魔王VS人類3
現状を生き残るには、私の安全が確保されればいい。
ネルちゃんは私が乗っている以上、どうしても動きが制限されている。逆に言えば、私がどうにかしてネルちゃんから降りればネルちゃんは制限がなくなり、どうとでも逃げられるはずだ。
まあね? 私にとってデスペナなんてないようなもんだからさ、今すぐグッバイと宣言してフライハイでもいいんだけどね? でも、そんなことをしてしまえば絶対にネルちゃんが私を許さないだろうから却下だ。愛されていて嬉しいね。
つまり、私がどうにかネルちゃんから降りて、安全に魔王城まで帰れる作戦を立てればおk。
幸い、ネルちゃんから無傷で飛び降りる方法に関してはちょっと秘策がある。装備の復活能力を使わない、もっと安全に降りられる秘策だ。問題は降りた後、私のクソ遅い足をどうするか。そこさえどうにかできれば勝ち。
普通に徒歩移動したんじゃこの、ダンに勝るとも劣らない黄金の両脚が火を噴くことになる。もちろんオーバーヒート的な意味で。
そこで私が考えた作戦はこうだ。師匠と狼さんを『招集』で呼び出して、帰る。
さっそく私は詳しい作戦をネルちゃんに伝えた。
「分かりました! では、私が攻撃で隙を作るのでその間に!」
ネルちゃんに少しだけ高度を落としてもらって、メサリアのいるところへ全力の火炎ブレス。当然メサリアは魔法で障壁を生み出して防いでしまう。しかし、ブレスと障壁がぶつかり合う余波で、その他のちゃちな魔法攻撃は消滅。アルクの攻撃すらも止まっている。メサリア自身も防御に必死で攻撃の余裕はない。
私は一つのアイテムを実体化させて、それを握りしめながらネルちゃんの背から飛び降りる。いくらゲームの中とはいえ、ちょっと怖い。ただ、ネルちゃんの全力ブレスもずっと続くわけではないので、ためらっている暇はない。
自分の体が落下する恐怖を感じて、私はさっそく手に持ったアイテムを使う。そのアイテムは、ゴブリンさんが北城で作ってくれた物だった。詳しい製作過程は省くけど、進化した師匠の毛玉に姫ちゃんの念力を合わせた、錬金アイテムという、店やモンスタードロップでは手に入らない特殊なものらしい。
名前は『月の綿毛』とかいうオシャかわいい名前で、その効果は使用すると使用者の足が地面に着くまで落下がゆっくりになって、落下ダメージを受けないというものだ。
私はネルちゃんのから飛び降りて、『月の綿毛』を使用した。これタイミングが難しい。ちょっと早く使いすぎたかも。
まだ地面まで距離があるうちから私の落下速度がゆっくりになる。
ところで、今の私を完璧に言い表す言葉を知ってるかい? え、知らない? そっか、じゃあ教えてあげよう!
その言葉は何か、それは、『いい的』だ。はわわのあわわ……。
空から女の子がふわりと落ちてくる。この字面だけ見ればとってもロマンチックな、あるいはドタバタラブコメの導入って感じがする。ところがぎっちょん、この物語においては、ここから始まる展開はバイオレンスでハードボイルドな展開だ。
人類軍からしたら空から諸悪の根源(一撃当てれば死ぬ雑魚)がふわりと落ちてくる。狙わない理由ドコ? って感じだ。容赦なく狙うのは当然。誰だってそうする私だってそうする。
というわけで! 突如開催された、チキチキ、的当てゲ~ム! 優勝者には~? 私の命をプレゼント~! ……いい感じの導入から、どうしてこんな絶望的な展開になるのか。こんなの絶対おかしいよ……。
地面までの距離はまだある。ネルちゃんとメサリアのせめぎ合いも終わって、無数の魔法が私に飛んでくる。もう死ぬしかないじゃないと絶望しかけたけど、ネルちゃんがその身を犠牲にしつつ私のことを守ってくれた。本当にありがとうネルちゃん大好き愛してる。
さて、一波乱ありはしたけど何とか地面に到着。そしたら私はすぐさまスキル『招集』を使用して師匠と、狼さんを呼び出す。
とにかく切羽詰まった状況なので無駄話は無し。師匠が狼さんに素早さの上昇のバフをかけて、私と師匠は狼さんの背中にしがみつく。
狼さんのサイズ感としては大きなバイクって感じだろうか。大型バスみたいに大きいネルちゃんに比べると余裕はないけど、私と師匠が乗るには十分だ。
『ネルちゃん、大丈夫そう?』
『はい! もう少し敵を削ったらお城に戻りますね!』
わお……私がいなくなったことでアルクとメサリアの攻撃をよけるどころか、ちょいちょい反撃をする余裕まで生まれたらしい。流石ネルちゃん。
「あ、そうそう師匠。師匠の毛を使ったアイテム、凄く役に立ったよ!」
「そうか。それならよかった。姫雪にも言ってやれば喜ぶだろう」
そうだね。というかネルちゃんに乗るときはこのアイテム必須かもしれない。ゴブリンさんはまだ在庫あるって言ってたから、魔王城に着いたら受け取ろう。
「ったく、早速こき使いやがって……」
狼さんはぶつくさ文句を言いながらも、走っている。まあ、私だって不本意なんだ。
狼さんと使役魔物の契約をしたのは。
お互いに不本意だけど、状況が状況だ。契約すれば能力アップ、加えて死んでもリスポーン、おまけに『招集』スキルでどこでも自由自在。契約をしないという選択はなかった。唯一、この選択を邪魔するプライドとかいう、一番いらない生ゴミはその辺の狼にでも食わせておけばいい。それぐらい今回の戦いは重要なのだから。
「まあまあ、ちゃんと戦いが終わったら契約消すからさ」
「絶対だぞ? じゃねぇと一日三回朝昼晩、お前を噛み殺す」
「は? 受けて立つが?」
「は? よくそんな口が利けるな?」
覚悟しろよ? 吐いた唾は飲めんぞコラ!
「仲が良いのか悪いのか」
「悪いでしょ!」
師匠の耳は飾りかい? どこに仲良し要素あった?
「それより、魔王様に報告をした方がいいのではないか?」
え? ああ、ここを突破されたことをね。多分何かしらの手段で、既に魔王様には伝わっている気がするけど、現場の声を届けるのが一番確実か。
私はいつぞやの連絡用の変な石、通称スマホ石を取り出して魔王様へ報告をする。
『そうか、無事に帰ってこれそうなら何よりだ。引き続き安全に注意して帰還してくれ』
『はーい』
魔王様との通信が終わった直後に、ネルちゃんからも念話が入る。
『ハナさん! いい感じに敵も削れたので、私もゆっくり帰りますね』
うんうん、ネルちゃんも順調で良きかな。
狼さんの背に乗って、荒野を駆ける。
さーて、戦いはまだ始まったばかり。私たちの冒険はこれからだ!
直後、右前方で爆発が起きる。ハハハ、自然現象で爆発が起きるなんて、珍しいこともあるもんだなハハハ。
爆発は断続的に起きて、その度私たちに近づいてきている。
……誰か追っかけてきてるねこれ。……ハナ先生の次回作にご期待ください。