魔王VS人類4
爆発の起きる荒野を駆ける。まるで映画のワンシーンだ。かっこいい。ただし、それは安全な席に座ってポップコーンを片手に観る場合であって、実際に自分が体験するとなると話は変わって来る。怖すぎるだろ監督正気か?
「ふむ、よほどのことがないと当たらない気がするが……」
師匠それフラグね。当たらないっていうと当たるから!
「おいおい、こっちも向こうも走ってんだぜ? 当たるわけがねぇだろ!」
おい馬鹿やめろ。フラグをオリハルコン製にするな。
刹那、私たちのすぐ後ろで爆発が起きる。爆風に吹き飛ばされて、空中に投げ出された私たちは地面に落下して止まる。おお、HPがまっずい。ギリ耐えたけど、もうデコピンで死ねる。
敵は三人だった。三人とも馬のような生物に乗っている。三人が私たちに近づいてくる。装備から察するに、一番前にいるのが魔法系、後ろ二人が戦士系だろう。
「まずいな、戦うしかないだろう」
ここで背を向けて狼さんに跨ったところで、絶対に逃げられない。師匠の言う通り戦うしかないんだけど……勝てるかなぁ。
MPの自然回復はめちゃ遅いので、ジオさんやネルちゃんを呼び出すにはMPが足りない。こんなことになるなら狼さんに跨る前にMPポーション飲んでおけばよかった。今からストレージを操作して、ポーション出して、ごくりと一杯なんてやってる余裕はない。それに敵も、飲んで飲んでと陽気に一気コールをしてくれるわけがないだろう。
一応、既に装備のワンピースにMPはつぎ込んでいるから、一回復活はできる。ただし、明らか敵さんたちは一日一回限定の一撃必殺で戦う、みたいなタイプではない。仮にそのタイプであったとしても三人いるから、私の復活はどのみち意味をなさない。
とりあえずネルちゃんには報告しておく。『すぐ行きます!』と心強い返事をもらった。ネルちゃんが全力飛行すれば五分ほどで私たちの場所へ着くだろう。問題は五分も耐えられるかということにあるんだけど。
「来るぞ」
後方にいた戦士二人が突っ込んできて、魔法使いが呪文の詠唱を始める。
かろうじて狼さんにもう一度飛び乗って、戦士の猛追と魔法使いさんの火魔法をかわした。
敵が使ってくるのは最下級の火魔法だ。私にはそれで十分だと、しっかり情報共有がされている。さっきの爆発の方が困るから逆にありがたいけど、あんまりちょろちょろ避けているようなら敵もめんどくさがって、火魔法から爆発魔法に切り替えてくるだろう。
だから、頼んだよ師匠!
師匠は向かってくる戦士たちに堂々と真正面から突っ込んで、すれ違った。
敵魔法使いの場所まで移動した師匠は角に電気を帯電させて、突進&電流攻撃。魔法使いさんの乗っていた馬らしき生物が甲高い鳴き声を上げて動かなくなる。魔物というより動物って感じだろうか。違いは分からないけど、この生物自体に戦闘力はほぼない気がする。
さて、敵さんはやはりよく情報共有がされている。私は狼さんに飛び乗って、師匠は堂々と戦士二人の間を走り抜けていった。戦士二人は師匠に目もくれることなく完全スルー。なぜなら師匠に戦闘能力は皆無で、無視しても問題ない存在だからだ。
今までの師匠ならという話だが。
魔法使いさんは何が起きたのか分からず、馬が倒れるその流れに身を任せ、地面に激しく尻もちをついた。戦士二人は私から完全に目を離して、何が起きたのか分からないと言った様子で師匠を振り返った。
「チャンス! 狼さん!」
「分かってる!」
狼さんはすぐさま一転攻勢。手始めに右手側にいる戦士の馬の首に噛みつき、そのまま噛み千切る。慌てて武器を構えた戦士さんだったが、やはり魔法使いさんと同じように突然のことに対応できず、激しく尻もちをついた。
魔法使いさんは近くを動き回る師匠の相手に必死で、私に魔法を撃つ余裕はない。師匠には無視できない火力がある。そう判断されたようだ。
