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魔物使いの少女  作者: つい
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魔王VS人類7

 ネルちゃんに乗って魔王城へ帰宅中、二回人類軍からの襲撃を受けた。


 襲撃と言っても、こちらの被害はゼロだ。戦闘にはならなかった。どういうことかと言うと、こっちがお返しに火球を一発二発撃つだけで敵がわーっと逃げていくのだ。襲撃と言うよりイタズラと言った方が適切かもしれない。


 そんなわけだから時間もそれほど取られずに魔王城へ到着。襲撃を受けた位置を考えるともうすでに魔王城へ到達している集団もいるかもしれないが、見たところではまだ平和。


「おうハナ。お疲れ」


 ギンもしっかりと門番業務をこなしている。いや、普段はサボっているというわけではないのだけれど、なんか日常過ぎて危機感が持てないというかね?


「まだ人間は来てないよね?」

「そうだな、今のところは。もっとも、真っ当に正面から来てくれるならって話だけどな」


 そういえばスポーツ大会の時、姿を消す忍者みたいなやつもいたわ。さらに言うと、私とダンはメサリアの魔法で透明になってたわ。確か浮遊魔法みたいなものもあるとメサリアは話していたし、そうなってくるともう入り口なんてないようなものだ。


 城下町に入ってデラさんと別れた。魔王軍部とでも言おうか、デラさんの主な活動拠点は魔王城とは別の建物にあるようだ。


 それから再び魔王様に報告。


 ゴブリンさんたちの所へ寄ってアイテムの補充と整理。


 英気を養うために休憩。完璧に確立された一連の流れ。


「ハナ様。おやすみ中の所申し訳ありません」

「ん? どうしたの姫ちゃん」


 私は粘土遊びの手を止めながら入室してきた姫ちゃんに意識を向ける。


「ついに敵軍が見え始めたと、先ほど連絡が入ったので。ハナ様にもお話しておこうと思って」

「おっけー! ありがとう姫ちゃん!」


 時間にして一時間弱ほどだろうか。


 ネルちゃんに声をかけて、飛ぶ。正確に言うと魔王城城下町の上を旋回する。普段ならデラさんあたりに怒られそうだが、今は有事だから仕方がない。正面の方を望遠鏡で確認すると、隠れる気もなく人類軍が侵攻してくるのが見える。


「……ん? あれって」



 その人類軍の上空に浮かぶ三つの影。


 それは翼の生えたトカゲのような、つまりはドラゴンであった。それは私が城主メンバ―並みに警戒していたプレイヤーの一人、彼がいるという証拠であった。


「ネルちゃん!」

「はい! 捕まっていてください!」


 獲物を見つけたネルちゃんが旋回を止めて、グインと加速する。


 望遠鏡など使わなくても見える距離へ。私たちとその三つの影は向かい合った。


 竜専用の金属鎧とサドルのようなものを付けた青い竜の上に、金属鎧で身を固めた一人のプレイヤーが跨っている。その青い竜の両隣には、これまた竜専用の金属鎧を付けた黄色の竜が滞空している。


 職業は竜騎士。最近有名になったばかりのプレイヤーで、調べても詳しい情報は分からなかった。だから分かるのはごく簡単なことだけだ。


 ところで話は変わるが、魔物を使役すること自体は魔物使いの特権ではない、というのは昔確認したことである。それなら魔物使いの何が良いのかと言われれば、他の職業とは違って『言語翻訳』があるので魔物とのコミュニケーションが取りやすく、使役がやりやすいという利点がある。


 さて、話を竜騎士に戻して。竜騎士はドラゴン系の魔物のみに『言語翻訳』が使える騎士、と言ったところだろうか。魔物使いと大きく違う点は二点。今言った、ドラゴン系の魔物特化であることと、ちゃんと本人が強いということだ。


 騎士という職業はレア職業の中でも割と出やすい職業だ。騎士の特徴は、速度を犠牲に戦士をよりパワーアップさせた感じ。イメージで言うとタケシとダンを足して二で割った的な? 


 んで、竜『騎士』なので本人は騎士ということになる。どこぞのまさかり担いだ金髪もやしと違ってしっかり戦闘ができてしまう。は? 誰がもやしだコラ。


「あんな下級の竜には負けません!」


 熊も真っ青になって逃げだす獰猛な笑みを浮かべながら、ネルちゃんは火球を二つ発射する。


 うんうん。確かに、相手の跨る青い竜はネルちゃんの半分ないくらいの大きさだ。その取り巻きの二匹の黄色い竜は、青い竜の一回りは小さい。しかし、油断は禁物だ。三本の矢を説いたのは、さて誰だったか。出所が分からない時はとりあえずシェイクスピア曰くと言っておけば多分間違いない。


 有名な話だ。一本の矢なら簡単に折れてしまうが、三本まとまればなかなか折れない。特に戦闘は数だし、ばっちり連携でも決められたなら危うい可能性だってある。


「いい? ネルちゃん。一本の矢では簡単に折れても、三本合わされば……」

「取り巻き二匹はやりました! あとは真ん中のやつだけです!」

「うん、流石だねぇ……」


 矢が三本合わされば、矢が三本折れる。折れにくいなら折れる力で折ればいいんだよね。筋肉は裏切らないとシェイクスピアが遺したことはあまりに有名だ。


 一人残された哀れな青い竜。すれ違いざまネルちゃんにガブリとやられて地上へ落ちて行った。この高さでは背中の騎士だって生き残れないだろう。


 思いのほかあっさりと勝利してしまった。つくづくネルちゃんの強さというのは規格外であるのだなあと。


 さてさて、こうして制空権は得たわけだが、敵さんたちは引く気もないみたい。先ほどの大規模戦闘に比べたら敵の総人数は十分の一ほどしかいないのだけど、その装備は見るからに豪華だ。現実なら豪華=強いとは限らないのだが、このゲームにおいては割とその法則は当てはまる。


 私のやることは変わらない。既に城下町からは魔王軍がぞろぞろと出てきている。メインの戦闘はそちらに任せて、ネルちゃんで上空からちょっかいをかける。ジオさんは先ほどの戦闘での消耗が激しいので待機だが、問題はないだろう。


 なんたってここは魔王様のお膝元。最終防衛ライン。生半可な攻めで落ちるような場所ではない。


 三本だろうが百本だろうが、まとめてボキと折ってしまう力が揃ってる。さあ、かかってこい人間ども!



 次の瞬間、地上に百どころではない無数の魔法陣が展開される。メサリアの仕業だね。


 ネルちゃんが爪を振って、私の脳天めがけて飛んできた一本の矢を弾く。アルクの挨拶だね。


 ドラゴンよりも、巨人よりも大きな雄たけびが響き、魔物たちが一人の男に吸い寄せられていく。ダンも元気だね。


 豪華な装備の中に、目に優しい普通のプレイヤーを見つけた。タケシは頑張って?


 めでたく全員集合。これは天下終了のお知らせかもしれん。



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