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魔物使いの少女  作者: つい
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魔王VS人類

 魔王VS人類が始まったのは、私が魔王城に到着した二日後だった。


 その間、私たちは各々ができることをして戦いに備えた。私も私にできることを、つまり、リアル世界に戻り、インターネットで魔王攻略の情報を集めた。……卑怯とは言うまいな? ハチャメチャ不利なんだからこれくらいお天道様も許してくれるさ。


 結果、重要情報がたくさん集まった。人類の皆さん警戒心低すぎでは? 決行日から主要メンバーまで丸わかりだ。……まあ、どんだけ情報を得たところで人類の優位は変わらないんだけどね。


 ところで、調べていると少し面白い感じになっていることが分かった。どうやら盗賊とか暗殺者とかのアングラ系職業の人たちが、魔王軍に攻め入ろうとしている人類軍を襲うかもしれない、という噂があるのだ。


 彼らはプレイヤーキルをすることで様々なボーナスがつく。魔王攻略に参加するようなプレイヤーは大体高レベルだったり、いい装備を持っている。そんな宝石箱みたいな人たちが大集結。集まる日はもちろん、目的地も通る道筋も分かっているのだ。こんなにおいしい話はない。


 ネット上では有名なアングラ系職業のプレイヤーが顔写真付きで出回り、注意が呼びかけられていた。ちょっとしたお祭りだね。


 ちな私の写真もしっかりあった。私は襲うかもしれないとかいう噂じゃなくて、ばっちりと魔王軍に味方をする敵として書かれていた。


 まあタケシたちにはっきり宣言したからね。当然と言えば当然なんだけど、よりハナ=魔物説が加速しているのはどうしてだい? ついには運営がこの日のためにずっとずっと準備していた、超特別なイベントモンスターなんて書き込みまで見つけてしまった。なんだお前。食っちまうぞガオー。


 もちろんアルクを含む城主メンバーは全員参加。他にも城主じゃないけど強いレア職業の人達も軒並み参加。ちょっとしたどころか、ほんとにお祭りだ。この人らみんなを血祭りにあげられるのか、不安でしょうがない。


 さて、ゲーム内に戻ってきて。今日はついに魔王攻略一日目。一つのフレンドメッセージが届く。


 私のフレンドはアルクしかいない。タケシたちとは仲良くなったけど、なんやかんやでフレンドコードの交換はしなかった。だからこのメッセージはアルクから来たものだと分かる。


 今日行く


 短くそれだけ書かれていた。あのさ、家遊び行くみたいなノリで書かんでくれるかな? 


 私も短く「待ってる!」とだけ返事して、メッセージを閉じた。


「人類軍の侵攻が開始されたな。多くの人間が侵入しているのが分かるぞ」


 私がメッセージを閉じると同時に、魔王様が呟く。どうやら人類領と魔王領を分断するあのダンジョンに人類が侵入すると、それが伝わるようになっているらしい。


 私がネットで手に入れた情報によると、人類軍はまずダンジョン内の魔物を片っ端から狩り尽くす。そして、数が減ったところで待機組ともどもダンジョンを最短ルートで一気に突破。内部構造は既に事前調査で済んでおり、ネット上にはマップのスクショも貼られていた。


 よーし、じゃあ早速、ご挨拶に行きますかね!


「ハナ、気を付けて行くんだぞ?」

「うん、行ってきます!」


 私はネルちゃんを呼んでダンジョンの出口、つまり人間たちが出てくるところへ向かい、上空で待機。


 人間が一番油断するのは勝負に勝った時らしい。ダンジョンの攻略が終わったその瞬間、あいさつ代わりにネルちゃんの一撃を叩きこむ。倒せなくも別にいい。消耗させることができれば万事オッケーだ。なぜなら、一度こちら側の領域に来てしまえば、回復アイテムなどを追加で入手することは出来ない。一度人類側に戻らないと補給ができないのだ。