ってなると、こっちはこっちでやればいい。
私は地面からスケルトンを呼び出して、ストレージから虫型ゴーレムを呼び出して、MPポーションを取り出した。
ごくごく飲み始めるが、戦士は突っ込んでこないし、魔法も飛んでこない。
「アビちゃんアブくんは師匠の援護で……軍曹は私の援護っと」
ゴーレムに指示を出して、戦闘開始。
ゴーレムたちがカサカサワシャワシャとそれぞれの敵に近づいていく。スケルトンたちもカタカタカラカラと近場にいる戦士二人に近づいていく。
五分後、私と師匠と狼さんはネルちゃんに乗っていた。
「凄いです! ハナさん凄いです!」
ネルちゃんはずっとこれだ。もっと褒めて? 凄く気持ちがいい。
結局、私たちはネルちゃんが登場する前に敵を倒し切った。復活能力こそ使わなかったけど、ゴーレムスケルトンの全力投球。まあ、既にバレている情報だからいいんだけどさ。
「にしても、師匠の活躍は凄かったね!」
「ふむ、大したことはしていない」
「いやいや! 師匠いなかったら絶対勝てなかったよ!」
師匠がいなければ敵魔法使いさんが安全位置から爆発でどかん。爆破オチで私たちの物語が終わるところだった。爆破オチは最近やったばかりだからね、できれば避けたい。
「俺のおかげもあるけどな」
「……え? 何? 褒められたいの?」
「は? 事実だろ?」
「嘘だよ……まあ、ありがとう。確かに、まあ、狼さんもいなきゃね、勝てなかったよ」
「ん、おう、まあ。べつ、いいぜ。ああ」
「どうした、二人してもじもじして」
まあ認めざるを得ない。素直に認めるのは癪だけど、事実だ。
「んなことよりも! あの山、突破されんのまずいんじゃねえのか?」
狼さんがそう言いだした。自分で切り出した話題を自分で変えてる。変なの。
「俺ら呼ぶより、あの巨人とかイカれ緑呼んだ方がいいだろ」
まあ、それも考えたんだけどね。あ、ちなみにイカれ緑とはゴブリンさんのことだ。当然だよね。
「ジオさんはちょっとね、全力出せないかなって思ってさ」
ジオさんの特性をおさらいしておくと『力を解放すればするほど理性を失い、最後には敵が消えるまで決して戦闘行為をやめない』という特性がある。
あの場では相性が悪かった。なぜなら、人類軍はダンジョン内に潜って、中から攻撃すれば安全かつ一方的にジオさんを攻撃できてしまう。
ジオさんは理性を失っている間は、私の言うことも聞かなくなる。使役魔物の設定から強めの支配に設定してもダメだ。一切合切の指示を聞かなくなってしまう。
この二つが合わさるとどうなるか? 結果は以下の通りになる。
あの場でジオさんを呼んで力を解放したならば、ひたすら壊れない壁を殴り続けるジオさんと、それを安全圏から魔法やらなんやらでチクチク削る卑劣な人類軍という構図が出来上がる。
そんなのあんまりだ。
「ゴブリンさんを呼ばなかった理由は、研究が忙しそうだからだね」
「ああ、イカれ仲間となんかやってたな」
邪魔しちゃ悪いだろう。あ、ちなみにイカれ仲間とは01さんのことだ。当然だよね。
あともう一つ。ゴブリンさんを呼ばなかった理由としては、語弊を招く言い方かもしれないが、場をひっくり返す力はないと思ったから、というのもある。いや、ゴブリンさんは強いよ? でも、全部ひっくり返すような力はない。だからあの場に呼ぶにはちょっと荷が重すぎた。
「魔王城、見えてきましたよ!」
ネルちゃんの快適な空の旅は一旦終了。それと同時に人類軍との初戦も終了。
初戦の結果はやったね魔王軍大勝利と言っていいだろう。城主、あるいはそれに準ずる強力なプレイヤーこそ倒せはしなかったが、やりたい放題暴れて生還までできた。これを十分と言わずなんという!
さてさて、次に備えて少し休憩を取ろうかね。なんたって次もまた動き回るからね。
私は大きく伸びをして、次の作戦に備えた。