表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔物使いの少女  作者: つい
121/129

魔王VS人類6

 ダンジョン出口と魔王城を直線で結んだ、その丁度真ん中くらいの位置。そこにその集団はいた。


 きらびやかな装備に身を包んだ人類軍と、お揃いの一般的な装備に身を包んだ魔王軍。何も遮蔽のない荒野で真正面からぶつかり合い。まるで戦国時代の合戦とでも言おうか。まあ、戦国時代の合戦なんて見たことないけどね。


 しかしこれだけ開けた土地というのは非常に好都合だ。ネルちゃんにとってもジオさんにとっても。これなら最大火力の最大効力を発揮できる。


「作戦は……アレで!」

「アレですね!」

「アレって、どれですか?」


 どれって、アレに決まってるよね!




 私たちは飛び続けた、魔王軍の頭上を越えて人類軍の頭上を越えて、当然下から魔法や矢が飛んでくるけどお構いなし。しかし、この感じ、アルクもメサリアさんもいないっぽいね。


 そうして人類軍の後ろ側、つまりダンジョン入り口側まで到達したところでジオさんがネルちゃんの背から飛び降りる。


 ジオさんは空中で指を噛み……っと、じゃなくて普通に省エネモード解除で巨人化。


「おお……」


 デカァァァいッ!説明不要ッ! いやほんとに。説明不要というか説明不能が正しい。何メートルとか見当もつかんわ。魔王城くらいはあるんじゃないですかね知らないけど。


『おーい、ジオさーん?』

『…………』


 返事がない。つまりこれが能力完全開放状態ってことか。良かった、これでまだ力を出し切ってないとかだったらどうしようかと。


 早速ジオさんは右足を適当に振りかぶり、適当に振り抜く。それだけで相当の敵が吹き飛ぶ。


 前門の魔物後門の巨人、ついでに上空の竜。これがバミューダトライアングルちゃんですか……。


 ジオさんが手足を振り下ろして、魔王軍が時は来たれりと攻勢の手を強める。


 こんなところいられるか!俺は帰るぞと背を向けた愚かな人間には空から火球が飛んでくる。当然だよね。


 人類軍が全滅するまで、さほど時間はかからなかった。多分だけど、ここにメサリアとアルクがいても勝てただろう。そう思うくらいには、ジオさんの力は圧倒的だった。


 しばらくして、ジオさんの巨人化が解けた。魔王軍から勝利の歓声があがる。


 これで二勝。


 別に三本先取とかではないけれど、むしろだんだん勝てなくなるんだから当たり前なんだけれど、でも嬉しい。


 今回はホントに大勝利だ。ポーション壊してやったぜぇ?とか、唯一の出口でちょっかいかけるぜぇ?とか、そんなみみっちい戦果ではなく大変ワイルドなことをやってやった。


 今頃タケシとメサリアあたりが頭を抱えていると思うと愉快だ。非常に。


 っと、こうしている間にも、魔王城に危機が迫っているかもしれない。勝利の余韻に浸るのはそれを覚えている限りいつでもできる。今は魔王城へ戻ることを優先するとしよう。


 ジオさんを回収して、さて飛び立とうとしたところで知ってる顔を発見。


「デラさん!」

「……チッ! 別にお前の助けなどなくても、あのままやっていれば勝っていたからな!」


 怒られた。確かにデラさんもジオさんの派手さに霞んでいたけど、とんでもない数の人類軍を吹き飛ばしていた。それを私はネルちゃんの上から確認している。


「それはごめんなさい……って、そうだ! デラさんもネルちゃん乗って魔王城戻らない?」


 戦力は多い方がいいに決まってる。この場の全員を乗せるのは不可能だ。すると必然、一番力のある者を乗せるべきだ。


「は? お前なぁ……こいつらを置いて行くわけにはいかねぇだろうが」


 デラさんは私の誘いをそう言って突っぱねた。ところが、魔王軍の面々はいいからさっさと乗って帰ってくださいよと口々に声を上げ、デラさんの肩を押して無理やりネルちゃんに乗って帰るよう勧めた。


「ハナさん」


 そう言って門番ギンの弟、ゲンが私のもとへとやって来る。


 おお、無事で良かった。デラさんは遠目に見ても目立つ。でもゲンは装備も一般的なやつだし、ゲンと同じ種族の魔物がいっぱいいるしで全然見つけられなかったのだ。ゲンが生きていたことを伝えればギンも喜ぶだろう。


「魔王城を、魔王様をよろしくお願いします」

「任せて!」


 私が何をするまでもなく魔王様は強いし、そんな魔王様が勝てない相手には私だって絶対勝てない。だって私自身に戦闘能力は皆無だし。


 それでも、助太刀すると決めた。そのためにはゲンの言う通り、いらぬお節介だろうとなんだろうと、よろしくやってやるつもりだ。だからここで、死にゆくはずの魔王軍を助け、デラさんを高速帰宅させる。例え怒られようとも。


「では、飛びますよ!」


 ネルちゃんのその一声でワラワラと集まっていた魔王軍が離れ、ネルちゃんが飛び立つためにばっさばっさと力強く羽ばたき始める。


「……ハナ、助けてくれてありがとな」


 あれ? 何かデラさんが言った気がするけど、よく聞き取れなかった。


「デラさん、今なぬっ……ッたい!」


 ネルちゃんがちょうど地面を蹴ったタイミングでしゃべったもんだから、舌噛んだ! タイミング悪い!


「ごめんなさい、ハナさん!」

「んあ、だいよーう。ひゃふはーわはひがわういあら」


 なんか今回ネルちゃんが私に謝ること多いな。私という風船を常に乗せて飛ぶネルちゃんの飛行技術は、シャボン玉も割れないくらい繊細だ。是非自信を持っていただきたい。まあ、それはそれとして。さっきタイミング悪いとか言ったけどある意味良い。私史上一番強めに舌噛んだな……うおお、マジでいっっってぇぇ! うおうお……うおうお。


 ……ふうやっと痛みが引いた。さて、着実に前線は近くなっている。次はここよりもさらに魔王城に近い場所で、あるいは魔王城が戦場になる可能性も十分にある。


 私たちの抵抗が終わるその時も、決して遠い話ではない。せめて悔いだけは残さないようにしたいね。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