 さてさて、着いたけど……まだ流石に抜けてきてはないか。まあ、中の魔物を掃討してからだろうし、もう少しかかるのかな。


「……ネルちゃん、ちょっと向こう側見てみない?」


 そう言いながら、私は人類がいるであろう方向を指示する。


「危険じゃないですか?」

「見るだけ! 見るだけだから!」


 分かる。調子乗るは破滅と同義! でも、具体的な規模感みたいなものは、実際に見てみないと分からない。


「たしかに、敵がどの程度か、確認は大事ですね……分かりました!」


 なるべく高い位置をキープして、ネルちゃんで山を越える。私はこの日のために用意した望遠鏡を取り出して、遠い地面を見てみる。


 うん? なんか戦闘が起きてるぞ?


 どうやら人類軍が仲間割れを起こしているようだ。ダンジョン前の石畳の広場にはテントやアイテムボックスなどが置かれており、あれが人類の補給拠点であるとこが分かる。中にはきっと大量のポーションやら何やらが置かれているのだろう。


 いや、もしかしてあれが噂のアングラ系の人たちか? ……多分そうだな。顔は正直よく見えないけど、アイコンが犯罪者を示す色をしている。


 きっと戦力のある人間は今魔物の掃討へ向かってしまい、残っているのは回復係とか荷物運搬係の非戦闘員なんだろう。盗賊からしたらもう、大好物しかない絶品フルコースだ。


 あれ? もしかしてチャンスか?


 一応、最低限の護衛はいるみたいだけど、それは盗賊たちの対応でてんやわんやしてる。上空にいるネルちゃんに攻撃する余裕のあるものはいないだろう。いたとしても、生半可な攻撃ではネルちゃんに効かない。


 見るだけ? 馬鹿言うな! 調子乗る=破滅? 知るか! 今やるしかねぇぞこれ!


 私はネルちゃんに指示をして、火球の届くギリギリの射程まで降下。多分アイテムボックスとかは普通のやつだし、ネルちゃんの攻撃なら当たれば壊れるはずだ。


「人間は無視! 地面にあるオブジェクトだけ狙って!」

「はい!」


 吐き出された火球は狙い通りアイテムボックスなどに当たり、壊れたそれらからは色とりどりのアイテムが飛び散る。それを目ざとく見つけた盗賊たちは戦闘の合間にさりげなく拾い始める。


 結果的に盗賊を助ける形にはなったが、別に私たちは盗賊の味方ではない。よって、盗賊さんたちが散らばったアイテムを回収するまで待つ意味もなし。ネルちゃんにはさらに高度を落としてもらって、火炎ブレスで一気に焼き払いアイテム破壊。これは人類軍にとってだいぶ痛手なのではなかろうか?


 あらかた破壊完了。さてさて、そしたら……撤収だ!


 さっき火球を放った高度くらいまで戻ったところで、ネルちゃんはアクロバティックな動きを交えながらさらに高度を取っていく。別にテンションが上がっているわけではない。そろそろ、目を付けられると思ったら案の定だ。


 ネルちゃんは今、必死に矢を躱している。言うまでもないけどアルクのやつね。


 もしあの場で人間の攻撃に移っていたらアルクの攻撃が間に合い、最悪の場合ネルちゃんが撃墜されたり、私の頭が撃ち抜かれたりしていただろう。ほんとに危険がアブナイ。


 アルクは最も警戒すべき相手に違いないけど、私たちは今回神出鬼没だ。アルクだって全方位を警戒できるわけじゃないから、欲張らなければ十分に強襲してから撤退する余裕がある。


「逃げきれました! ……ちょっと食らっちゃいましたけど」


 死ななきゃ勝ち! 当ててくるアルクがおかしいんだよほんと……。


 とりあえず、ファーストコンタクトはやったねハナちゃん大勝利!


 よし、それじゃあ一度魔王領側のダンジョン出口に移動して、本来の目的であった、抜けている人類がいないかの確認をしようかな。


 さあ、アルク! 今回は私も頑張るよ?


 

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