魔王VS人類10
ふと、視界が開けた。
梯子を下りた先は半円状の広い部屋だった。かまぼこの中にいるみたいな感じ?……うん、例えミスった。急に兵器感がなくなったね。
部屋はほの白い、というか、電子的な光でうっすらと照らされているため、暗くて見えないとかはない。
というか……これ、どう見てもモニターだよね?
机があって、その上にモニター。そのセットがズラッと並んでいる。剣と魔法のファンタジー世界とは思えない光景だ。
モニターは砂嵐でもなく、真っ白な画面を映しているだけ。ちょっと不気味。
「ふむ、魔力を流せば何か起きるのだろうか」
師匠がそう言う。とは言っても、魔力を流すってどうやるんだ? なんでもいいから魔法を使えってことかな? ……変なことして壊すのが嫌だから試さないでおこう。
「ハナ様、まだ部屋があるみたいですが……」
姫ちゃんにそう言われて確認してみれば、半円状の部屋の四隅にそれぞれ一つずつ、計四つのドアがある。
え、自動ドアなんだけど……って思ったけど、確か魔王城の宝物庫も自動ドアだったような気がする。たぶんこの兵器を作った魔王様の発明の一つなんだろうね。
で、それから私はそれぞれの扉の先を確認した。
一つ目のドアは仮眠室や食堂などの生活スペースに繋がっていた。仮眠室は綺麗で普通に使えそう。だけど、食堂の方は装置が完全に壊れていて何も動いていない。まあ、必要ないからいいんだけど。
二つ目のドアは、ちょっと何と言えばいいのか分からないんだけど、エンジンルーム(?)とでも言おうか。ごちゃごちゃと謎の機械が複雑に組み合わさった部屋。いや、部屋というより空間だった。
恐らく01さんが修理したのはここだ。私には全く分からない、繊細な配置がされているのだろう。かくれんぼとかしたらいっぱいたのしそーだとおもいました。
三つ目のドアは兵器がある空間。どう見てもミサイルにしか見えないブツが六本収納されている。多分どっかのボタンを押すとか、敵を感知するとか、何かアクションがあれば天井が開いて、ブシュッとミサイルが発射されていくのだろう。
四つ目のドアは一番大事。メインコントロールルームとでも言おうか。大きなモニターがあって座るところがあって、お目当ての燃料をセットする装置もある。
と言うわけで、私たちは現在そのメインコントロールルームにいる。
「確か01さんの話だと……」
探すまでもなく、巨大モニターの真正面。明らかに提督とか司令官とか、そういった感じの人が座るべき椅子があるのでそこに腰を掛ける。
正面には扇状の机。そこにボタンが一つ。それから燃料をはめるための窪みが一つ。渋る理由もないので持っていた燃料をそこに押し込む。すると部屋全体が青白く光り始めた。ピピピという電子音と共に何かが起動。目の前の巨大モニターに外の様子が映し出された。これはアガる。
『ネルちゃん、ちょっと兵器の正面に来てくれる?』
私が念話をするとすぐに、モニターの画面上からネルちゃんがバサバサと降りて来る。画面中央に収まった。
『ハナさん! 見えてますか?』
『うん、バッチリ! ねえネルちゃん、そっちから見るとどんな感じ?』
『そうですね……青白い光が強くなったり弱くなったり、そんな感じで全体的に光っています!」
とりあえず起動は成功したってことだろうか。一安心。
『じゃあ、動かしてみるから、離れててね』
このボタンを押せばこの機動要塞君は活動を開始して、魔王城まで進軍を始めるだろう。修理した01さんご本人がそう言っていたから間違いない。
ところでさ……私たちはどうやって脱出すればいいんだろうか?
多分燃料切れまで、敵も味方も関係なくこの兵器は攻撃を続ける。と言うことは、ネルちゃんたちに回収してもらうことは出来ない。
元々そうなのか、01さんの技術のおかげなのか、この兵器は完全自動操縦なので私たちがここにいてもやることはないんだよね。できることと言ったら巨大モニターに映る人類軍を眺めたり、巻きまれた魔王軍に土下座をするくらいだろう。
どうしよう。この後はチーム分けして、魔王領地全体の防衛をしようと思っていたんだけど……ん? 待てよ。ここにいるのは私、師匠、姫ちゃんの、仲間の中では一番戦闘力がおとなしい組だ。だとすると、むしろこの状況は良い。この兵器にいる間は安全も確保されているし、私たち三人を除いたメンバーでチーム分けするのは全然アリだ。
えーっと……魔王城前は私たちと魔王軍で防衛するから良いとして、他の子たちはそれぞれどうしようか。
戦力的に考えると、ネルちゃんとジオさんをそれぞれのチームリーダとして、ゴブリンさんと狼さんをどう分けるか。いや、ネルちゃんは一人遊撃部隊として、他三人で一チーム?
…………いや、違うな。
私は完璧なチーム分けを思いついて、念話でみんなに伝える。
『これからみんなは魔王城に戻って、魔王領地を全体的に守って欲しいの。この兵器の活動が停止したら私が合図をだすから、それまでね』
この兵器の戦力はネルちゃんやジオさん以上にある……はず。魔王城の防衛としては十分だから、ネルちゃんたちがいると明らかに戦力過多だ。巻き込みも怖いし。
『チーム分けは、ネルちゃんとジオさん。それから、ゴブリンさんと狼さんね! よろしく!』
私は思いついた完璧なチーム分けを仲間に伝えた。
一見、ネルちゃんとジオさんをセットにするのは、それこそ戦力過多になる気もする。でも、多分めちゃくちゃ相性良いと思うんだよね。
ジオさんは強いけど、移動が弱い。まさか巨人化状態であちこち走り回るわけにもいかないし。
だから、ネルちゃんにジオさんが乗って移動を補助する。敵を見つけたらジオさんがネルちゃんから飛び降りて巨人化。ネルちゃんの援護もあれば負けるはずがない。大規模集団も精鋭集団も余裕だろう。
そして、ゴブリンさんチームはもっと小規模な戦闘をしてもらう。
狼さんの背中にゴブリンさんが乗ることで、同じく移動面の補助。この二人はネルちゃんたちのように、全てを薙ぎ払う戦い方はできない。痒い所に手が届くって感じの戦闘スタイルだ。だからネルちゃんたちと組ませると、その特徴が死んでしまう。
この二人はコソコソと奇襲をメインに立ち回ってもらって、孤立している敵や、潜伏している敵を狩ってもらう。
で、それらを乗り越えてきた猛者、あるいは幸運なプレイヤーには私たちがこの兵器で立ちはだかるというわけだ。我ながら完璧すぎる作戦。
不安があるとすれば、この兵器の実力がまだ確定してないことくらいだろうか。
絶対に強いとは思うんだけどね。まあポンコツだったらその時に考えよう。
ネルちゃんが十分に離れたことを念話で確認してから、私は目の前のボタンを押す。
再びピピピと起動音がして、モニターに映る景色が動き始める。思ったより揺れとか音とかはないみたいだね。
さあ、第二次大戦の開幕だー!ってね。
次回から人類軍視点の物語も挟んでいきます。