魔王VS人類 人類軍作戦会議
ハナが機動要塞でキャッキャしているのと同時刻、東城会議室には四人のプレイヤーが集まっていた。
四人は揃って、顔色が悪い。
「一度、問題を整理しよう」
タケシの言葉に、メサリア、ダン、アルクが頷く。
一つ目は、地味にちょっかいを出してくる盗賊たち。
二つ目は、ケタ違いに強い魔王城周辺の魔物。
三つ目にして最大の問題は、どこからともなくドヤ顔で乗り込んで来るハナ。
タケシとメサリアのため息が重なる。
「ここまで厄介だとは思わなかったわ。色々と……」
メサリアの言葉にアルクは頷いた。ハナの活躍は嬉しくもあったが、敵であるために素直に喜ぶことは出来ない。
「盗賊の方は着実に捕まっている。いずれ落ち着くとは思うが……他二つは対策が必要だろう」
悲観的とまでは言えないが、いつもよりは少し暗い面持ちでダンが呟いた。
実際、HPを全損させられたダンの言葉は重い。
ダンがやられたという事実は、プレイヤーたちに深い精神的ダメージを与えた。特にこのゲームをやり込んでいる人間ほど、そのダメージは大きい。無理もないだろう、夏に雪が降るくらいあり得ないことだ。その場に居合わせた者以外は絶対に信じないし、ダンが消える瞬間を目撃したアルクだって、しばらくは理解が追いつかなかった。
今、人類軍のメンバーは日々増え続けている。しかし、士気は下がり気味だ。
「強そうなレア職探しの方は順調なのか?」
「確認したけど、進展はない」
タケシの問いに、アルクは淡々と答えた。
「……まあ、今から見つかるようなプレイヤーはアカウントを作りたての初心者だろう。俺たちはできる限り干渉をするべきではない」
「ああ、そういえば一部で強引な勧誘があって、ちょっと揉めてたわね」
この魔王城攻略は、強制イベントでも何でもない。ゲームは自由に楽しくやる、それが当たり前。しかし、攻略に夢中になりすぎて、そこを忘れている人が一部いるのも問題の一つと言えるだろう。
「とすると、特に追加メンバーは無しで作戦を考えないとなぁ……」
タケシは攻略のイメージを膨らませていく。人類軍にも切り札がないわけではない。
例えば『召喚士』という、魔物を際限なく呼び出すプレイヤーであったり、『呪術師』という、相手のスキルを封印するプレイヤーであったり。『天使』や『妖精』という、その身一つで自由に空を飛ぶ奴もいる。このゲームは基本職とレア職の二種類に分けられるのだが、レア職は数えきれないほど種類が多い。よって、取れる作戦も多い。
「あ、そういえば……凄いプレイヤーがいた、という話は聞いた」
「凄いプレイヤー?」
アルクのふわりとした説明に、タケシは興味を持った。
「どこのギルドにも所属してなくて」
「おお」
「プレイ時間も私たち並みかそれ以上にあって」
「おお!?」
「職業は『竜殺し』」
「おおお!!」
タケシの顔が期待で満ちる。
「何よその対ハナ専用プレイヤー……それで、その人はいつ頃ログインしているの?」
メサリアの質問に、アルクはかぶりを振る。
「連絡したら、『コミュ障なので……すみません』って」
「ハナみたいなやつだな」
ダンがフッと笑いながら言うが、タケシはその場で漫画みたいにずっこけた。
「……まあいいわよ。アイツのこともあるしね。結局、最後に頼れるのは自分だけよ」
『アイツ』とは『竜騎士』のことだ。まだこのゲームを始めて一か月も経っていない初心者だが、ドラゴンを操る職業とあってすぐに有名になった。
「誰か教えてあげれば良かったのにな。可哀そうに」
「なら、タケシ。あなたが教えてあげればよかったじゃない」
「それは、まあ……分かるだろ?」
ハナのドラゴンを見たことがある人間は、一目で分かった。彼とハナのドラゴンでは格が違う。しかし、それを伝えてあげる優しいプレイヤーはいなかった。
それはなぜか。理由は、竜騎士の彼は、滅茶苦茶イキっていた。それはもうとんでもないほどに。まるでこのゲームの主人公は俺だとでも言いたげであった。後輩面しながら近づいてくる、慇懃無礼の権化。嫌うプレイヤーは多い。
彼自身が一度でもハナのドラゴンをその目で実際に見ていたなら、また違ったかもしれない。しかし、彼はハナのドラゴンを見たことがなかった。というか、新規プレイヤ―には見たことがない者が多い。
ゲーム開始当初は、ハナが普通にその辺を飛び回っていた。それを見るプレイヤーたちは「またやってる」程度にしか思っていなかった。しかし、ハナは城主になってから北城に籠ってばかりで、滅多に始まりの町の方へはやってこない。今では見れたらラッキー、そんな感じの存在だ。
「実際に比べて見ると、想像以上に大きさ違ったわね。ほんとに倒せる強さしてるのかしら?」
ハナのドラゴンは竜騎士の竜の倍以上はあった。全力がどの程度なのか、答えられる人間はこの場にいない。
「巨人の姿もまだ見てないな。報告では、魔王軍襲撃イベントの時とは比べ物にならないほど大きいとか」
ダンがにやりと笑いながら言う。巨人と言えば、ダンのHPを初めて危険域の赤まで減らした敵だ。
「当たり前だが、ハナの魔物も成長するんだなぁ……たしか、ウサギも進化してるって言ってたし。見慣れない狼の魔物もいるとか」
「狼の魔物は、サッカーの時にいた」
「……そんな魔物いたかしら?」
「……覚えてないけど、アルクが言うならそうなんじゃないか?」
しばしの沈黙。その後、タケシが顔を上げる。
「まあ、何にせよ。ここから反撃といこう」
これまでは正直舐めていた。ハナがいるとは言え、敵は全てNPC。動きでは熟練プレイヤーが圧倒すると思っていた。
「ええ、ドラゴンは無理でも、乗ってるハナを一回ぐらい撃墜したいわね」
「それなら、私が一回やった」
「アルクやったのか!? 先に言えよ!」
「でも、倒しきれなかった」
「アナタでも急所を外すことがあるのね?」
「いや、こう、キュポンと……」
アルクがこめかみに刺さった矢を、手でキュポンと抜く真似をする。
「ああ、復活能力か。あったなそんなの」
ダンが納得した顔で言うが、タケシとメサリアは首をかしげる。
「……ハナは不死身なのか?」
「やっぱり魔物なの? ねえ魔物なの?」
ダンが能力を説明し、タケシとメサリアが「早く言え!!」と怒ったのは、言うまでもない。