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魔物使いの少女  作者: つい
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魔王城到着と準備

 ネルちゃんの背に乗って、私は魔王城へと向かう。どこでもなドアは向こうから繋いでくれないと使えないからね。それに魔王軍の雰囲気もピリピリしてるだろうし、変なことしないで正面から行った方がいいだろう。


 それから一つ確認しておきたいことがある。なんて言えばいいんだ? アルクの説明してくれた前ダンジョンって言えばいいのかな? 魔王城へ行く前にプレイヤーが通るであろう、ダンジョンを確認したい。


 ネルちゃんに乗って魔王城へ行くときはいつもぼーっとしてるけど、今日は注意深く周りを観察する。すると、ある大きな山を越えるとそこから魔王軍のテリトリーに入るということが分かった。


「ちょっとネルちゃん、一回下降りてみようか」

 

 ネルちゃんにお願いして、その山の、人間側のふもとへと降りると、分かりやすいくらい大きな入り口を見つける。ネルちゃんでも問題なく入れそうな、巨大な裂け目だった。入り口の前は石畳の広場のようになっていて、朽ちた石柱が倒れたり、謎の魔物の石像があったりといかにもな感じがする。打ち捨てられた神殿的な?


 その山を越えて、魔王軍テリトリー側のふもとへ降りると、やはり大きな入り口がぽっかりと口を開けている。さっきの入り口から中を進んでこっちへ抜けてくることによって、ようやく魔王城、というか魔王軍テリトリーへ侵入することができるのだろう。


 周辺を飛んでみたが、出入口っぽいのはここだけで、他の部分は完全に山で人間側と魔王側で分断されていた。


 できることなら裂け目の中に入って確認をしたいところだけど、入ったところで普通に中にいる魔物たちに攻撃されて終わりだろう。貴重な戦力を私たちで削るわけにはいかない。


「おっけー! ありがとうネルちゃん!」


 確認を終えた私はネルちゃんに再び魔王城を目指してもらう。


 さて、どうやって防衛するかな。まずネルちゃんとジオさんはこのダンジョンに配置しない方がいいだろう。入り口になっている裂け目は大きいから、入れることは入れるだろうけど……中もそうとは限らない。


 ギン、ゲンと通ったあの鬱蒼とした森を思い出す。道を間違えると入り口に戻されるという、簡単には突破できない仕掛けがあった。魔王城なんて最難関で最重要な建物なのだから、唯一人類テリトリーと繋がるこのダンジョンは、いわば戦争の最前線だ。簡単には突破できない仕掛けや構造があるはずだ。すると、下手に手を加えない方がいいのかね。


 てかそもそも、魔王様は私の援軍を受け入れてくれるんだろうか? という問題もある。私の予想では多分断られる気がする。でもまあ、んなことは知ったこっちゃない。断られたら断られたで、勝手にこっちでやってやる。


 私は結構覚悟を決めてきたのだ。今回はイベントじゃないから普通にプレイヤーキルをすることになるのだ。色々調べたところ、このゲームはプレイヤーキル推奨ではないが、禁止もしていない。レア職業に盗賊とか暗殺者とかあるみたいだしね。殺したその場面が他プレイヤーの視界に映っていると、私は犯罪者になり、町への入場制限やお店の利用に制限がかかるとのことだ。


 まあ簡単に言うと、ばれなきゃ犯罪じゃない。ばれても私の場合は問題ない。


 ここからは関係のない話だけど、抜け穴はあるようで、詐欺師というレア職業の人の助けを借りたり、『言いくるめ』というスキルを使用したり、門番に賄賂を渡したりで意外とどうとでもなるようだ。アングラ系職業の人がみんなで固まってよろしくやっている、独自のコミュニティーも調べたらあったりして、新しい世界を知れて面白かった。


 犯罪者になってもしばらく何も悪い事しなければ時間経過で元に戻るし、どんなに殺しても一生付き合っていくような制裁をゲーム側から加えられることはない。まあ、プレイヤー間での評判はクソほど悪くなるだろうけど、それこそ、本当に知ったこっちゃない。私にとってはノーリスクと変わらん。


 そんなこんな思っていると魔王城が見えてきたので、ネルちゃんを降りて歩きで向かう。すっかり顔なじみだから、行けるとこまで飛んで近づいていも撃ち落されたりはしないと思うけど、一応ね。


 歩くこと数分。魔王城城下町が見えてくる。うん、今日もギンがしっかり門番をしているね。


「おう、ハナ! 久しぶりだな。あの時はホントありがとな」


 そっかお殿様の件以来、ギンとは会っていなかったね。


「ゲンはどう? 元気?」

「ああ、アイツはまあ、元気だよ。最近は人間の動きが怪しいってことで、デラーク様が張り切ってるみたいでな。毎晩毎晩ひいひい言いながら帰って来るぜ」


 あらら、そりゃ大変だ。まあ有事に備えて仕方のない事ではあるんだけど。


「最近は魔王城は全体的に騒がしいぜ。いよいよ人間との戦争が始まるってバタバタしてる」

「門前払いされるかなぁ……」

「いやぁ? ハナなら大丈夫じゃねぇか? 魔王様も気にかけてるなんて噂も聞いたぜ?」


 マジか。まあ行けば分かるか。


 相変わらず注目を集めながら私は魔王城へと向かう。どうだろう? あんまり敵意みたいな視線は感じないなぁ。ネルちゃんたちもいるからかな?


