼む!」


 メサリアの魔法で、囮部隊のプレイヤーが全員二人に分裂する。無論見かけ倒しではあるが、これで人数は倍になって四十ほど。さらに、分身体には魔物の注意を惹きつける効果もある。


 さあドラゴン。まさかこの人数を素通りさせるわけにはいかないだろう。


 一瞬、ドラゴンの動きが目に見えて鈍る。だがすぐに前進を再開し、一気にタケシたちの上空を通過。その際に竜騎士の黄色いドラゴンが一匹喰われたのを、タケシは視界の端で確認した。


 ハナのドラゴンは本隊後方の上空でクルリと反転。


「……ああ! 惜しいわね!」


 反転の隙をメサリアが雷魔法で狙ったようだが、尻尾で弾かれていた。そもそも、ドラゴンの鱗には魔法の威力を減衰させる効果があるというので仕方がない。


 さて、ドラゴンはなぜ反転したのか。タケシには想像がついている。


「巨人が来るぞ! バリア追加し……」


 タケシの声をかき消す雄たけび。空中に突如として巨人が出現し、ちょうど部隊の真ん中に降って来る。


 盛大な破砕音。バリアが貫通された音だ。着地点付近にいたプレイヤーが吹き飛ぶ。何人かは潰されてそのままやられただろう。


 まずい。


 ドラゴンは魔王城側に抜けていった囮組を追いかけて、巨人は本隊を叩く。敵がそう対処してくることはタケシの想定内であったが、巨人の攻撃力は想定外だった。


『作戦変更! 囮組は引き続き、ドラゴンの注意を惹きつけろ!』


 念話で部隊全体に指示を出す。幸い、今はドラゴンの注意はこちらに向いていない。ここで囮組が戻ってくれば一網打尽にされるので、彼らには申し訳ないがもう少し耐えてもらう他ない。


「メサリア!!」

「ええ! 出し惜しみはしないわ!」


 メサリアは地面に青い宝石を叩きつけ、すぐさま残っていたMPを使って『マジックバリア』を多重発動する。


 メサリアのすっからかんになったMPがそれなりの速度で、継続的に回復し続ける。メサリアが使ったアイテムの効果だ。五分間足元にMPを回復するフィールドを展開する、超貴重な超高級品。


 その青いフィールドに続々と魔法職が集まって、それぞれ防御系の魔法を展開していく。


「……攻撃抑えたわ!!」


 先ほどよりも範囲は狭まったが、何とか巨人の攻撃を防げるレベルのバリアを張れた様だ。


「今から五分で決着をつける! モノ!」

「は、はい!」


 気弱そうな、高身長の女性プレイヤー『モノ』。職業『召喚士』のプレイヤーだ。


 彼女は次々に魔法陣を展開し、召喚を行っていく。


 単純な火力では足りない。この巨人は最初から最後まで、職業ボーナスの外れないダンのようなものだ。しかもダンが『重戦車』なら巨人は『超重戦車』。真面目に相手などしていてれば、勝ち目はゼロ。


 だから、対策もダンと同じ。固定ダメージで勝負する。


 モノはMP回復フィールドに入りながら、さらにポーションも飲みつつ、ハイペースで次々と召喚を続ける。その数は百体以上。


 それはワニであったり毒蜘蛛であったり火蜥蜴であったり他にも色々。防御力貫通攻撃、出血、毒、火傷、凍傷など、あらゆる方法で防御力を無視して、その膨大な体力を削っていく。


 巨人は城みたいに大きいので、攻撃する場所には困らない。百匹以上の召喚魔物が一斉に攻撃できるほどの大きさだ。


「…………あ……あ」


 モノが右手で頭を押さえながら、どこかキマッた目で一点を見つめ始める。


「ねえちょっと……この人大丈夫なの?」

「……百匹くらいならいけるって言ってたし……多分大丈夫じゃないか?」


 召喚魔物はそれぞれ、『制御』をしないといけないらしい。その感覚は本人にしか分からないが、その目を見れば過酷さは容易に想像できる。……なんだか、楽しそうに見えるのは気のせいだろう。


「と、上の方は竜に攻撃して貰うか」

「ああ、アイツならさっき逃げたわよ」

「ええ……」


 まあ、どうせ大した戦力にはならなかっただろう。問題はない。


「で、俺の出番はいつよ?」


 職業『道化師』の男が話しかけてくる。


「まだ大丈夫そうだ。何とかパーティー崩壊せずに済んだみたいだし」

「ちょっとタケシ、油断しないでよ? まだ勝負は終わってないどころか始まったばかりなんだから」

「……俺らもちょっと殴りに行くか」

「ハハッ! 俺らが行っても微々たるもんでしょ!」


 普通の『戦士』であるタケシと『道化師』の彼が行っても、微々たるどころか、ダメージすら与えられない可能性の方が高いまである。


「暇ならポーション献上しなさい。このペースなら五分持たないわよ」

「ああ、分かった」


 タケシはちらりと巨人のHPバーを見る。


 想像以上に、減りは早い。


 タケシは安堵しそうになって、慌てて気を引き締めた。


 メサリアも言っていたが、慢心をしてはいけない。その結果が、これまでの惨敗だ。


 特に今回の相手はハナの最大戦力。所詮NPCなどと思っていれば、一瞬で敗北すらあり得るだろう。


 タケシは気を引き締め直し、戦況の把握に神経を集中させた。


 

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