 魔王城へ着くと、入り口では魔王様お世話係のサシさんが待っていた。


「ハナさん。どうもお久しぶりですね」

「……今、お時間よろしいでしょうか?」

「はい? どうしました? 今更そんなかしこまる間柄でもないでしょう?」

「あ、いや、その……」


 わざわざ迎えに来てくれたってことは、とりあえず門前払いはされなかったってことでおk?


「門番からハナさんが来たと魔王城へ連絡がありましてね。魔王様がお待ちですよ」


 よかったー! とりあえず話は出来そう。


 ジオさんに連れられて、魔王城内を進んでいく。……なんか初めて来たときより物騒な雰囲気だ。


「すいませんね。ちょっと最近になって人間が色々動いているようで、魔王城もピリピリしているんです。魔王様も流石にお忙しくて、なかなかハナさんに連絡もできず」

「ああ、いえ、お構いなく」


 何とか無傷で魔王様の玉座の間へ到着。サシさんが扉を開ける。


「む、お! おおお! ハナ! 久しぶりだな! 待っておったぞ!」


 相変わらずの筋肉ダルマ魔王様がニコニコ手を広げて歓迎してくれた。


 積もる話はあるけれど、それはいったん置いといて、私は単刀直入に魔王様へ言う。


「魔王軍の手伝いがしたい。というか、ダメって言ってもする!」


 久しぶり、元気してた?的な空気は一瞬で消え去り、沈黙のみが場を支配する。これでいい。私は世間話をしに魔王城へ来たわけじゃないのだ。




「……その申し出を受けると思うか?」

「ダメって言ってもする!」

「そんなことを、ハナに頼むわけにはいかないだろう」

「ダメって言ってもする!」

「反抗期か!」


 そうだよ反抗期だよ! ここで「あ、そう?」とか言って引き返すような、薄情者にはなりたくないね! だって私は、魔王様から受けた恩が大きすぎる。


「正直、人の手も借りたいくらい、人手不足ではあるな」

「じゃあ……」

「だが、我ら魔王軍に味方する。その意味が分かっているのか?」

 

 その覚悟はもう決めてきた。


「……こんなことは言いたくないが、儂はいつか必ず倒されるだろう。共闘する時はそれでいい。共にガハハと笑いながら、人間を片っ端から吹き飛ばしてやればそれでいい。だが、儂が倒された時。ハナよ、儂はハナ一人をこの地上に残すことになってしまう。魔王軍が壊滅した後、人間の攻撃の標的はどこを向くのか、言わなくても分かるな?」


 だから、覚悟は決めてきた。


「ハナはそれを一人で受け止める覚悟と力はあるのか? 儂と共闘するより、これから魔王軍のいない世界で人間と共存する時間の方が、ずっと長いぞ。……それを考えれば、答えは分かるだろう?」

「だから最初から答えは言ってるじゃん! 手伝うし、断っても勝手にやるって!」

「気持ちは嬉しいぞ。凄く。だがな……」

「なんで!? 少しくらい恩返しさせてよ!」

「…………」

「魔王様、私の心読めるよね?」


 散々悩まされてきた能力だ。魔王様は私の心の声を勝手に読んで、いつも私をからかった。


 じゃあ、この決意だって、十分に伝わっているはずなのだ。


 今だって、私の思いを読み取っているはずなのだ。


「強大な戦力が必要だ」

「ネルちゃんとジオさんを呼んだ!」

 

 二人が揃って前に出て、頭を垂れる。


「01だけでは手が足りん」

「ゴブリンさんがいる!」


 ゴブリンさんが前に出て、頭を垂れる。


「なにより兵士がいくらいても足りん!」

「だと思ったから私たちが手伝いに来たの!」


 師匠も姫ちゃんも狼さんも、頭を垂れる。私? 頭なんて下げないよ。だって私は師匠たちと違って、魔王様と臆せずコミュニケーションが取れるのだけが長所だからね。


 みんなに得意不得意がある。基本何でもできない私に唯一出来ること、それはこうして魔王様に臆せず話しかけ、コミュニケーションをとることだ。ずっとそうだ。これだけは他の子たちにはできない、私だけの仕事だ。


「言ったなハナ? もうどうなっても知らんぞ?」

「最初から何度も言ってんじゃん! 手伝うし、断っても勝手にやるって!」

「ハッハッハッ! そうだな。最初から全部伝わっていたさ。思わずこっちの目頭が熱くなるくらい、本気の心がな!」


 こうして、私は正式に魔王軍との協力関係を取り付けた。ようやく恩返しができるのだ。本当にようやく、そして恐らく最後の恩返しだ。


「よし、分かった! 共に力を合わせて、人間どもを千切っては投げ千切っては投げ、骸で立派な、ハナを讃える塔でも建てようぞ!」

「任せてよ、魔王城より立派なやつ建てるから!」


 私は魔王様と笑い合い、ゴブリンさんはルンルンスキップで01さん実験室へ向かい、他の子は戦闘訓練を受けるため部屋を後にする。


 部屋には笑い合う私と魔王様だけが残された。


「ハナよ、感謝する」

「それはこっちのセリフ!」

 

 さあ、かかってこい愚かな人間ども! 絶対に負けてやらないから!

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